みなさん、こんにちは。東京株式市場は依然として高値圏での日柄調整が続いています。
しかし、筆者にはどうも値固めの日柄調整というよりも、やや方向感を欠いたなかで中途半端にバランスを取っているという印象が否めません。この膠着状態は何かをカタリストに大きく方向づけられるとの見方を継続したいと思います。
予想されるカタリストとしては、菅新政権の政策アクション、Go Toキャンペーンの東京除外解除などが挙げられますが、場合によっては衆院解散・総選挙、米大統領選の行方などが加わる可能性もあるでしょう。当面は政治的なイベントが大きな鍵を握ると予想しています。
さて、今回のコラムでは、会社四季報の最新刊(2020年秋号)刊行を受け、その最新の数字を基に再び異業種間銘柄比較をしてみましょう。
JR東日本と三井不動産の共通点
今回は、「東日本旅客鉄道(9020)(以下、JR東日本)」と「三井不動産(8801)(以下、三井不)」の比較を試みます(JR東日本は四季報新刊の直前に業績見通しを発表していますが、ここでは敢えて四季報の数字を基準に説明を進めます)。
何故、この両社を取り上げるかというと、(1)どちらもコロナ禍による大きな影響を直接受けている業態、(2)社会行動様式の変化が今後定着すれば、ビジネスモデルにも影響が生じる可能性がある、(3)株価はコロナ禍前の水準と比較して2~3割低い水準に沈んだままである、といった点で共通しているためです。
この(1)~(2)は十分に推察・予想がつくものであり、(3)の株価もそのような見方が反映された結果ではないかと考えると、株式市場はしっかりとファンダメンタルズに沿った動きをしているということができるでしょう。
とはいえ、投資家としてはどこかで将来への不安を含めたそういった悪材料が織り込み済みとなれば、業績に先駆けて株価は反転・回復に転じる、とも予想します。そこで、両社のどちらにそのチャンスが大きいかを考えてみようというのです。
比較その1:配当利回り
株価の底値を考える上では、まず配当利回りに注目します。配当利回りが高ければ配当狙いの投資資金が入ってきやすく、結果として株価の下値を支えるケースが多いためです。
もちろん、配当額の変動があればその利回りも変化してしまうため、ここでは実績ではなく、会社四季報の予想を基準としたものを用います。
会社四季報最新刊では、JR東日本の配当利回りは1.4%、三井不のそれは2.3%となっています。両社とも配当利回りは銀行預金金利より高く、三井不の利回りはより魅力的な水準にあると言えます。これを見る限りは、株価の下値の堅さという観点では三井不に軍配が上がることになるでしょう。
比較その2:業績状況
では、ファンダメンタルズ面ではどうでしょうか。JR東日本の場合、緊急事態宣言に伴って人の移動が極端に低下した後、現在は(依然としてコロナ禍再燃のリスクを抱えつつも)徐々にその状況は緩和され始めています。Go To トラベルキャンペーンなども追い風になっているのかもしれません。
コロナ禍を契機にリモートワークが浸透したため、通勤・通学の需要がかつての水準に戻ってこない可能性もありますが、春先のような最悪期は脱してきたと言えるでしょう。会社四季報でも、JR東日本は今期を赤字転落としていますが、来期は急回復して大幅な黒字転換を予想しています。
一方、三井不の場合は、JR東日本に比べて業績面では底堅いものがあります。ホテル稼働率の低下などはありますが、大家としての賃貸収入は堅調で、会社四季報では今期の落ち込みも電鉄より遥かに小幅な水準にとどまる見通しであることが確認できます。
しかし、リモートワークの浸透やテナント企業の業績悪化に伴うオフィス賃貸料の引下げの影響はまだ顕在化していません。会社四季報の業況コメントでも「足元でのテナント解約や賃料減免は限定的」とされており、その先の影響についてはまだ十分に織り込めていない様子がうかがえます。
会社四季報が来期の見通しにこれらの影響をどれだけ織り込んでいるかは不明であり、まだ悪材料が残っている可能性も否めないと考えます。このような観点からは、JR東日本の方に業績安心感があると言えるかもしれません。
すなわち、株式市場で三井不の配当利回りが高いのは、将来への不安から配当の減少リスクを織り込んでいる可能性があるためと言えるでしょう。一方、JR東日本の配当利回りが相対的に低いのは、業績最悪期を越えたことで業績面での安心感が下支えしているためだと考えられます。
選択の軸によって判断を
会社四季報からは、このような株式市場の見方を読み取ることもできるのです。
仮にこの見方が正しいとするならば、どちらもかなりの悪材料を織り込んでいるなかで、手堅い投資を考えるならば配当利回りの高い三井不を、業績回復ピッチへの期待というならばJR東日本を、という選択になるのでしょう。
選択の軸をどこに置くか。これは読者の皆さんの個々の判断に委ねたいと思います。