鑑定価格3倍でのホテル売却

2026年6月11日付の当欄「【J-REIT】長期金利上昇で不動産価格は停滞へ」で国内長期金利上昇に伴い、東京23区内の賃貸住宅を事例に不動産鑑定価格におけるキャップレート(CR)(※1)を検証し、不動産価格の高騰が一服している点を述べた。一方で用途によっては、鑑定CRを大幅に下回る利回り(高い価格)で取引される物件もJ-REITの売買事例では生じている。

ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)(以下JHR)は、7月31日に「ザ・ビーチタワー沖縄」を309億円で売却した。売却物件は、JHR合併前の日本ホテルファンド投資法人が2006年6月の上場時から保有する物件で、売却益は240億円を超える見込みである。

鑑定価格は104億円(2025年12月末時点)で、売却額は鑑定額のほぼ3倍となる。鑑定時のCRが4.5%だったことから、鑑定ベースでの収支前提に変化がなければ買い手側のCRは1.5%程度となる。つまりかなり低い利回り(高値)での取得ともみえる。

ただし、売却額が鑑定価格を大幅に超えた要因は、テナント(ホテル運営会社)との賃貸借契約の変更だと考えられる。2026年6月に20年間の固定賃料契約が終了し、現契約は2027年6月までの1年契約で変動賃料を組み入れている。

買い手側は、1年後の現契約終了までにテナントの入れ替えや契約内容の見直しなど、収益増加に向けた変更余地がある点を評価したものと考えられる。収支前提に大幅なアップサイドがあれば、取得利回りも高くなるためだ。

例えばJHRが2024年7月に取得した「沖縄ハーバービューホテル」は、取得年の想定NOI利回り(※2)は4.7%であったが、7.3%まで上昇する想定を投資法人側は示している。利回り上昇の理由は、2025年度に大規模改装と運営会社の変更を行い、RevPAR(※3)が2024年の9738円から2万1241円まで上昇する想定であるためだ。取得時の低い利回りは、収益の上昇によって高い水準まで変動する想定だ。

オフィスも高値での売却が続く

同様に、オフィスでも高値での取引が続いている。いちごオフィスリート投資法人(8975)(以下IOR)は6月10日に「いちご九段ビル」を含め4棟の東京都心部のオフィスビルを142億円で売却するとした。4棟の平均鑑定CRは3.6%であったが、売却額ベースで算出すると買い手側のCRは2.3%となっている。IORは当該売却で58億円を超える売却益を計上するとしている。

7月にもOneリート投資法人(3290)が、「名古屋伏見スクエアビル」を80億円で売却し、売却益が29億円になると公表した。鑑定評価額は57億円で鑑定CRは4.3%であったが、売却額ベースで買い手のCRを算定すると3.1%程度となる。

オフィスもホテルと同様に収益向上の余地が高い用途である。そのため、買い手側から見ると、鑑定で想定されている収益を上回る収益力を持つ物件であれば、鑑定評価額を大幅に上回る売買価格でも成立する可能性がある状況だ。

インフレに対抗できる用途として、今後もホテルやオフィスでは鑑定価格を大幅に上回る売買が続く可能性が高いと考えられる。

※1:鑑定評価上の期待利回り。想定キャッシュフローをCRで除して鑑定価格を算出する。

※2:Net Operating Incomeの略。賃貸収益のうち会計上の費用である減価償却費を除外した物件収支。

※3:ホテル収益指標のひとつ。客室単価×稼働率で算出する部屋当たりの収益力。