国際金融協会は世界経済の成長率見通しを大幅下方修正

世界的な新型肺炎の感染拡大を背景に、先進国の株式市場は2月21日以降下げに転じ、ダウ工業株30種平均で見ると800~1,000ドル近い値動きを見せる荒っぽい展開が続いている。

実際、新型肺炎感染拡大は勢いさえ感じさせるほどで、3月5日には、英国で初の死者、南アでは初の感染者が出たほか、イタリアでの感染者は3,858人と急増し、死者は148人に達したと当局が発表した。WHOはパンデミック(世界的な大流行)をまだ宣言していないものの「パンデミックの脅威が非常に現実味を帯びてきた」としており、その経済的な影響を不安視する見方も強まっている。

国際金融協会(IIF)は、2020年の米国経済の成長率見通しを1.3%と従来の2.0%から引き下げ、中国経済についても5.9%から4.0%弱に大幅な下方修正をした。 世界経済の成長率についても、昨年の2.6%を大幅に下回り1.0%近い水準になる可能性があるとした。これほどまでに懸念が拡大すると、株価の下落も致し方ないという感触を持たれる方も多いだろう。

新型コロナウイルスの発生地である中国株市場は好地合いに

しかし、意外にも他国との比較において、好地合いの様相を呈している株式市場がある。中国の株式市場である。新型コロナウイルスの発生地であるにもかかわらず、比較的とはいえ好地合いとはどういうことだろうか。

中国では、政府の経済政策に対する期待感、中国人民銀行(中央銀行)への政策金利引き下げ期待や財政/金融両面で大規模な政策が展開されるとの思惑が強まっていることが、その背景にある。

新型肺炎の感染拡大により、中国では今年1~2月にかけて景況感が極端に低下した。中国政府には、失った需要の創出は非常に重要との認識があるようで、中国共産党は、3月4日に中央政治局常務委員会を開催し、新型肺炎の予防・抑制と経済・社会運営の安定に向けた重点的取り組みについて議論した。

この会議の場で、冷え込んだ内需を回復させるため、インフラ建設の推進をペースアップさせることや5Gネットワークの構築を加速させること、消費を拡大させるための施策を打つことなどの方針が示された模様である。これが政策発動期待に繋がっている。

経済活動の正常化も期待されている。中国では、発生源の湖北省武漢市を除いて、新型肺炎の感染拡大ペースが目に見えて落ち着いてきており、各地で移動制限が緩和されてきている状況である。戦争や災害とは異なり、生産設備が失われたわけではないので、労働者が戻ってくれば、工場の操業再開が可能になるということは確かだろう。

また、新型コロナウイルスの発生源とされる中国湖北省武漢市でも、中国当局の専門家は、3月末までに新たな感染者がゼロになるとの見方を示したという情報も伝えられている。中国メディアは、新型肺炎との闘いに勇敢に挑む政府といった戦略的な報道を盛んに行っている。

実体経済以上に株価が上昇する傾向に注意

中国株の代表的な指数であるCSI300指数で見ると、3月5日の終値は4,206と、2018年2月以来、約2年ぶりの高値引けだった。今年1月は確かに、新型肺炎の感染拡大による影響を懸念して、高値4,203(1月13日)から、安値3,688(2月3日)まで大きく下落した。しかし、約1ヶ月で下げた分の値幅を戻していることになる (いずれも終値ベース) 。

CSI300に採用されている銘柄は金融株のウエイトが大きいのでその影響もあるが、戻り相場の際の牽引役となっているのが金融株である。そして、消費小売関連株も戻り相場の際には値を急速に戻している。そうした中で、白酒メーカー最大手の貴州茅台酒などは消費関連株の代表格であると言える。その他、政府の政策を反映して医薬株のほか、インフラ関連で発電、資源・素材株、ハイテク関連にも買いが入ってきている状況である。

過去の例でも、中国の株価は、政府の政策に敏感に反応してきたということも理由としてあるだろう。中国人民銀行は、不動産市場のバブル化を恐れながらも段階的に金利を引き下げてきており、実際に短期金利の水準は低い。産業別に的を絞った支援策を打ち出すことも多いので、実体経済以上に株価が反応して上昇する傾向もあることには注意が必要だろう。

新型肺炎の感染拡大が、いつ落ち着くのかは、未だに先が見えない。しかし、中国株の動きを見ると、新型肺炎の感染拡大を封じ込めたあとのシナリオも、描いておくことは必要なのではないだろうか。