多彩なコミュニケーション機能をAPIとして提供

トゥイリオ[TWLO]は、クラウド通信プラットフォームサービス(CPaaS:Communications Platform as a Service)を提供する企業。2008年の創業以来、複雑で物理的な電話回線や通信キャリアのインフラをソフトウェア化し、開発者が数行のコードを書くだけで自社のWebサイトやモバイルアプリに通話、SMS、チャット、メールなどの通信機能を組み込むことができるAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を提供してきました。

Twilio APIでは、電話やSMS、メール配信、自動音声応答(IVR)や音声通話サービス(Voice)、チャットボット連携に至るまで、多彩なコミュニケーション機能がAPIとして部品のようにラインナップされています。最近では大規模言語モデル(LLM)とリアルタイムの音声通話を接続する音声AIエージェントなど、次世代のAI通信ツールへの拡張も進めています。こうしたAPIを活用した代表的な実例が、配車サービス「Uber」や「Lyft」における「ドライバーと乗客がお互いの電話番号を知ることなく通話できる」マスキング機能や、フードデリバリーにおける配送状況のリアルタイム通知、カスタマーサポートのチャット機能です。

その他にも、ネット通販や小売業界における配送状況の通知やマーケティングメール、金融機関における不正検知アラートや本人確認コードの送信、ヘルスケア分野におけるオンライン診療の予約リマインド、さらには旅行・航空業界における運行情報のリアルタイム配信など、企業の多様なデジタル顧客接点がTwilioのAPIによって開発・運用されています。

顧客は多様な業種に広がっており、規模もスタートアップから世界的な巨大企業まで様々です。アクティブアカウントは世界30万社以上に及びます。代表的な顧客としては、配車サービスのウーバー・テクノロジーズ[UBER]や民泊仲介のエアビーアンドビー[ABNB]、動画配信のネットフリックス[NFLX]、フードデリバリーのドアダッシュ[DASH]、ECプラットフォームのショッピファイ[SHOP]などが挙げられます。

世界各国の通信規格を網羅:業界のデファクトスタンダードに

顧客獲得の競争力となっているのが、世界各国の複雑な通信キャリア網を網羅した「スーパーネットワーク」と呼ばれるグローバルな通信接続基盤です。通信インフラの世界では、世界中の通信規格や各国の法規制、通信キャリアごとの仕様の違いをすべてソフトウェアで吸収し、開発者が世界中に瞬時にメッセージや音声を届けられるインフラを構築するには、膨大な年月と莫大な投資が必要です。これが、後発企業が容易に追い付けない参入障壁であり、「スーパーネットワーク」が競争力を発揮する点です。

また、世界中のソフトウェア開発者から支持を集めるエコシステムも大きな強みです。使いやすく洗練されたAPI設計と充実した開発ドキュメントは、エンジニアが「通信機能を実装するならまずトゥイリオを試す」というデファクトスタンダードの地位を確立しています。これにより、営業コストを過大にかけずとも現場の開発者経由で自然とサービスが導入されるという一朝一夕には作ることができない仕組みができているのです。

追い風:AIエージェントの統合需要、採用拡大、乗り換えも

この競争力は、現在吹いている「AIエージェントと通信インフラの統合需要」という潮流を捉える力となっています。大規模言語モデル(LLM)が進化する中で、企業はAIを単なる画面上のテキストチャットにとどまらず、顧客への自動架電やリアルタイムの問い合わせ対応、配送連絡などの現場業務に直結させる動きを加速させています。どれほど優秀なAIモデルが登場しても、人間と電話で対話したり、スマートフォンにメッセージを送ったりするためには、物理的な通信ネットワークと接続するインフラが不可欠です。トゥイリオのプラットフォームは、AIとエンドユーザーを接続するために不可欠な土台となっており、足元の2026年第2四半期においてもAIの自律対話を主軸とした数百万ドル規模の大型契約が相次いで成立しました。

例えば、自動車フィンテック大手のCar Finance 247では、トゥイリオの会話基盤を組み込んだAIアシスタントが約29万件の対話を処理し、AIと対話した顧客の成約率が非対話顧客に比べて約1.6倍に向上したことで、年間数百万ポンドの増収効果を創出しています。また、ある大手サイバーセキュリティ企業では、音声機能やメディアストリームを統合した高度なバーチャルアシスタントを構築し、有人オペレーターへの転送率をわずか2%に抑える大幅な業務効率化を実現しました。さらに、アトラシアンが新たなカスタマーサービス管理アプリのAIオムニチャネル基盤としてトゥイリオの「Flex SDK」を採用したほか、金融機関向けAIのエルトロピーが音声対話基盤を活用してコンタクトセンターの自律化を進めるなど、有力ソフトウェア企業による基盤採用も力強く拡大しています。

そして、注目すべきは、競合他社からのリプレイスや基幹インフラとしての採用が進んでいることです。医師向けAI臨床判断プラットフォームのOpen Evidenceが他社からトゥイリオの音声インフラへ乗り換えた事例や、ANAホールディングス(9202)が世界中の搭乗客に向けた運航情報のリアルタイム配信基盤を拡張した事例、オーストラリアの医療保険大手メディバンクがすべての認証システムを「Twilio Verify」へ統合した事例などがあります。この採用拡大は持続的な成長の基盤となるだけでなく、社会インフラとしての信頼性を高める効果をもたらすと思われます。

無配、自社株買いも希薄化相殺目的だが還元余力は高まっている。利益成長とキャッシュ創出力を評価

現在、同社は配当を実施しておらず、行われている自社株買いについても、実質的には役員や従業員へ付与される株式報酬(SBC)に伴う希薄化を相殺する目的で行われているに留まります。実際には2025年1月に20億ドルを上限とする自社株買いプログラムを進めていますが、新株発行によって発行済株式数は横ばいで推移しており、1株当たりの価値を直接押し上げる本格的な株式純減には至っていません。

しかし、今後は希薄化の穴埋めを超え、1株当たり価値を押し上げる実質的な株主還元に移っていく可能性は大きいと見られます。同社は2026年度通期で11億3500万ドル~11億5500万ドルのフリーキャッシュフローを創出する見通しを立てています。2024年度まで最終赤字を出していた同社は、2025年度には黒字化を果たし、年間10億ドル規模のフリーキャッシュフローを創出するまでにキャッシュ創出力を高めました。

今後、年間の希薄化を相殺するための資金を大幅に上回るキャッシュが手元に残る構造への転換が進むことが期待されます。さらに、売上高に対する株式報酬の比率が前年同期の12.1%から9.5%まで低下したことに加え、2026年6月には新株発行枠を自動的に毎年増やす制度が廃止されたため、希薄化圧力そのものが構造的に弱まっています。手元には社債総額を差し引いても約16億ドルのネットキャッシュを保有しており、現行の自社株買い枠を消化した後も、枠を再拡大して還元を強化する財務基盤は十分に整っていると考えられます。

現在の株価は、割安修正の初期局面を終え、利益成長とキャッシュ創出力を織り込んでいく段階にきていると言えます。アナリストの平均目標株価である260ドル水準や高値更新を試す堅調な推移が期待できる状態と評価できます。今後の展開ですが、短期的な過熱感を消化しながら直近高値の258ドル台を上抜けて280ドル近辺を目指す上昇シナリオが期待されます。

【図表】トゥイリオ[TWLO]とS&P500の株価推移比
出所:Bloombergより筆者作成
※S&P500およびトゥイリオ[TWLO]株価は2016年6月30日を1とした数値