新型コロナウイルスの影響はまだ終わりが見えない状況です。医療崩壊の危機が迫る中、なんといっても医療関係者の方々の懸命な努力には感謝と敬服しかありません。

それに併せて緊急事態が宣言され、人との接触を8割も削減することが求められるようになりました。自宅に籠る生活は大変ですが、事態の早期沈静化のためにも、また医療関係者の頑張りに報いるためにも、なんとか凌いでいきたいところです。

株式市場は読み通りに反発となった後、もみ合いの展開が続いています。外出自粛により経済面ではかなり大きなブレーキがかかった状態です。しかしながら、これを経済対策などの巻き返し策が下支えしている格好と言えるかもしれません。

当面はこの構図がまだ継続するのではないかと筆者は感じています。懸念しているのは、経済面の悪影響が予想以上(一旦織り込んだと思える水準以上)に下振れするリスクです。戦争状態という言葉を使うメディアも出て来ました。この辺りは真摯にリスクを認識しておく必要があるように思います。

企業の特性を把握することで、将来の投資機会に備える

さて、今回も「アナリストが解説、会社四季報データ」コラムでは電子部品業界に注目し、電子部品業界の雄たる京セラ(6971)と村田製作所(6981)の比較を続けてみましょう。

前回は、両社の株価推移やPERなどのバリュエーションを用いての割安割高といった、投資を主たる視点に据えた比較でした。今回はそういった株式投資とは一線を画し、両企業の特性把握を試みてみたいと思います。

これは以前に自動車編でも試みた比較と同様のものです。こういった分析は株式投資には直接的にリンクしませんが、会社の状況を理解し確認すること、そして、その理由や背景を想像して考えることは、将来の投資機会に備えるという意味で非常に重要であると筆者は考えています。

実際、ベテランのファンドマネージャーは往々にして、会社の様々な特性(利益動向や株価のクセ、さらには経営スタイルなど)を知り尽くした「得意銘柄」を少なからず持っているものです。彼らはもちろん投資妙味のある新規銘柄を次々と発掘することが求められますが、それは百発百中とはいきません。

そのため、その一方で手堅く稼げる得意銘柄にも目を配っているのです。そういった得意銘柄を幾つ抱えることができるかが、ファンドマネージャーの懐の深さに繋がると言えるでしょう。当然、これはプロのファンドマネージャーにとどまらず、全ての投資家にも当てはまるアプローチであるようにも思われます。

キャッシュフローから手堅さが垣間見える京セラ

筆者が企業の特性を把握するためのチェックポイントはやはりキャッシュフローです。株価は業績(見通し)に理論上リンクしますが、その業績のある意味では先行指標になるというのがキャッシュフローであるということは、先の自動車編でも指摘した通りです。

では京セラ、村田製作所におけるキャッシュフローはどうなっているでしょうか。最新版(2020年春号)の会社四季報によると、直近期の京セラの営業キャッシュフローは2,200億円、設備投資など将来のために使った投資キャッシュフローは471億円でした。差し引き1,729億円が会社の自由に使えるキャッシュである「フリーキャッシュフロー(FCF)」として手元に残った計算になります。

さらに、その前年のFCFも1,000億円超の規模にあり、潤沢なキャッシュを順調に捻出できていることがわかります。財務欄を見ると同社の有利子負債に数字の記載はないので(実際には若干存在)、FCFを借金返済に回す必要もありません。

増配による株主還元を進めつつ、同社はそのまま財務体質の強化を進めているということができます。ここからは、手堅い経営というイメージが湧いてくるのではないでしょうか。

強烈な攻めの姿勢がうかがえる村田製作所

一方、村田製作所は、営業キャッシュフローが2,798億円、投資キャッシュフローは3,037億円と、差し引き239億円のキャッシュが手元から流出していることが確認できます。その前年のFCFは311億円のキャッシュ黒字であったことを考えると、2年間トータルではほぼ手元キャッシュが均衡していたということになります。

同社の有利子負債は2,132億円と記載がありますから、投資を抑制して手元流動性を確保しておきたい、借金を返しておきたいと考えるのが自然でしょう。しかし、同社はそういった選択をせず、積極的に投資にお金を費やしていることがわかります。

しかも、本業で捻出したお金を、ほぼそのまま将来のための投資に回しているのです。ここには世界トップのセラミックコンデンサメーカーとして、強烈な攻めの姿勢がうかがえると言えるでしょう。

前回のコラムでは株式投資の視点から、京セラに下値の底堅さが、村田製作所には業績拡大局面においての投資魅力度が、それぞれあるとの見方を提示しました。実際、両社のキャッシュフローからは、手堅い京セラ、攻めの村田製作所と言う特性が垣間見え、株式市場も会社の特性にかなり敏感に反応していることがわかります。

銘柄選択においてはどうしてもチャートやバリュエーションなど目先のデータに注目してしまいがちですが、各企業の持つ特性をしっかり把握しておくこともまた、銘柄選択には有効な分析となるのです。

自宅で過ごされる時間が増える今日この頃は、会社四季報からこういったデータをじっくり拾って考えてみるよい機会かもしれません。