メキシコペソ/円=「バブル」だった可能性のメキシコペソ高

メキシコペソ/円は、2020年の「コロナ・ショック」で6円から4円割れ近くまで、約3割の暴落となった。ところが、それから一転上昇に転じると、2024年5月の9.4円まで上昇が続いた(図表1参照)。この間の最大上昇率は2.2倍。米ドル/円に例えるなら、「コロナ・ショック」で100円割れ寸前まで暴落したものの、その後の4年間で200円以上に上昇したことになるので、いかにすごい上昇相場が展開したのかが分かるだろう。

【図表1】メキシコペソ/円の月足チャート(2020年~)
出所:マネックストレーダーFX

高金利で選好されたメキシコペソ

これほどまでにメキシコペソが選好された理由の1つが高金利の魅力だろう。金融政策の目安になる政策金利は、メキシコの場合11.25%まで引き上げられた。2022年頃から歴史的インフレが展開する中で、日本以外では大幅な利上げが行われ、「世界一の経済大国」米国の政策金利も5.5%まで引き上げられたが、メキシコの政策金利は米国の倍以上になったわけだ(図表2参照)。

【図表2】日米および新興国の政策金利(2012年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

記録的な相場の値上がりに加え、大幅な金利差の優位により、メキシコペソ買いは投資家にとって、大きな利益をもたらす大人気の投資対象という状況がここ数年続いてきた。ところが、メキシコペソは対円では5月の9.4円がピークとなり、9月には一時7円割れまで、最大で26%程度の大暴落となった。

「最強通貨」メキシコペソ、暴落の理由は?

米ドル/円も2024年は7月の161円から9月にかけて一時140円割れまで最大で13%程度の急落となったが、メキシコペソ/円はその倍ほどの暴落となったのだ。なぜ「最強通貨」メキシコペソは暴落したのか。

きっかけは、大統領・議会選で与党が予想以上に圧勝したことで憲法改正の可能性が浮上、そのことへの懸念など政治要因だとする指摘が一般的だった。ただし、より本質的には、記録的な上昇相場が続く中で、極端な上がり過ぎ、つまり「バブル」のような状況になっていたのが、いよいよ「破裂」を始めたということだったのではないか。

メキシコペソ/円の購買力平価からのかい離率は、これまでは基本的に±2割の範囲を循環してきた。ところが、2022年頃からその範囲を大きく上抜けると、2024年に同かい離率は8割以上に拡大した(図表3参照)。これを見ると、誰もが「バブル」を懸念したのではないか。

【図表3】メキシコペソ/円の購買力平価かい離率(2001年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

要するに、メキシコペソ/円は大幅な金利差ペソ優位と記録的な相場の値上がりという買いに圧倒的に有利な状況が長く続く中で、「バブル」状態になっていた可能性があったのだろう。そうした中で、すでに見てきた政治要因が「バブル破裂」のきっかけになったということではないか。

メキシコは2024年に政策金利を大きく引き下げたが、それでもまだ10%以上という水準は圧倒的な高金利の状況に変わりはない。そうであれば、これまでのメキシコペソの急落も、むしろ割安で高金利通貨のメキシコペソを買える状況になったとポジティブに考えられるのだろうか。

ただ、購買力平価かい離率などを見ると、これまでの実績からしても、まだ「上がり過ぎ」の修正途上のように見える。極端なメキシコペソの割高が修正され、割安になったメキシコペソが買えるようになったという感じではなさそうだ。

下落トレンドは継続的に展開するのか?

メキシコペソ/円が一時7円割れまで下落する中で、過去1年の平均値である52週MAを大きく割れた。これは、経験的にはメキシコペソ/円の下落は一時的なものではなく、複数年継続的に展開する下落トレンドが展開している可能性が高いことを示すものだ(図表4参照)。

【図表4】メキシコペソ/円と52週MA(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

そうであれば、メキシコペソ安トレンドと逆行する一時的なメキシコペソ反発は、52週MAを大きく越えられない程度の限定的なものにとどまる可能性が高いだろう。大幅な金利差ペソ優位は変わらないものの、相場の反発が限られ、むしろ継続的な下落リスクのある状況では、なかなか新たな買いのチャンスと位置づけるのは難しい、そのような状況が続く可能性が高いのではないだろうか。2025年の予想レンジは、5~8円。

南アフリカランド/円=「上がり過ぎ」修正リスク 

最後に、2つの新興国通貨についても簡単に見てみたい。南アフリカランド/円は、2024年後半は一時を除いて基本的に8円を上回る水準での推移が続いた。ただ、これを5年MAかい離率で見ると10%以上になる。2000年以降で見ても、南アフリカランド/円が5年MAを1割以上上回った時期は少ない(図表5参照)。その意味では、2025年にかけて「上がり過ぎ」の反動リスクを警戒する必要があるのではないか。予想レンジは、7~8.5円。

【図表5】南アフリカランド/円の5年MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

トルコリラ/円=長期下落トレンド終了の目安とは 

2024年のトルコリラ/円は、ここ数年のような「暴落」はなかったものの、それでも大きく反発することはなくじり安が続いた。こうした中で、12月6日現在で4.6円程度の52週MAに近い水準での動きとなってきた。

トルコリラ/円は、2014年から長期下落トレンドが展開しているが、その中で基本的には52週MAを超えられない状況が続いた(図表6参照)。その意味では、この52週MAを大きく越えられるかは、長く続いた下落トレンドの底打ちの目安の1つとして注目されそうだ。予想レンジは3.5~5円。

【図表6】トルコリラ/円と52週MA(2014年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成