4.安倍政権の退陣
よその国々に比べれば日本の政治の安定度は高いと見られているが、果たして本当だろうか。安倍首相は先日のNHKのインタビューで「まだ1年9カ月もある。燃焼し尽くす決意で臨んでいきたい」と語った。来年9月の自民党総裁の任期切れまで降板はないという意思表示だ。だが、それ以外の選択肢も二つある。今夏のオリンピック・パラリンピック閉幕後に勇退するか、自民党総裁任期の延長かである。安倍首相がその気になって望めばどちらも可能だ。マスコミは勝手な勇退説を書くし、自民党の議員も希望的観測なのか自分の立ち位置をアピールする目的なのか分からないが、これまた勝手な総裁任期延長論をあえてぶったりする。しかし、首相の腹づもりは首相にしか分からない。そしてマーケットにとっては分からないことがリスクだ。
「それ以外の選択肢も二つある」と述べた。「選択肢」だから自分で決められるオプションである。シナリオはもう一つある。自分で選択できないシナリオ - すなわち退陣に追い込まれるリスクシナリオである。政治の世界は「一寸先は闇」である。何が出てくるかわからない。先年の「モリ・カケ」もそうだったが昨年は「桜を見る会」、そして足元ではIR汚職だ。政権が長く続くと<たが>が緩むのかもしれない。本来は敵失を利用して攻撃すべき野党が一向にまとまらず敵に塩を送る格好になっているから助かっているようなものだ。繰り返すが<たが>が緩んだ政権からどんな醜聞が飛び出すか、一寸先は闇である。アベノミクスが意図して終わるか、あるいは意図せざる終焉を迎えるか、どっちに転んでもマーケットのリスクであるには違いない。
5.衆院解散・総選挙
上記とも関連するが、オリンピック終了後辺りにぶつけてくるかもしれない。安倍首相の自民党総裁任期は来年9月30日まで。衆院の任期満了は来年10月21日。それこそ「選択肢」が限られる前に伝家の宝刀を抜くだろう。そう考えれば衆院任期の1年前、今年の秋がいいタイミングだ。オリンピック後の景気の不透明感を考えれば、まだ世の中に五輪熱気が残るうちが安全パイという考え方もできる。その直後が米大統領選だ。今年の秋は日米の選挙で相場が大きく動く可能性がある。
6. 長期金利の上昇
誰も金利は上がらないと思っているので、予期せざる金利上昇はリスクになる。特に米国株のバリュエーションが切れ上がり、20倍を超えた場合(そしてもう少しで超えそうである)、益利回りは5%。許容できる金利水準は2%までだ。もうあと10数bpsしかない。
従前から何度も繰り返している通り、イールドスプレッドが3%を割ったら株は割高だ。2018年の2月(いわゆるVIXショック)と10月(その年のクリスマス暴落の起点)にイールドスプレッドは3%を下回った。その直後、米国株は大暴落となった。
長期金利2%というのは通常ならむしろ低すぎる水準だ。米財務省は今年上期に20年債の発行を予定している。現在のカネ余りとイールドハンティングを考えれば、旺盛な需要があり簡単に消化されるだろう。しかし長期債の新規発行は拡大する財政赤字に対応するもので、需給面と財政赤字に対するリスクプレミアムの観点から長期金利に上昇圧力がかかるのは間違いない。
7.ミニ・バブル資産クラスの調整
上述した金利上昇があれば、ひとたまりもなくクラッシュするであろうものの筆頭は、バブル的色彩を強めている資産クラスの証券である。赤字なのに買い上げられている米国株、低格付けなのに買われているジャンクボンド(ハイイールド債)などだ。
8. インフレの高まり
これもみんな「ない」と思っているだけに、リスクである。米国の失業率の低さと人手不足を考えれば、いつまでも物価が低位安定する保証はない。
9. 地政学的リスク
米国とイランの年初の対立は当面収束したが、根本的な構図は変わっていないため、いつまた緊張が高まるか分からない。中東はサウジ、イスラエル、シリアなどずっと火種が残っている。東アジアにとっては北朝鮮の暴発リスクも残る。
10.自然災害
これは2020年のリスクというより、常にあり続けるリスクであり不確実性だが、昨年の台風や豪雨の被害を考えれば、年々気候変動リスクが高まっていることは明らかで、今年も警戒して、し過ぎるということはない。今日で阪神淡路大震災から25年。地震のリスクも無論である。
>>(前編はこちら)「2020年の10大リスク ブラックスワンは何か?」