本業に目を向け始めた株式相場

前回のレポートでは、「円高で減益」になっても本業の好調さを評価して買われる銘柄があることを指摘して、相場の地合いが良くなってきたと述べた。この流れは週明けの25日も継続した。22日の取引終了後に日本電産が発表した16年4~6月期の決算は、純利益が前年同期比5%減の220億円だった。しかし、25日の東京市場では日本電産は買い気配で始まり4%超上昇して引けた。円高で海外収益が目減りしたが、車載向けモーターなどが好調に推移し、営業利益は四半期として過去最高だった。

業績観測報道が出たマツダも買い気配で始まり6%近い大幅高を演じた。23日付の日本経済新聞朝刊が「マツダの2016年4~6月期の連結営業利益は、前年同期比6%減の500億円前後だったようだ」と報じたが、アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスは330億円だからポジティブ・サプライズだ。マツダの主戦場は欧州で、欧州といえばBREXITの影響が懸念されたが実際には影響はほとんどなかったことがわかった。英国は国民投票でEU離脱を決めたが、実際には離脱交渉すらスタートしていない。影響がないのは当然であろう。

日本株相場は、円高による評価損や収益の目減りはもう織り込んだ。そのうえで本業の受注や売上高の伸びを見始めたのは、市場のセンチメントが改善し地合いが良くなった証拠である。それが前回のレポートの主旨だったのに、読者からこういう投稿が来た。

「既に上がった銘柄を紹介されても役に立たない。これから上がる銘柄を上がる前に教えろ」

買われた銘柄を取り上げたのは、その背景を語り、相場の質的な変化を指摘することが目的で、銘柄の推奨をしようと思ったわけではない。これまで何百回、何千回も言ってきたことだが、「これから上がる銘柄を上がる前に当てる」ことができるなら、ストラテジストなんて商売、やってない。超能力者じゃあるまいし。しかし、「上がる銘柄を事前に当てるなんて不可能である」という至極当たり前のことを何百回も繰り返していても芸がないので、たまには読者サービスをしようかという気にもなり、有望な銘柄を考えたところ電子部品メーカーの株をお勧めしようと思うのである。

電子部品の受注低迷

とにかく電子部品は市場で人気が離散した出遅れ業種とのイメージがある。その背景は受注額の落ち込みであろう。先週も日本経済新聞が電子部品大手の受注額が一段と落ち込んでいるとの記事を掲載した。報道によれば、村田製作所やTDKなど大手6社の2016年4~6月期は前年同期比7%減の約1兆2400億円となった。3四半期連続の前年割れで減少率は4%減だった1~3月期より拡大した。

電子部品の受注額が落ち込んでいる理由は主に2つ。ひとつは円高による目減りと、もうひとつはアップルによるiPhoneの減産だ。高性能部品を強みとする日本勢はアップル向け比率が高く、その動向に左右されやすい。

しかし、それが理由で電子部品メーカーの株価が冴えないならば今後、見直し買いが入る可能性がある。まず、円高による受注額の減少だが、これは冒頭でも述べた通り、市場は円高の悪影響を織り込んで、実際の受注量を見始めている。日経記事によれば、4~6月期の受注額が15%減少した村田製作所のケースでは、為替要因を除けば落ち込み幅は5%程度だったという。為替で「額」が減る分は、もうそれほど悪材料視されなくなるだろう。

この秋のiPhoneは意外と売れる

次にiPhoneの減産・販売低迷だが、秋の新機種の投入もあり、今後持ち直すのではないか。そう思わせる材料がポケモンGOの大ヒットだ。当たり前だが、ポケモンGOはスマホ・ゲーム。もっと良い機種でプレイしたいというニーズが出るだろう。実際に、バッテリーがすぐなくなるらしい。それだけでなく、ずっとスマホ歩きをしていれば、モノにぶつかったり転んだりする。その拍子にスマホを落として壊すひともいるのではないか。いずれにせよ、スマホをプラットフォームにしたゲームがこれだけ流行れば、更新需要はいろいろあるに違いない。

そして何より、ポケモンGOを遊びたいという子供が増えて、子供のスマホの保有が普及するだろう。この分だけでも新規ユーザーの純増になる。

と、いうわけでこの秋のiPhoneは意外と売れると思うのだ。そうなればiPhoneの販売不振を理由に過度に低迷している電子部品株の見直しにつながるのではないか。

ポケモンGOの人気がいつまで続くかわからない。けっこう、短命だったりするかもしれない。それでも、電子部品というのはスマホだけに依存しているわけではない。これからAIやロボットやIoTを中心とした第4次産業革命に必須なものは高性能・高精細な電子部品だ。どんなテクノロジーにも電子部品は必要とされる。

ソフトバンクによる買収で英ARMが注目を集めたほか、米国のSOX(フィラデルフィア半導体株価指数)は一本調子の上昇を続けている。東京エレクも高値追いとなった。つまり、全世界的に半導体関連株が買われている。単純に半導体の需要が高まっているからである。で、あれば高性能電子部品を手掛ける日本の電子部品メーカーにも早晩、見直し買いが入ると考えるのが自然ではないか。

前述の日経記事が受注額を集計している電子部品大手6社とは村田、TDK、京セラ、日本電産、日東電工、アルプス電気だが、実は株価パフォーマンスにかなり差がある。自動車向けなどが堅調な日本電産は年初来高値をとってきている。それに対して村田とアルプスの株価は低迷している。逆張りで狙うなら、この両社がおもしろい。

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