「疾風に勁草を知る」というタイトルのレポートを書いたのは2015年6月だった。日立製作所をフィーチャーし、また富士フイルムを「勁草」の代表例と取り上げた。
危機に直面してこそ真価が問われるという意味の「盤根錯節に逢わずんば何をもって利器を分かたんや」という言葉も併せて記した。
日本株市場に怒涛のような疾風が吹いている。NYダウの665ドル安を受けて始まった先週月曜からの下げ幅は2000円を超えた。しかし、この間に逆行高している銘柄がわずかだが存在する。強い風になぎ倒されることなく、しっかりと立っている草が「勁草」である。日本株市場に吹いている疾風は、どの企業が「勁草」であるのかをわれわれに教えてくれる。
日経平均を構成する225銘柄について、2/2を起点として2/14の終値までの騰落率上位10社を見ると、トップは資生堂の+8%。2位が東海カーボンで、以下、協和発酵キリン、三菱重工、SUBARUとここまでがプラスリターンだ。好決算で大幅高した5位の宇部興産は行って来いで、この期間中のパフォーマンスはちょうど0%だった。
三菱重工、SUBARUは昨年来パフォーマンスが低迷したことの反動、リターン・リバーサルか相場急変時におけるショート・カバーの影響だろう。2位の東海カーボンは材料株物色の色彩が強く継続性が疑問。それらに比べると、1位の資生堂はどこからみても間違いなく本物の「勁草」である。
生え抜き主義から決別し外部から登用された魚谷社長のもとでの改革が花開いた。これまでは販売店に商品を押し込むだけの「セルイン」で終わっていた。そこから最終顧客に商品を届けるという「セルアウト」への意思改革。コストを減らすのではなくトップラインを伸ばすためのマーケティング・研究開発への投資を大幅に増やした。こうしたことが結実し、売上高1兆円の目標を3年前倒しで達成、いまは日本、欧米、アジアすべての地域で売り上げが伸びている。8日に発表した2017年12月期の決算で営業利益は804億円と約10年前に記録した最高益634億円を大きく上回った。増配も発表し、株価はこの下落相場のなか逆行高で5連騰して最高値を更新した。
この厳しい相場のなかで、これだけのパフォーマンスを挙げるに足るファンダメンタルズの裏付けをもった銘柄である。資生堂は3月5日に新しい中期計画を発表する。その際に業績予想も発表する。更なる高値追いの契機となりそうだ。
冒頭で「疾風に勁草を知る」のレポートを書いた日付 - 2015年6月 - をわざわざ記したのは、それがコーポレートガバナンス・コードが適用開始となった時だからである。2015年の「疾風に勁草を知る」は「変われない日本企業」が自己変革する機運が出てくる時こそチャンスであるという趣旨を述べたものだ。
レポートは<ソニーやシャープ、そして最近では東芝に吹いている疾風が、利器を分かつことに期待している>と結んだ。この3社のうちソニーだけが完全復活を遂げたが、シャープ、東芝もまだ試合は終わっていない。東芝は元三井住友銀行副頭取で、現在はCVCキャピタル・パートナーズの日本法人会長を務める車谷氏をCEOに迎える。1965年の土光敏夫氏以来となる外部トップだ。資生堂が魚谷社長という外部からのトップ登用で経営改革に成功したように、東芝にも名門復活の期待がかかる。
さて、もうひとつの「利器を分かたんや」は日本株式市場の実力だ。この疾風になぎ倒されることなく、踏み堪えられるか。S&P500のように200日移動平均ワンタッチから切り返せるか、正念場である。
米国株は4日続伸、ダウ平均は1/26日の高値から今回の急落でつけた安値までの下げ幅に対して、1)終値ベースではフィボナッチの38.2%戻し、2)ザラ場(ローソク足)ベースではほぼ半値戻しである。VIX指数は20を下回る水準に低下している。一方、米国10年債利回りは2.9%台に上昇、3%が目前に迫っている。
前回のレポートで述べたように金利上昇は関係ないのである。結局、「慣れ」の問題だ。米国景気が拡大するなか、長期金利が3%であるのはノーマルな状況で、それに慣れればいいだけのことである。イールドスプレッドが3%あれば株価を正当化できる。金利が3%なら益利回りは6%あればよい。つまり、PER16.6倍ならフェアバリューということである。株価がいったんその水準に訂正されたことで調整一巡感が出た。
震源地の米国株が戻って、株価激震のあおりを食らった格好の日本株が、円高を理由に下げ続けるのは理不尽である。日本株もそろそろ底入れから反転のタイミングであろう。