資産の目減りを防ぐための仕組み

資産運用を行う上で機関投資家が積極的に活用している「ある手法」の存在を、皆さんご存知でしょうか。

それは、先物を使った「ヘッジ」と呼ばれる手法です。また「ヘッジ」とは、「リスク回避」のことを指します。またこの場合のリスクとは、主に「値下がりリスク」になります。

例えば、何百億円もの資産を株式で保有しているときに株価が値下がりする要因が発生したとします。この時、個人投資家は保有株を売って値下がりを回避することができますが、資産額が大きくなると売り切った後に買い戻すということは難しくなります。なぜなら、保有額が大きいため、一気に売りに出すと、その売りで株価が値下がりするなど、逆効果になってしまうからです。

また、銘柄数が多くなれば手数料などのコストも無視できなくなります。こうした理由から、資産運用を行っている機関投資家はヘッジを行う必要が出てくるわけですが、そのヘッジに使われているのが、みなさんがよく耳にする「先物」になります。

この先物には、指数に連動する「225先物」や「TOPIX先物」があるのもご存知だと思いますが、この先物を売って株価の値下がり分を相殺することで、保有株を売らなくても資産の目減りを防ぐための仕組みなのです。

ただ、このように機関投資家が行っているというと、「すごく難しいのではないか」とか、「資金が大量に必要だろう」とか、「そんなに大量の株を保有していないから関係ない」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではありません。

個人投資家の皆さんにも、簡単な方法かつ少ない資金で保有株のリスクヘッジができるのです。
 

下落時に活かすリスクヘッジの使い方
 

そこで、「先物を使ったリスクヘッジ」について具体的に解説したいと思います。
例えば、日経225ETF(1320)を100口保有していたとします。

そうしたなか、今年の2月に入って新型コロナウイルスの感染拡大による業績への影響が懸念されるようになり、日経平均は2月25日に終値で23,000円を割り込み、22,605円をつけました。

この時の日経225ETFの価格は23,270円と、23,000円台を維持しており、指数の下落は限定的と見られていたかもしれません。一方で、その後新型コロナウイルスの感染拡大が中国からヨーロッパ、アメリカへと拡大したことに加え、各国が感染拡大を封じ込めるため、ロックダウン(都市封鎖)や入国制限を行うなど、経済活動が停止してしまう状況となり、3月19日には16,552円をつけるなど、日経平均も大きく値下がりする結果となっているのが分かります。

日経225ETFを見ますと、17,100円を終値でつけており、23,270円の価格から、何と6,170円も値下がりし、時価が6,170円×100口=617,000円も目減りしたことになってしまっているのです。

そこでリスクヘッジの出番となるわけですが、前述の225先物を使うのです。225先物にはラージとミニがありますが、今回は少ない資金で始められる日経225ミニ先物を使ってヘッジを行いたいと思います。

ヘッジのやり方はとても簡単です。今回のコロナショックのように、値下がりそうだと考えたときに225ミニ先物を保有資産の時価総額の範囲内で売るだけです。

ちなみに、日経225ミニ先物を1枚売るのに取引所が定める証拠金が必要になりますが、仮に前述の2月25日に売った場合、7.2万円で先物を1枚売ることができたことになります。

では実際に計算してみたいと思います。

2月25日に日経225ミニ先物を当時の価格22,900円で1枚(≒23,270円÷22,900)売り、その後先物の清算値を決めるSQ日(3月13日)まで転売せずに保有した場合、SQ値で自動精算されるわけですが、そのSQ値が17,052円89銭でしたので、(売値22,900円―SQ値17,052円89銭)×1枚×100(サイズ)=584,711円(手数料など必要経費を除く)の利益が出たことになります。

【図表】日経平均株価(日足)
出所:i-chartより株式会社インベストラスト作成

このように、株価が値下がりすると考えたときにとる行動として、リスクヘッジを活用することができれば、保有資産が617,000円も目減りしてしまうところが、584,711円-617,000円=-32,289円の目減りで済んだことになるのです。

先物を使ったヘッジを使えば、損失を限定させることができることに加え、現金化された資金を新たなETFの購入資金にも充当することもでき、資産運用の幅が広がるのではないでしょうか。

ただ225先物を使ったリスクヘッジにもいくつか注意点があります。それは、今回の例に挙げたように、日経平均型のETFや日経平均と連動性が高い日経平均採用銘柄にヘッジ用途が限られるということです。

また、事例では上手くヘッジできましたが、予想に反して株価が上昇してしまい、先物に損失が発生することも考えられます。そのために証拠金は多めに入れておくと同時に、損失が膨らむ前に返済できるよう、逆指値などの注文を入れておく必要があります。

いかがだったでしょうか。
先物を使ったヘッジは株価の下落局面で有効な手段となりますので、ぜひ選択肢に加えておきたいものです。