2025年1月初め~2025年2月初めの香港株は上昇

2025年1月6日終値~2月3日終値までの騰落率は、上海総合指数は+1.4%、香港ハンセン指数は+2.7%となり、ともに緩やかな上昇となっています。2024年末~2025年初めの中国株は、トランプ大統領就任を前にして、世界的なリスク回避の流れに乗って下落しました。特に中国は経済指標が良くなかったことや、「監督管理当局が上場企業に対して悪材料の公表をトランプ氏の米大統領就任の前に急ぐよう指導した」といった噂まで出たことなどもあります。

しかし、懸念された第二次トランプ政権の大型関税は、(交渉のために)ちらつかせるようなことはあっても、今のところ世界を震撼させるような政策は発動されませんでした。むしろ習近平首席との電話会談が行われ、TikTokの事業継続案についても話されたようで、融和的なムードすらあります。これらのことがあって、2025年年初から警戒によって下げていた世界相場は、トランプ大統領就任前後に買い戻しを巻き込む形で大きく上昇しました。米国以上に欧州、日本、中国が安心感から大きく反発した様子です。

今後もトランプ大統領の過剰な発言によって、過度な警戒感と安心感が交互に訪れるようであれば、2025年の相場は例年以上にボラティリティー(変動)が高まる可能性もあります。実際のところ、2025年年初からこれまでの中国株は前年同期より変動率が大きくなってもいます。

ディープシークショックの衝撃

そして、春節の長期連休直前の1月27日、ディープシーク(DeepSeek)ショックが発生しました。香港市場の取引は堅調でAI関連のハイテク株がよく上昇していました。一方、同日の日本市場では半導体製造装置関連やソフトバンクグループ(9984)など、これまでAI相場を引っ張ってきた銘柄が一斉に大幅安となりました。

その背景は突然出てきた中国のスタートアップ企業・ディープシークの人工知能(AI)モデルが米欧企業の優位性を崩すとの懸念が浮上したことです。ディープシークのAIモデルは米オープンAIなどの先端モデルと遜色ない性能を持ち、オープンソース、つまりソフトウェアの構成基本要素であるソースコードを公開し、再使用、改変、再配布することが可能。開発コストは10分の1以下で、利用料金も30分の1近くの低価格ということが、市場に激震を走らせました。

ディープシークについてはまだ情報が少なく、不確かなニュースも多い段階で、米国の技術やデータの盗用の可能性も報道されています。しかし、技術盗用について調査を任されているマイクロソフト[MSFT]のナデラCEOはディープシークの技術開発について好意的な発言をしています。

もともと米国の半導体規制、具体的にはエヌビディア[NVDA]製の先端チップの輸出規制はほとんど効果がなく、中国のAI企業は米国と差を縮める軌道に乗っている可能性があるのではないかとの懸念は、今回ディープシークが広く報じられる前からありました。また、各種調査機関が出しているレポートには、中国企業は米輸出規制の影響を回避するため、より小型で特化したLLM(大規模言語モデル)を開発しているのではないか。それは計算負荷が低く、構築コストも軽く、国内で開発された低スペックのチップで実行できる。こうした新モデルの先駆者として、具体的にディープシークの名前が挙げられていました。

中国株にとってディープシークショックは投資チャンスの幕開けにも

前述にもありますが、ディープシークにはまだ詳細が分かっていない点も多く、今後どのようにAIセクターに影響を与えていくのかは不明です。ただ、ディープシークがこれまでの常識を覆すような安価なAIモデルを開発できたインパクトは大きいと思います。ディープシークの登場によって「効率的なモデルが少ないコストで開発できるのなら、高価格、高性能のGPUや大規模な設備投資は本当に必要なのか? 投資は回収できるのか?」という疑念が生まれ、実際に米国ビッグテックの株価を1兆ドル暴落させたわけです。

今後、ファーウェイやアリババ・グループ[BABA]、百度(バイドゥ)[BIDU]、バイトダンス、テンセント(00700)などの中国AI関連企業はもちろん、無数のスタートアップ企業も、率先して開発していくことでしょう。

ディープシーク・ショック(革命)によって、今後はファーウェイの供給する低スペックのAI半導体でも、非常に効率的な「混合エキスパート」(MOE)LLMアーキテクチャを使うことで、より小型で特化したモデル作りへと進み、結果として最終需要先である中国の川下のソフトウェア企業にAIが一気に普及する可能性があり、これらの企業は生産性の向上が期待出来るようになります。

また、中国のAI産業全体にとっても重要な意味を持つので、中国政府はこのことを推し進めるでしょう。それはEV化を後押しして世界の車産業図を一変させた姿ともダブります。ディープシークのような企業が「オープンソース」で革新的なAIモデルを開発し、それを中国の川下のテック企業が自社のサービスに組み込むことで、より多くの企業がAIの恩恵を受けられるようになるでしょう。そのことを政府は支援するはずで、そこには大きな投資チャンスもあると思います。