前回のコラムで、日経平均は波乱の展開になるかもしれないと述べましたが、この2週間はまさに痺れる展開となりました。自民党の新総裁を巡っての神経戦の後、自民党総裁が高市氏に決まって日経平均は急騰となったものの、公明党の連立離脱を契機に急落となっています。併せて、米国は対中関税を再度引上げ、米国市場も急落しました。以前からの指摘通り、「これまでの停滞感の強い状況から一気に歯車が動き始めた」という展開そのものになったと受け止めています。
今後の外交日程を考えると、国内では10月下旬に首班指名が行われる見通しですが、その帰趨は現時点においても流動的という状況です。誰になるのか注目は集まりますが、誰が首相指名を受けても少数与党状態は確定的であり、政権基盤は極めて弱いものになるだろうことも想像に難くありません。新首相は外交日程一巡後、あるいは補正予算成立後にも、解散総選挙に打って出る可能性は小さくないと予想します。総選挙の可能性と「政治空白」継続リスクを勘案すると、当面の株式市場は神経質な展開にならざるを得ないと想像しています。
2025年のIPO件数は大きく減少する見通し
さて、今回は「2025年のIPO動向」をテーマに取り上げてみましょう。IPOについては2017年、2024年にもテーマに取り上げていますが、今回はそのアップデート版ということになります。前回の執筆から早いタイミングでのアップデートとなりますが、2025年はこれまでとはかなり様相が異なってきていると感じています。本コラムでは、まずそのような状況をおさらいしたうえで、今後のIPO投資についての考えをまとめてみたいと思います。
2025年にIPOによって新規に上場した企業数は10月上旬までで41社を数えました。このペースだと年間60社を超えるかどうかというところで、およそ年間100社程度であった直近10年のペースと比較するとかなり鈍いと言えます。2024年も前年から10社減の86社でしたが、2025年はそこからさらに大きく減少する見込みとなります。
なお、年間IPO件数が50~60社というのは2013年以来の水準で、これはちょうど第2次安倍政権が事実上発足した年に相当します(第二次安倍政権は2012年12月末発足)。IPOには最低でも1年超の準備・審査期間が必要であることを考えると、当時はそれまでのデフレ不況の長期化やそれを背景とした株式市場の低迷が理由となり(2012年末の日経平均は1万395円18銭でした)、上場を志す企業がそもそも少なかったということでしょう。その後、アベノミクスを旗印に景気は回復軌道を辿り、2024年にはIPO件数も80社を超えてきます。
しかし、現在はインフレへと転換し、日経平均も史上最高値の更新が続く状況にあり、当時とは様相が全く異なります。にも拘わらず、IPO件数は2013年水準まで落ち込む見通しとなっているのです。
規制強化により「グロース上場企業」が減少
その最大の理由は、上場市場を見ればよくわかります。減っているのは、詰まるところグロース上場企業なのです。東証上場だけでみた場合、グロース市場を選択した新規上場企業の割合はこれまでのところ70%を切っています。2024年よりも10ポイント程度も低下という具合です。2023年も比較的グロース上場比率は低かったのですが、社数ベースでは2024年よりもむしろ多く、グロース市場上場が不人気であったわけではありません。しかし、2025年に入ってからは明らかにグロース上場の人気が衰えてきています。
そしてこの背景もまた明らかです。以前グロース市場をテーマに取り上げた際に言及した通り、2025年に入ってグロース市場の上場基準が「上場後5年で時価総額100億円以上」に改められたました。この結果、所謂「小粒上場」となりかねない企業の上場計画は白紙に戻され、証券会社の審査基準もより厳しいものとなりました。
実際、この規制強化が喧伝された4月以降にグロース市場に上場した企業11社のうち、時価総額で50億円を下回っているのは(現在、グロース市場上場企業の中で時価総額50億円未満の企業が約40%を占める中)現時点で1社のみにまで上場企業は厳選されているのです。この規制強化には功罪あると受け止めますが、少なくともIPOに強い規律が求められることになったことは明らかでしょう。
実際の株価パフォーマンスは?
では、実際の株価パフォーマンスはどうでしょうか。2025年に新規上場した企業のうち、現時点で公開価格を上回っている企業はおよそ3分の2あります。これを見る限り、新規公開株投資では一般的な「公開価格で取得し、上場後、早々に売却する」などの手法は依然として機能しているということでしょう。
一方、初値を上回って推移している企業は4割もありません。このことからは、初値でエントリーした新規公開株投資はあまり効率がよいものではないとも言えます。この傾向も以前からと変化はしていないのですが、2025年は日経平均が年初来で20%も上昇していることを考えれば、なおさら、上場後からの新規公開株投資は難しいと言えるのかもしれません。
もちろん、初値からでも高パフォーマンスを示す企業もあります。2025年の新規公開株では、技術承継機構(319A)、JX金属(5016)、トヨコー(341A)などの企業は初値から倍以上に株価は上昇しています。これらはどちらかというと地道な業界に新風を吹き込むようなビジネスが評価されたのではないかと受け止めています。
なんとなくAIなど注目度が高い成長期待の大きな市場に臨む企業なほど株価上昇力もあると思いたいところですが、成長期待が大きければ大きいほど、実は参入企業は増えてむしろレッドオーシャン化懸念が重く圧し掛かるということでもあるのです。上場直後の企業がそうしたレッドオーシャンを泳ぎ切れるのかはわからず、むしろ手堅い企業が評価されたということなのでしょう。上場後のIPO投資こそ、安易なイメージに囚われずに銘柄選択することがいかに難しいか、肝に銘じておきたいところです。
