BREXIT ショックは収束に向かっている。BREXIT - 英国が国民投票でEU離脱を選んだこと - 自体を材料として、株が売られ円が買われることはもうないだろう。誤解しないでほしいのは、この先、円高にもならず株が下がることがない、と言っているのではない。「BREXITという材料で」下げることはない、と言っている。

株価は何で決まるか?それは第一にファンダメンタルズ(とその変化/期待)を反映して決まる。ファンダメンタルズとは企業価値に影響する実態経済の様々な変数だ。為替、金利、企業が稼ぐ利益、キャッシュフロー、そうしたものである。但し、それ以上に株価はセンチメント(市場心理)で動く部分が大きい。今回のBREXIT ショックはまさにセンチメントの要因で株価が動いた典型例であり、ファンダメンタルズを反映していない。事実、英国はまだEUを離脱していないし、現時点でいったいいつ離脱できるのかはもとより、本当に離脱するのかということすらわからない。つまり、国民投票の結果は離脱となったが、実態経済は何も大きく変わっていない。この先、どうなるかもはっきりとはわからない。こういう状況ではファンダメンタルズの変化を織り込みようがない。

株価が下げた理由は、予期しなかったことが現実となったサプライズだから、時間が経てば収束する。特に今回はBREXITという材料が明確なだけに収束は速い(その反対に何が本当の理由で下げたのかわからない時は相場が安定するまでに時間がかかる。詳しくはこちらをご参照)。また、ファンダメンタルズの悪化が材料で下げた場合は、ファンダメンタルズの改善がなければ株価は戻らない。しかし、この下げはファンダメンタルズの悪化を反映したものではないから、時間が経てば戻る性格のものである。

日経平均は6/13に英国の世論調査で離脱派が残留派を上回ったというニュースで580円安と急落。そこからさらに売られて6/16の1万5434円が国民投票前の安値、つまり最も悲観を織り込んだ水準だ。そこを越えてきたということは、市場はこのBREXIT問題にケリをつけたと見てよいだろう。

BREXITの真のリスクは、反EUの流れが欧州各国に伝播し、それによってユーロ崩壊という危機が懸念されるような状況になることであると従前から述べてきた。結論から言うと、英国型の反EU気運の広がりがユーロ崩壊に通じるという事態にはなり得ない。その理由はいくつかあるが、いちばんの理由は通貨が統合されていることである。ユーロという通貨は様々な問題や矛盾を抱えながら、同時に、だからこそEU参加国の結束を強めている側面もある。

ギリシャ危機のときに再三言われたことだが、仮にギリシャがユーロを離脱してもとの通貨ドラクマにもどった途端、ドラクマは大暴落する。ドラクマ建ての資産は紙くずになる。そうなる前にキャピタルフライト(資本流出)が起こるのは自明だから政府は預金封鎖をする。そんな目にはだれだって遭いたくないので国民は結局ユーロ残留を選ぶ。弱い経済の国ほど自国通貨の暴落(=ハイパーインフレ)を恐れてユーロにしがみつくだろう。では強い経済国、例えばドイツはどうか?仮にユーロをやめてドイツマルクが復活したらスイスフランの比ではなく買われ、円以上に世界最強通貨となるだろう。今のドイツ経済が潤っているのは、弱者連合のユーロのなかにいるおかげで自国通貨高というハンディキャップなしに貿易黒字を享受できるからである。

英国民投票の直後、この前の日曜日におこなわれたスペインのやり直し総選挙では急進左派の票が伸びなかった。EUに批判的な急進左派「ポデモス」を中心とする連合は躍進が予想されていたが、伸び悩んだ。少なくともスペインでは反EUの流れが大きな支持につながらなかったのだ。急激な変革を恐れた有権者が安定を求めた可能性が指摘されているが、おそらく的を射た見方だろう。

不透明感は常に相場のリスクになる。次はFREXIT(フランスのEU離脱)だとか、なんだとか、そういう雰囲気が相場をかく乱し、動揺を与え続けるだろう。しかし、それは市場変動要因のうちセンチメントによるものであり、重要なのは、「それで本当に何が変わるのか?」ということを見極めることである。

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