2026年8月7日(金)日本時間21:30発表
米国 2026年7月雇用統計、他
【1】結果:雇用者数は市場予想に反して減少、過去分も大幅下方修正
2026年7月の非農業部門雇用者数は、市場予想の8.0万人増に反して、前月比2.3万人減となり、5ヶ月ぶりに減少しました。また、5月分は前月比12.9万人増から6.3万人増へ、6月分は5.7万人増から2.0万人増へそれぞれ下方修正され、2ヶ月合計の修正幅はマイナス10.3万人となりました。
非農業部門雇用者数の前月比3ヶ月移動平均値は2.0万人増と、プラスではあるものの、直近12ヶ月の平均である3.4万人増も下回りました。単月の雇用減だけでなく、過去分の下方修正を含めて、雇用創出ペースの鈍化が鮮明になったと言えます(図表1-1参照)。
内訳を見ると、政府部門が前月比5.3万人減となり、全体の雇用者数を押し下げました。中でも、地方政府の教育部門が5.0万人減と、政府部門における雇用減の大部分を占めています。
一方、民間部門の雇用者数は3.0万人増となりました。ただし、財生産部門が2.5万人増となったのに対し、民間サービス部門は0.5万人増にとどまりました。業種別では、医療・教育が2.3万人増、建設業が2.2万人増となった一方、娯楽・ホスピタリティー業が4.0万人減、小売業が1.9万人減、金融業が1.4万人減となりました。政府部門の特殊要因を除いても、サービス部門の雇用には弱さがうかがえます(図表1-2)。
失業率は4.1%と、前月の4.2%から低下しました。小数点以下2位まで見ると数値では4.09%となり、前月の4.19%から0.10%ポイント低下しています。
もっとも、家計調査では就業者数が前月から8.7万人減少した一方、労働力人口は26.4万人減少しました。失業者数が17.8万人減少したことで失業率は低下しましたが、雇用の増加による改善ではなく、労働市場から退出する人の増加が主因と考えられます。
労働参加率は61.4%、就業率は58.9%と、ともに前月から0.1%ポイント低下しました(図表2-1)。労働参加率は2021年以来の低水準にあり、失業率の低下とは対照的に、労働供給の縮小が続いていることが示されています(図表2-2)。
【2】内容・注目点:求人は持ち直すも、実際の採用活動は低調
米国の労働需給では、求人件数と実際の採用数との間に乖離が見られます。2026年6月の求人件数は735.9万件と、2月の692.2万件、3月の688.7万件から持ち直しました。一方、失業者数は4月をピークに減少しており、失業者1人当たりの求人数は3月の0.95件から6月には1.04件へ上昇しています(図表3、水色)。求人件数と失業者数の比率から見ると、足元で緩んで推移していた労働需給は底打ちの兆しがあり、やや引き締まっています。
もっとも、求人の持ち直しは、実際の採用増加には十分につながっていません。企業の採用率は2026年2月の3.1%を底に、6月には3.4%まで回復しました。直近2年ほどは、3%台前半の低水準で推移しています。コロナ禍前の3年間(2017年~2019年)の平均である3.8%も明確に下回っており、企業の採用姿勢が積極化したと判断できる段階には至っていません(図表4)。
このように、足元では求人という「ストック」が一定程度存在する一方、それが採用という「フロー」に結びつきにくい状態が続いています。求人・失業者比率が示す表面的な労働需給は改善していますが、雇用者数の増加ペースや採用率から判断すると、米国の労働市場が持つ雇用創出力は依然として弱いと考えられます。
先行きを考えるうえで、中小企業のうち求人を埋められないと回答した企業の割合を示す、全米独立企業連盟(NFIB)の未充足求人割合が参考になります。同指標を3ヶ月先行させると、失業者1人当たり求人数に一定程度先行して推移する傾向が確認できます(図表3、青)。
2026年7月のNFIB未充足求人割合は36%と、前月から4%ポイント上昇し、2025年6月以来の高水準となりました。このため、失業者1人当たり求人数は当面1倍前後で推移しつつ、今後数ヶ月は再び上向く可能性が示唆されます。ただし、NFIBは中小企業を対象とした調査であり、7月の上昇も現時点では単月の動きです。採用意欲の改善が実際の採用増加につながるかは、今後のデータを確認する必要があります。
現在の米国の労働市場は、企業による解雇も低水準にとどまっているため、採用率が低くても失業率の大幅な上昇は抑えられています。しかし、採用率が低い環境では、新たに失業した人を別の企業が吸収する力も弱くなります。何らかの景気・政策ショックによって解雇が増加した場合、失業者の再就職に時間を要し、失業率の上昇ペースが加速するリスクがあります。
求人の持ち直しは労働需要の底堅さを示している一方で、実際の採用活動はなお低調です。現在の米国の労働市場は一見すると需給が均衡しているものの、その均衡は低い採用率と低い解雇率によって保たれており、ショックに対する耐性は必ずしも高くないと言えるでしょう。
【3】所感:雇用減速で利上げの緊急性は後退、焦点は物価指標へ
今回の雇用統計が市場予想を下回る弱い内容であったことを受け、FRB(米連邦準備制度理事会)による追加利上げ観測は後退しました。ただし、失業率は4.1%と依然として低く、失業者1人当たり求人数も1倍前後を維持しています。今回の雇用者数の減少も地方政府の教育部門に集中していることから、労働市場が全面的な悪化局面に入ったとまでは判断できません。
また、FRBが重視する物価上昇率は依然として2%目標を上回っています。7月のFOMC(米連邦公開市場委員会)では政策金利が3.50~3.75%に据え置かれた一方、3人の参加者が0.25%ポイントの利上げを主張しました。このため、今回の雇用統計だけで9月の据え置きが決定的になったわけではなく、今後の物価動向が政策判断を左右すると考えられます。
ウォーシュ議長の下では、将来の金利経路をあらかじめ示すフォワードガイダンスが抑制され、FRBはその時点で確認された経済指標とリスクバランスを重視する姿勢を強めています。このため、市場は従来以上に個々の経済指標からFRBの反応を読み取る必要があり、まずは8月12日の7月消費者物価指数(CPI)と、13日の生産者物価指数(PPI)が焦点となります。
物価上昇圧力の根強さが確認されれば、雇用の減速下でも9月利上げの可能性は残ります。反対に、基調的な物価上昇率の鈍化が確認されれば、追加利上げを見送り、政策金利を据え置くとの見方が強まるでしょう。
マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太
