日経平均、TOPIX、S&P500などが史上最高値を更新し続け、株式市場は絶好調です。しかし、マーケットを楽観的に見られない読者もいることでしょう。ここ数年、暴落が短いスパンで起きているからです。2020年以降では、2020年2月「コロナショック」、2022年2月「ウクライナショック」、2024年8月「日本版ブラックマンデー」、2025年4月「トランプショック」と実に4回もありました。
今回は、日米の主要株価指数が史上最高値圏の今、投資を始めても大丈夫かを考えていきます。
現在の水準を高いと考えてしまうのは「参照基準点効果」の罠
昨今、日経平均株価、S&P 500、不動産、金(ゴールド)、ビットコインなどあらゆる資産価格が上昇しています。それらが史上最高値を更新するたびに、今は高いから投資できないという声が後を断ちません。
現在の水準を高いと考えてしまうのは「参照基準点効果」の罠に陥っていると考えられます。「参照基準点効果」とは、心の中に基準点を設けて考えてしまうことです。値動きのある資産を売買するときに、特定の日の価格を基準にして「高い」「安い」と判断してしまうことがあります。
「特定の日」とは、過去にその資産を購入したことがあれば、その価格が基準になりますし、人によっては5年前、10年前ということもあるでしょう。このように、過去のある時点を基準に考えて「高い」「安い」を判断してしまうことを「参照基準点効果」と言います。
例えば、同じ株価5,000円の銘柄でも、4,000円のときに買った人にとっては値上がりしたので「高い」と感じるのに対し、6,000円のときに買った人にとっては値下がりしたので「安い」と感じるという具合です。
将来時点の株価水準を「参照基準点」に設定し、いますぐ投資を始めた方がいい
「史上最高値」については、どの時点からみても高く感じるのです。日経平均株価5万円が高いと考える人は、今後、6万円、7万円…と上昇していっても投資をすることはできないでしょう。そうなるといつまで経っても株価上昇の恩恵を受けられなくなります。プロでも予想が難しい相場において、短期的な目線で高いか低いかを考える必要は一切なく、そうした感情を排して市場に参加することが、投資成功の秘訣です。
投資とは、将来増える資産にお金を投ずることです。大事なことは、将来時点の価格を「参照基準点」に設定して投資をしていくことです。
20年、30年、40年先に株価がどうなっているかという予想は比較的簡単です。今後の世界は、人口増大に伴い確実に経済成長していきます。当然、企業収益も上昇し、今よりも、もっと株価水準は高くなるでしょう。
2025年の世界人口は81億人、国連「世界人口推計」によると、2058年には100億人を突破、2080年代半ばに人口が103億人に達して、ピークをつけると推計されています。
人口が増えれば、消費が増え、その消費を支えるために生産も増え、経済は拡大していきます。「世界人口増大→経済拡大→企業業績拡大→株価上昇」という流れで世界全体は成長していくでしょう(図表)。
また、インフレも株価水準を押し上げる要因となります。インフレを転嫁して企業収益が上がれば、株価上昇という流れになります。今後は人手不足、材料費高騰、半導体の高騰、電気代の高騰などでインフレ傾向が続いていくことが予想されます。
日本は人口減少&少子高齢化が進行していくため、日本経済が勢いよく成長していくのは難しいとした理由を根拠に、日経平均株価は5万円に届いたとしてもそれが限界、と言う人もいることでしょう。
日本の上場企業が日本国内だけ、日本人だけを相手にしてビジネスを展開していればご指摘の通りですが、日本の上場企業の多くは日本国内だけを相手にして商売をしていません。商売の相手は世界です。今後も世界経済が拡大し、世界的にインフレ傾向が続いていくならば、将来的に「日経平均10万円台」に到達しても、まったく不思議ではありません。
不安の解消や暴落をチャンスに変えるならば、「分割投資」「積立投資」がおすすめ
投資に「絶対」はありませんが、20年、30年、40年といった将来時点に、現在の株価水準よりも上昇している可能性が非常に高いならば、できるだけ早くまとまったお金を投資し、早くお金に働いてもらったほうがいいでしょう。
