重要なイベントは、9月15日と9月21日(アメリカ時間)に起きました。 先ずは9.15。リーマン・ブラザーズが倒産しました。この会社が倒産すべきだったのか否か-それは私には分かりません。しかしベア・スターンズは救済され、リーマンは救済されなかった。このことが、金融機関の調達コストを激しく上昇させ、その後の一連の大騒動を引き起こしたのではないでしょうか。
どう云うことかと云うと、債券投資家の気持ちになると分かります。「ベアとリーマンの債券を持っていた。そして片方の債券の元本は返ってきて、片方の債券は無価値になった。金融当局者の頭の中には、この二社を峻別する線が引かれているらしい。しかし彼らにとってはクリアなルールなのかも知れないが、自分にはよく分からない。」ワシントン・ミューチュアルとワコービアでも同じ問題が起きました。すると債券投資家としては、償還が100%になるか0%になるかが分からない以上、急いで全てを売るしかありません。毒入りの飴と安全な飴が混ざって入っている袋は、まとめて捨てる他ないのです。
こうして金融機関等の債券は売られ、これら金融機関等の想定社債発行金利が急上昇し、資金調達コストが異常な勢いで上がりました。
「リーマンを潰したのが悪い」のではないのです。潰すか潰さないかのルールが公に不透明であったことが悪いのです。その結果コストが上昇し、大混乱が始まったのだと思います。その結果、世界を代表するアメリカ第1位と第2位の投資銀行、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーの調達コストさえ異常に上がってしまい、彼らですらシリアスな危機に直面してしまった。しかし彼らを潰してしまえば、流石に世界の金融市場、いやそれに留まらず世界の経済活動が極端な大混乱、恐らく機能不全に巻き込まれる。そこで仕方なくこの二社を、銀行持株会社と転換させ、政府が直接救済する道を作った訳です。

これが、9.15からたった1週間後の、9.21でした。たった1週間です。なんと早いことか。ところが、これで全てが終わった訳ではありません。投資銀行が商業銀行になる-これが何を意味するか。今まで大きな自由を享受し、いわゆる「レバレッジ」を掛けて、自己資金の何倍もの額の投資をしていた投資銀行が、最早そのような高いレバレッジを掛けられなくなる。レバレッジは信用創造の一種です。レバレッジが下がれば、景気は悪化します。レバレッジの低下は、投資銀行が投資を減らすことだけを意味するのではありません。巡り巡って、個人の生活のレバレッジも下がっていくでしょう。お金がなくてもローンで車を買えたような人が、もうローンを提供してもらえなくなる。そうしてレバレッジ低下は景気の悪化やデフレに繋がっていく。これが今最大の懸念です。

世界最大の消費国アメリカでデフレが起きると流石に厄介です。アメリカ政府は、今後、必死になって財政出動等をし、消費を刺激するでしょう。それでなんとかなるかも知れません。債券の世界では、少々専門的になりますが、イールド・カーブは立ってくるでしょうが。兎にも角にも、上記のようなことが、この1ヶ月で進行しました。

2008.9.15、そして9.21。金融界にどっぷり浸かって生きてきた私にとって、この2つは、忘れられない日になると思います。