みなさん、こんにちは。株式市場は高値圏での日柄調整を続けています。上値を追う力強さは見受けられませんが、かといって株価が崩れそうになる下値不安感も現在のところ感じられません。
安倍首相退陣の報でショック安こそあったものの、すぐに値を戻すことになりました。市場は、ワクチン開発や経済活動再開への期待と足元の景気の悪さとの綱引きで一進一退の状況を形成していると言えるでしょう。
とはいえ、筆者はこの全体的な膠着状態もそろそろ終盤戦かと考え始めています。ハイテク分野では株価に過熱感が否めなくなってきたところで、今後目白押しとなる政治的なイベントが大きく方向性を変えるカタリストになり得ると想定しているためです。当面はこれらの影響をある程度予想しつつ、状況を見極めていきたいと考えています。
さて、今回のコラムでは、ぜひ触れておきたいデータを取り上げて解説してみたいと思います。内容的には基礎編に一旦戻るような形となるのですが、「会社四季報」2020年秋号の刊行が迫ってきているこのタイミングで、一度言及しておきたいと考えた次第です。
従来の銘柄比較を通じた応用編は、2020年秋号の刊行後にその最新の数字を使って再開したいと思います。
「ネットキャッシュ」と「手元流動性比率」で企業の資金繰り余裕度を確かめる
ここで取り上げるデータは、書籍版であれば左端中段に記載される「特集欄」です。株価欄の下、業績欄の上という位置にあります。夏号では「ネットキャッシュ」と「手元流動性比率」が記載されていたことに気づいた方もいらっしゃるでしょう。
この特集は実にタイムリーで、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言によって経済活動が停滞する中、「どの程度企業の資金繰りに余裕があるか」を示すわかりやすい指標となりました。
企業にとって資金繰りは死活問題と言えるほどに重要で、資金繰りが行き詰まれば黒字決算下においても倒産に至ってしまうことはよく知られている話です。コロナ禍における経済が停滞している状態は、まさにそういった事態の発生が危ぶまれていたのです(こういった危機的状況は現在も少なからず継続しています)。
「ネットキャッシュ」と「手元流動性比率」といった資金繰りの余裕度を数字で確かめることで、これら数値が大きな企業は突然死リスクが小さく、安全度が高いという判断ができます。コロナ禍という異常状態下において、これらは株式投資における銘柄選択を考えるうえで、非常に有用なデータなのです。
資本市場的視点では歓迎されない過剰な手元流動性
しかし、そもそも過剰な手元流動性というのは資本市場的視点では決して歓迎されるものではありません。それは、現金そのものは利益を生む資産とは言い難く、(せいぜい僅かな金利程度の利益)、「収益の最大化を責務とする企業は余剰現金があれば、それをより儲かる分野への投資に最大限振り分けるべき」と位置づけられているためです。
むしろ、「投資をせずに現金を抱え込んでいる企業は、(金利程度しか利益を産まない)現金に勝てるような有効な投資先を見出せていない」、「本来、使い途のない現金は配当や自社株買いなどで株主に還元すべきなのに、それもしていない」といった見方がなされる傾向すら否めません。
実際、現金以上のリターンを期待できる投資先がないということであれば、今後の成長性は乏しいと経営陣自らが認識し、経営に白旗を掲げていると認識されても仕方ないことでしょう。実は、名だたるアクティビストたちの主張もこの視点に則った論陣が非常に多いのです。
経済再開が進むにつれ、手元流動性の見方も変わる
上記の考え方はコロナ禍によって一旦棚上げされた格好になりました。資産活用といっても突然死リスクがある中ではその優先順位が下がるためです。そういった中、徐々に経済は再稼働を始めました。政府も資金繰り支援のための安全ネットを経済対策によって講じ、突然死リスクは春先に比べるとかなりコントロールされるようになってきたようです。
それに伴い、今後はこの「ネットキャッシュ」や「手元流動性比率」なるデータも緊急措置的水準から(コロナ前の水準とまではいかないにしても)、徐々に低下し始めることと予想します。「潤沢なほど安心」とされた手元流動性への受け止めにも、そもそも論的な従来型の見方が復活してくることでしょう。
今後は経営陣の成長に対する姿勢が重要な局面に
リスク回避に積上げた手元流動性を原資として、「今後それらをいかに有効活用するか」が問われることになるとの考えです。しかし、現在を好機と捉えて果敢に資金を投じ、成長加速を指向する企業も出てくる一方、コロナ禍の逼迫した経験から安全性を重視するあまり、ややもすると成長投資への意欲を失ってしまう企業も少なからず出てくる可能性も否めません。
今後しばらくで、企業が成長に向けてどのような姿勢で臨んでいるか、経営陣がどれだけ前向きな姿勢を崩さずにいられるか、といったところで差が如実に現われてくることでしょう。
株式投資における銘柄選択を行ううえで、筆者は現在ほど経営陣の成長に対する姿勢が重要な局面はないと考えています。