日経平均が2万円の大台を前に足踏みを続けていたとき、僕は<日経平均2万円の前に「壁」はあるか>というレポートを書いた。「2万円にあと1円51銭まで迫りながら押し返されると、なにかそこに見えない「壁」のようなものを感じて、ことさら騒ぎになるが、それは人間が勝手に生み出した幻想にすぎない。」
ファンダメンタルズ面からは日経平均2万円はじゅうぶん正当性があるし、PERの過去平均である15倍を基準に考えれば、2万1000円でも不思議はないと述べてきた。その根拠は日本企業の業績が堅調なこと。決算発表を終えて今期純利益は4%増益の見通し。日経平均の今期予想EPSは1400円に達した。もちろん為替の水準でこの予想利益も変動するが、今回の決算で明らかになったことのひとつに、日本企業の収益力が強靭になったことが挙げられる。原価や販管費を抑制し、コスト構造を変えた結果、損益分岐点が低下した。その結果、本業の稼ぐ力、売上高営業利益率が高まった。そもそも想定為替レートも保守的に見積もっている。かなり、「ぶれない」1400円と見てよいだろう。
今回の2万円回復は、米国市場で主要株価指数がそろって最高値を更新したことが大きな材料だが、予兆は前日からあった。6月1日の日経平均は200円超も値上がりした。機関投資家のリバランス等月初の特殊要因もあったが、市場を牽引したのはキヤノンや東京エレクだ。キヤノンは自社株買いが好感された。東京エレクはROEの目標の下限を引き上げた。こうした資本効率への意識の高まりが市場で評価されるようになってきたのである。
日経平均をひとつの会社とみなすと、その1株当たり純資産は1万5760円。今期予想EPSが1400円ということはROEは8.9%である。無論、高くはない。米国は17%だ。まだその半分程度に過ぎない。しかし、「伊藤レポート」が指摘した最低限の要求水準はクリアしている。
ROEは資本コストをどれだけ上回るかが重要である。資本コストを上回るROEのみが企業価値を向上させる。「伊藤レポート」では明示的な資本コストの値は示されていないが、機関投資家へのアンケートが紹介されている。それによれば日本の機関投資家の平均は6.3%、海外の機関投資家は7.2%の資本コストを要求している。資本コストは企業ごとに決まるものだが、仮に「日経平均株式会社」に求められる資本コストが7.2%で「日経平均株式会社」が稼ぐROEが8.9%なら、日経平均の理論値は1万9000円台半ば。まだまだROEが不十分だ。ところが日本の投資家の要求資本コストに基づけば日経平均の理論値は2万2000円を超える。主体別売買動向によれば海外投資家の比率は7割程度。よって、要求資本コストによる日経平均の理論値を海外投資家70%・国内投資家30%で按分すると、ちょうど2万円となる。
日経平均2万円は、現在の利益およびROEの見通しに基づけば理論通り、フェアバリューにある。では、この先の更なる上昇には何が必要か。言うまでもないだろう。日本企業の資本の生産性が一段と上昇することである。
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