(前回はNR氏が笑いもせずにオフィスを去っていった所まででした。) NR氏を見送るや否や、セールス氏はNR氏を完全に怒らせてしまったと思い、しかし(東京オフィスで彼の上司でもある)私にあたることも出来ず、絶望的な表情でデスクに座り込み、東京やロンドンのセールス部門の上司に状況説明の電話をかけ始めました。

それから20分後ぐらいでしょうか、東京の自社オフィスに戻ったNR氏から連絡が入り、彼はポジションを180度変え始めたのです。即ち大量の(ここで言う大量とは、言うのが憚れる程の本当の大量のことです)債券、先物、スワップなどを買い戻し始め、更には新たに「大量の」買い持ちポジションを作り始めた訳です。セールス氏は狐につままれたようでしたが、次第に歓喜の表情へと変わっていきました。

−これがNR氏との出会いでした。それからというもの、NR氏とは滅多に話さないものの、節目節目で3回ほど、私にとって極めて重要な判断をしなければいけない時に、親身に、そして鋭い洞察力と判断力で、簡潔且つよどみの一切ない解答を出してくれました。また、或る約束を一度口頭でしたのですが、それから2年経った或る時、それは本当に困った時だったのですが、数ヶ月ぶりに電話した私のリクエストに対して、彼は数秒で決断をして約束を実行し、事態を救ってくれたこともあります。

これらの話しは、またいつか書ける時が来るでしょう。NR氏の情報収集方法や判断の仕方・行動パターンには色々と学ぶべきものがあります。しかし何にも増して、NR氏は変人でも、恐い人でもなく、とにかく信義に厚い人なのです。金融界の真のスーパースターは、皆信義を大切にするものです。