『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』(ニック・マジューリ著・ダイヤモンド社)という書籍でも「できるだけ早く投資することが最適」と紹介されています。
投資の方法には、大きく「一括投資」「分割投資」「積立投資」の3種類があります。一括投資と分割投資は、投資資金に余裕がある方向けの方法です。
一括投資は手元にあるまとまった投資資金を一度にまとめて投資する方法であり、分割投資は手元にあるまとまった投資資金を複数回に分けて投資する方法です。積立投資は、分割投資に似ていますが、手元にあるまとまった投資資金を原資に投資するのではなく、給与など毎月の収入の一部から捻出して、毎月・毎週・毎日など一定の間隔で投資する方法です。
ただ、一括投資は精神的にはあまり望ましくない投資方法です。数十年後という長いスパンで値上がりすることが見込まれる銘柄を購入したとしても、投資した当初に値下がりしたり、ましてや暴落したりした場合には不安になるでしょう。
こうした不安の解消や暴落をチャンスに変えるならば、「分割投資」「積立投資」がベターです。購入タイミングが分散でき、高値で買うリスクを抑えられます。定期的に定額購入する「ドルコスト平均法」を生かした積立投資なら、価格が高いときも安いときも購入することで、自然と購入価格を平均化することができます。そのため、少しの値上がりでも利益を出しやすくなります。
また、積立投資は暴落のときも「安く買うチャンス」に変えることができます。投資の最大の敵は「感情」といわれています。積立投資は、感情に左右されず淡々と投資を継続できるメリットの大きい投資方法です。
現実的には、投資資金にそれほど余裕がない人のほうが多いと考えられますので、無理に一括投資をせず、積立投資で十分でしょう。目先の株価水準は、投資を始めるタイミングには関係ありません。大切なのは、なるべく早く始めて、長く続けることです。
バブルも暴落も予兆は見抜けない
株式市場では、バブルが生じることもあります。日本でバブルというと、1980年代後半の「平成バブル景気」を連想する方が多いでしょう。それだけでなく、米国ではネット関連企業の株価が急騰した「ITバブル(ドットコムバブル)」(1990年代後半)、サブプライムローンによって住宅価格が高騰した「米国住宅バブル」(2002年~2007年)、中国の不動産価格の上昇による「中国不動産バブル」(2000年代~2020年)、ビットコインなどが急騰した「暗号資産バブル」(2017年など)などもあります。
バブルの共通点は2つあります。1つは、株や不動産などの価格が実体の価値とかけ離れて上昇すること。もうひとつは、最終的に崩壊して暴落することです。
後から「これはバブルだった」と指摘するのは簡単です。大きく値上がりし、やがて急落しているところを取り上げれば良いだけだからです。しかし、バブルの発生を見極めるのは不可能です。たとえ似通った市場環境が複数回到来したとしても、バブルになるかならないかはケースバイケースだからです。また、仮にバブルによって値上がりしているとして、バブルの最中はそれを認識することが難しいというジレンマがあります。
今がバブルなのか、バブルがいつまで続くのか、そして暴落がいつやってくるのかを考えることには、あまり意味がありません。
お金を増やす観点で考えれば、市場が値上がりをしている間は、その値上がりに任せて投資を続けた方がベターです。米シティグループCEO(当時)のチャールズ・プリンス(チャック・プリンス)氏は、リーマンショック前夜ともいえるサブプライムローンの焦付きが明るみに出てきたときに「音楽が鳴っている間は、踊り続けなくてはならない」と語ったといいます。
市場の値上がりが、仮に根拠のないバブルだとしても、他の機関投資家(ライバル)が稼いでいるなか、自分だけ投資をせずに稼がないわけにはいかないという意味です。
ただ、いつまでも音楽が鳴り続けているわけではありません。音楽が鳴り止んでいるにもかかわらず、いつまでも浮かれて踊っていると、大きなダメージを喰らってしまいます。値上がりを活用してお金を増やしながらも、一方では冷静に市場を見ることが必要なのです。音楽が鳴り止んだときに備えるためには、「何が起こっても対処できるようにしておくこと」が大切です。
