実質実効相場が示す円安の循環的限界圏

2022、2024年の米ドル高・円安は、日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入により終了した(図表1参照)。これについて私はこれまで、「当時は投機円売り主導の円安局面だったことから円買い介入でその流れを変えることが可能になった」との見方を示してきた。ただ、これらの円安阻止介入が成功したことにはもう1つの条件があったと考えられる。それはすでに円安が限界に達していた可能性があったということだ。

【図表1】米ドル/円と為替介入(2022年1月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

円の総合力を示す実質実効相場には、過去5年の平均値である5年MA(移動平均線)を2割以上下回ると循環的に底入れするパターンが続いてきた(図表2参照)。別な言い方をすると、実質実効相場が5年MAを2割以上下回った水準は円安の循環的な限界圏の可能性があった。

【図表2】円の実質実効相場の5年MAかい離率(1985年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

循環的限界圏を利用した可能性のあったアベノミクス円安の幕引き

これをうまく利用したと見られたのが2015年6月当時の黒田日銀総裁だった。アベノミクス円安局面を「黒田バズーカ」と呼ばれた大胆な金融緩和で主導した黒田総裁は、2015年6月、「実質実効相場からすると普通ならさらなる円安はないだろう」と発言した。円安誘導者と見られていた黒田総裁のこの「円安見通し否定」発言により、為替相場は急激に円高へ振れ、結果的にアベノミクス円安はこの発言のあった125円で終止符を打つところとなった。

当時の実質実効相場は、5年MAを一時24%以上も下回った。前後の実績からすると、「限界を超えた円安」になっていた可能性があったわけで、だからこそ黒田発言が円安終了のきっかけになったということではないか。

円安阻止介入成功のもう1つの条件は円安限界圏に達していたこと

2022年の米ドル高・円安は10月の151円で、そして2024年の米ドル高・円安は7月の161円で、ともに日本の通貨当局による米ドル売り・円買い介入をきっかけに終了した。ちなみにこの2回の円安終了局面において、実質実効相場は5年MAを2割以上下回っていた。以上のように見ると、この2回の円安阻止介入が成功したのは、すでに円安が循環的な限界に達していた影響も大きかったと考えられる。

実はこの点が足下では違っている可能性がある。確認できる実質実効相場の5年MAかい離率は今のところ2025年11月時点までだが、マイナス11%にとどまっていた。これを見る限り、2022、2024年の円安阻止介入局面と異なり、足下ではまだ円安の限界圏に達していない可能性がありそうだ。限界圏に達している円安は止めやすそうであるのに対し、まだ限界圏に達していない円安を止めるのは苦労する可能性があるのではないか。

最近はまだ円安限界圏に達せず=円安阻止に苦労する可能性

似たようなことが、米ドル/円と5年MAとの関係からも言えそうだ。米ドル/円には5年MAを3割以上上回ると循環的な上昇(米ドル高・円安)が終了するパターンが続いてきた(図表3参照)。その意味では、5年MAを3割以上上回った水準は米ドル/円の循環的な上昇の限界、つまり円安限界圏の可能性があった。

【図表3】米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

2022、2024年の米ドル売り・円買い介入も、米ドル/円が5年MAを3割前後上回ったところで円安阻止が実現していた。これは米ドル高・円安がすでに循環的な限界圏に達していた影響もあったと考えられた。

これに対して、2025年12月末時点の米ドル/円の5年MAかい離率は14%程度にとどまっている。ちなみに2025年12月末時点の5年MAは137円なので、それを3割上回るのは178円という計算になる。その意味では、円買い介入や利上げなどの円安阻止策が効果的になる循環的な円安限界局面は180円に達するまで訪れないとの見通しになる。

円安が止まることにおいて、循環的な円安の限界圏に達することは絶対的な必要条件ではない。これまでは、円安が限界に達する前に終了したこともあった。ただ、円安阻止策が有効になる条件の1つがすでに円安が限界圏に達しているということで、その観点では2022、2024年の円安阻止介入局面と最近ではかなり違いがあると言えそうだ。