ドル不足によるドル高は終わった?
世界の株式市場が急落した3月、為替市場では猛烈なドル高が起こりました。株やゴールド、米債に至るまであらゆるリスク資産を売って現金化する「換金売り」が加速。一気にこの動きが広がったため、現金(米ドル)需要が高まり「ドル不足」という言葉が市場を駆け巡りました。「有事のドル買い」と呼ばれるドル高が為替市場を席巻したのです。
FRB(米連邦準備制度理事会)による緊急利下げや無制限QE(量的緩和)などの財政出動政策を迅速に発表したことが功を奏したのか、マーケットの混乱は一服しています。足下では株などの資産をキャッシュ化する動きが一服、ドル不足状態も緩和され、ドル独歩高となる動きも止まったかに見えます。
バラマキによってFRBのバランスシートは過去最大に膨張しており、マーケットが平常に戻れば今度はドル安がやってくる、という見通しも増えてきました。為替市場はドル安方向に舵を切るのでしょうか。
新興国債務ショックも?!
今回の金融市場の混乱の原因は「新型コロナウイルスが市場に与える影響が大きかったこと」と「原油価格の急落」です。まだどちらの問題もクリアになったわけではありません。米国や諸外国等において迅速な金融政策と財政政策が打ち出されたことで一見リスクは後退したように見えますが、水面下では粛々と「新興国通貨」の売りが続いています。
米国の主要都市がロックダウンされた状態では、先進国経済の回復シナリオは描けないばかりでなく、トルコやメキシコ、南アフリカなどの新興国では、3月下旬から感染拡大が加速してきています。新興国通貨に対してのドル高はむしろ加速しているのです。
近年、次なるリスクとして指摘されてきたのが世界の債務残高です。世界全体の債務残高は2019年4~6月期には250兆9000億ドル(約2京7200兆円)と、過去最高に膨れ上がっています。
特に新興国・途上国における債務残高は8年連続で拡大を続けた結果、2018年時点で過去最大の55兆ドルに達しています。金融危機後は特に新興国の企業が急速に対外債務を積み上げており、新興国の企業部門債務の対GDP比は2014年に先進国を追い抜いて90%台に達しました。
足下では世界的に過去最低水準の金利となっているため、この債務がすぐにリスクにさらされることはないとみられますが、政府債務の水準が高い国は、財政刺激策に頼るのが難しくなるというリスクを孕んでいます。
こうした中で、新型コロナウイルスの感染拡大による経済の停滞、減速を強いられる状況に追い込まれており、米国がいくらドルをばら撒いても、信用力の弱い国からの資金の引き上げは避けられないと思われます。新興国からの資金流出が止まらず、債務問題にまで発展すれば新たなショックの引き金にもなりかねないのです。
新興国の新型コロナウイルス問題の現状と、債務、通貨について
【南アフリカランド】
南アフリカは3月27日から4月16日までの21日間にわたる全国規模のロックダウンを発表しました。
米国の格付け大手ムーディーズは3月27日、南アフリカ共和国の長期債務格付けを「投資不適格級」となる「Ba1」に格下げし、見通しは「ネガティブ」のままとしています。これによりWGBI(World Government bond Index=世界国債インデックス)から除外されることが決定しました。南アフリカ国債の売り、通貨ランドの売りが断続的に出てくる状況となっています。
【メキシコペソ】
メキシコでも新型コロナウイルス感染者の拡大が懸念されていますが、加えてメキシコは産油国でもあるため原油価格下落の影響も受けます。格付け会社S&Pグローバル・レーティングは3月26日、メキシコのソブリン格付けを1段階引き下げ、「BBB」とすると発表しています。原油価格低迷が続けば、メキシコペソの反発は期待薄です。
【トルコリラ】
トルコにおける新型コロナウイルスの感染者数は3月下旬から指数関数的に急増しており、累計で20,000人を突破してきました。イスタンブールや首都アンカラを含む31の都市で、市外との車両の出入りを原則として禁止しており、経済の停滞がトルコリラ売りにつながっています。
ただし、原油の輸入国であるトルコにとって原油安の長期化はトルコ経済にとってプラスとなる側面もあります。新型コロナウイルス問題の収束が見えてくる頃まで原油安が継続していれば、トルコリラへの投資は検討の余地があると考えられます。