「老後2,000万円」根拠となる資料の中身

老後2,000万円問題の数字の独り歩きについて書いてきましたが、そもそもこの数字は金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第21回)の配布資料内にあります(以下、抜粋)。

【65歳で退職後の30年、世帯で月25万円の生活費を支出する場合の試算】
30年間の支出:9,500万円 ~1億1,000万円
・退職後の生活費 9,000万円 (24.8万×12月×30年)
・住宅の修繕費、医療費、 車の買換え費等 500万円~1,000万円
・介護費用 0~1,000万円

30年間の収入:
A)公的年金 (基礎+厚生年金) 8,000万円
(22.1万円×12月×30年)
B)退職金・ 私的年金 1,000万円~2,000万円 (2.7~5.5万円×12月×30年)(退職金+確定給付年金 or 企業型DC or iDeCo)
(減算項目) 住宅・教育ロー ンの返済 ▲1,000万円 ~ 0
C)資産形成額 1,500万円 ~ 3,000万円 (4.1~8.3万円×12月×30年)

「退職後の30年、例えば月25万円の生活費及びその他費用(住宅・医療等)を支出するとした場合、公的年金に加え、退職金や私的年金の受給に加え、1,500万円~3,000万円の資産形成を行うことが想定される(A+B+C)」

「退職金や私的年金の受給予定がない場合は、例えば、月25万円の生活費を支出するとして、1,000万円~2,000万円程度の資産形成を行うことが想定される(A+C)」 (原文のまま)

退職金・私的年金のない場合に資産形成額が少ないのは生活費以外には支出がないことを想定したからでしょうか…?ちょっとわかりにくいですが、いずれにせよ、ここから2,000万円が老後に必要な金額と騒ぎになったわけですね。

総務省家計調査でも不足額はほぼ同じ

興味深いことに、同時に配布された厚生労働省提出資料(総務省「家計調査」(2017年) )には、家計収支の月平均額について以下のものがあります。

【高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯)の収入・支出】
実支出:263,718円
実収入:209,198円(社会保障給付191,880円+勤め先収入等その他)

「高齢夫婦無職世帯の実収入と実支出との差は、月5.5万円程度となっている」

2つの資料の前提としている金額は違うものの、最終的に月々の不足額はいずれも5万円ほどと見積もっています。

どちらの資料も受給する年金は厚生年金、つまり現役時代は会社勤めをしていたことが前提となっています。つまり自営業者などの第1号被保険者(国民年金)は、この試算よりももっと厳しい条件になります。

老後の生活水準維持に運用の利回りを上げる検討を

つい先日の日本経済新聞に掲載されていた「老後のお金試算、備え促す 相次ぐ民間調査」という記事では、生活水準維持に高額の資産が必要だという調査結果を報じています。民間調査機関による独自の試算では、当然のことながら、現役時代の世帯年収に比例して生活水準維持費は高額になり、世帯年収が高い世帯においては、生活水準維持に必要となる老後資金は2,000万円では済まないという調査内容でした。

誰の責任と騒いだところで、老後問題は待ったなしです。できることは、早めに準備を始めておくこと。まずは自身の生活水準も考えた上で、老後に必要なお金はいくらくらいなのか、各試算に惑わされずに計算してみることです。

現在の年齢(どれだけの運用期間)、運用に回せる金額によって、その目標金額に到達するために必要とされる利回りは変わってきます。少しでも早く、多く資産を増やしたいとなれば、利回りを上げるような運用をするしかありません。

税制優遇のあるiDeCoにせっかく加入している方であっても、残念ながら、運用先は預貯金や保険といった元本確保型商品への偏りが大きいケースがあるようです。超低金利での元本確保型の運用ではお金が増えていくことはほとんど期待できないのが現実です。

ちなみに年代別にiDeCoの運用構成をみると、若年層ほど投資信託の割合が大きくなっているとのこと。徐々にですが、特に若い世代は運用の必要性を自らのものとしているようですね。

リスクとリターンは対になり、無リスクの高リターンはあり得ません。もちろん、リスクを高めればリターンが上がるわけではなく、大きな損失につながる可能性も同時に高まるということは、初歩的なことですが、もう一度しっかり確認しておきましょう。

リスクを取らなければお金を増やすチャンスはありませんが、同時にリスクを取り過ぎない、その種類を偏らせない、その方法には基本的なポイントがあります。

字数の関係もあり、具体的な方法等については次回に続けたいと思います。