この時期、街はむせぶような若葉の匂いに充ちてきます。毎年あの匂いを嗅いで、夏がそこまで来たことを知ります。しかしあの匂いには不思議なこともいくつかあります。先ず、なに故にあれほど強い匂いがするのでしょう?
花が匂うなら分かります。交配する為に昆虫を呼び寄せる必要があるでしょう。しかし、たかが葉っぱです。自然界の事は大概必然性があるものですが、若葉が強く匂う必然性が分かりません。
次にあの匂いがどのように日本に於いて受け止められてきたかです。古今集などでも、花の香や、袖の香は詠まれていますが、「葉の匂い」についての歌は記憶にありません。仄かな香りは愛でても、強い匂いは忌み嫌ったのでしょうか。谷崎の陰翳礼賛ではありませんが、強過ぎないもの、直接的でなく間接的に想像させるものなどに対して美を感じる意識は、我が国の一つの特徴でしょうか。