今の市場はファンダメンタルズを無視している。無理もない。米国発の貿易戦争の行方が相場の重石となっている。それに加えて、台風21号、北海道地震と災害が続き、センチメントが悪化している。貿易摩擦と災害で一時ドル高に振れたドル円相場も再び円高に押し戻された。

しかし、先週のレポートで述べた企業業績もそうだが、マクロ環境も続々よくなっている。典型は米国のISM製造業景気指数。2004年5月以来、およそ14年ぶりの高水準となった。これを受けてドル円は111円台半ばまで上昇し、その後ドルの高値は111円台後半まであった。ところが日経平均と為替は夏ごろから乖離している。年初からの為替との関係で見たら今頃は2万3000円台半ばくらいでちょうどいい。

 

米国経済は強いので今週末の雇用統計も強い数字になるだろう。昨日の「雇用統計プレビュー」レポートで述べた通りだが、ISMの中身の雇用指数が58.5と前月の56.5から2ポイント上昇し6カ月ぶりの高水準となった。6か月前の2月はNFP(非農業部門の雇用者数)が30万人超の大幅増加となった月である。ISMの雇用指数を参考にすれば、今週末のNFPも大幅な上振れが期待できる。ドル円が112円くらいになればさすがに日本株も買われてこよう。

もうひとつ、市場が無視した材料は月曜日の法人企業統計。設備投資が12.8%も伸びた。これはリーマンショック前の11年ぶり水準だ。これが何に影響するかと言うと、来週月曜日のGDP改定値。1次速報は1.9%だったが、これが上方修正されるのはほぼ確実でエコノミスト予想の平均は2.6%。これだけでも高い伸びだが、中には3%という予測もある。

従前から景気動向指数と日経平均の推移を示している通り、(当たり前だが)株と景気の関係は連動性が高い。最近は景気がもたついていたことも相場が冴えない背景だった。

 

業種別時価総額の上位を見ると、電機、自動車、情報通信、化学、銀行、機械と並ぶ。日本株は景気敏感業種のウェイトが高い。GDPの上方修正が景気敏感な日本株の浮揚材料になるだろう。

ただし、問題はこの夏の異常気象で相次いだ災害が7-9月の景気にどのような影響を及ぼすか(及ぼしたか)が、まだはっきりしない点だ。しかし、4-6月に持ち直したことは確かで、それを相場は織り込んでいない(だから一旦、織り込むべきである)。

今日の日経新聞が伝えた通り、大手証券3社ならびにQUICKの上場企業の今期経常利益は判で押したように11%増益で並んだ。今の相場の水準は、決算が出そろって今期は微減益という見方で発進した5月末と同等の水準だ。今期の業績が1割伸びると市場関係者が考えるなら、少なくともここから1割上(=2万4000円台半ば)の株価をつけておかしくない。

トランプ政権が中国に対して2000億ドルもの制裁関税を発動することを、市場は喫緊の懸念と捉えている。であれば、実際に発動されれば材料出尽くしでアク抜けするのではないか。そうなれば、日米の景気・業績といったファンダメンタルズの改善に目が向くだろう。

なお、本日の日本株の大幅安(10時現在225円安)の要因として日米通商摩擦の懸念が指摘されている。

以下、日経電子版の報道。

6日の米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)によると、トランプ大統領は安倍晋三首相との関係が良好とするものの、米国が求める貿易赤字の削減額を日本に伝えれば「その関係は当然すぐに終わるだろう」と述べた。通商問題を巡る強硬姿勢が日本に向かうとの警戒が強まった。

日米通商問題についてはFFRで議論している。9月に2回目をやる。みんな忘れているが1回目はどうだったか。それを報じた日経新聞の見出しは「日米貿易協議、全面対立は回避」であった。市場が懸念したような強硬的な会合にならなかった。

以下、日経新聞から引用。

茂木氏はその後の記者会見で「日米は信頼関係に基づき協議を続けていく」と述べた。政府関係者は「この文言を入れた意味は米も分かっている。協議中は自動車関税上げなど信頼に背くことはしないということだ」と解説する。協議前には米国から「FTA交渉入りを拒否するなら自動車関税を引き上げる」と突きつけられる最悪の事態まで想定していた。ところが、自動車関税について日本政府からは「前進した」との声も漏れた。

トランプ大統領が何を言おうと、実務レベルでは然るべきところに落ち着くだろう。トランプ大統領の発言は支離滅裂で思い付きをポンポン言うだけ。トランプ氏の発言に振り回されるのではなく、実際の交渉の行方を見るべきだ。

ファンダメンタルズの改善を市場は無視することが往々にしてある。悲観心理が事実から目を背けさせる。しかし、そうしたところが絶好の買い場であった。過去何度も体験してきたことだから、いまさら言うまでもない。