コロナ禍に伴う非常事態宣言により、外出自粛が続いています。一部地域では非常事態宣言が解除され、自粛基準の段階的緩和が始まりました。しかし揺り戻しなど第2波のリスクを考えれば、早々に「コロナ前の世界」に回帰することは想定し難いと言わざるを得ないでしょう。
テレワークの普及など、コロナ後の世界は明らかにそれ以前の世界とは異なるものになる可能性は否めません。株式市場もパニック的な混乱が一巡し急回復となっていますが、どこかの段階で相当のダメージを受けている実体経済を織り込み始める局面が来るものと想像します。まだまだ真摯にリスクを認識しておく状況は続いているように思います。
一見似ている株価推移、しかしよく見ると・・・
さて、今回の「アナリストが解説、会社四季報データ」では、昨今の外出自粛の影響で利用頻度が急激に上昇している物流業界に注目してみましょう。採り上げる企業は、物流、特に宅配業界においては2大トップシェア企業となるSGホールディングス(9143)とヤマトホールディングス(9064)です。
例によって、まずは上段に記載されている株価チャートを確認します。最新の四季報(2020年春号)によると、過去2年半、実は両社の株価推移はとても良く似ています(SGホールディングスは上場が2017年末なので、比較可能期間は2年半となります)。
しかし、よく見ると違いが2点あることにも気づきます。1つは、株価のピークのタイミングです。SGホールディングスの直近の株価のピークは2019年春、一方、ヤマトホールディングスの株価のピークは2018年秋と、およそ半年のズレがあるのです。
もう1つの違いは、直近の株価の水準です。SGホールディングスは直近のピークからおよそ40%下落となっているのに対し、ヤマトホールディングスは60%程度の下落となっているということです。両社を取り巻く環境には基本的に大きな差はないにもかかわらず、です。
両社の違いから考えられる2つのシナリオ
そして、この事実からは2つのシナリオを考えることができます。1つは、ヤマトホールディングスの株価はSGホールディングスの株価に先行して動いているのではないか、というものです。
ヤマトホールディングス傘下のヤマト運輸は宅配便のパイオニアであり、業界における様々なサービスの先駆けでもあります。したがって、同社の株価が(いい時も悪い時も)他社に先行して動き始めるということは十分に考えられるシナリオなのです。
もう1つのシナリオは、この株価トレンドの差は両社の個別要因に起因するものであり(同じ業界という全体的な共通性はあるものの)、何らかの法則性はない、というものです。
そこで会社四季報の業況欄や業績欄を確認してみると、両社間で業績面でのモメンタム(勢い)にかなり差が生じているように読み取れます。すると、このシナリオも説得力は十分と言えるでしょう。
株価は1つのシナリオだけで語れるほど簡単でないことを考えると、現時点ではおそらくこの2つのシナリオが複合的に影響しているのではと想像できるのです。この真偽の見極めにはもう少し時間を要してより深い分析をする必要があるものの、ひとまずこういった事実と仮説については、両社を投資対象として選別する際に頭に入れておきたいところです。
市場から求められる先進的な取り組み
もう1点、株価チャート欄で注目すべきはPERなどのバリュエーションです。会社四季報によると、SGホールディングスの今期予想PERは14倍強、一方、ヤマトホールディングスは今期予想でPER29倍となります。実におよそ倍半分の水準差なのです。しかも、これは実績PERを見ても明らかなように、ある程度恒常的な水準差であることがわかります。
少し話は脱線しますが、このコラム執筆時点で、両社のPERは実績PERの安値平均をも下回る水準まで沈んでおり、既に歴史的な安値水準にまで調整が進んでいることも確認できます。昨今のコロナ禍の影響を過去の経験則に当て嵌めてよいかどうかは議論のあるところでしょうが、投資を考えるうえでの1つの判断基準になると考えます。
さて、話を戻しますが、そもそもPERは基本的に成長率への期待とリンクすることを考えると(高い成長率への期待が大きいとPERも高くなる)、両社は同じ業界に属しているものの、どうやら期待成長率はかなり違うということが推察できるのです。
これは前述の通り、業界のパイオニアとしてのヤマトホールディングスの先進性を株式市場が積極的に評価しているということなのでしょう。ただし、これはヤマトホールディングスがこの期待に応え続けない限り、現状の高いPER水準は維持できない可能性もあるということになります。
そういった観点から、配送個数の増加や人手不足という業界の抱える問題に対する先進的な取り組みをこの両社のどちらが先に、またドラスティックに解決していくのかは、株式投資という視点においても極めて重要であると言えるでしょう。