銘柄を選ぶ基準として、伝統的によく知られるものに「過去最高益を更新する企業」という方法があります。利益が史上最高を更新するなら、株価も最高値の更新が期待されるというものです。しかし、実際に過去最高益を更新する企業への投資には注意が必要です。単純に過去最高益更新するというだけでは、投資効率があまり良いとは言えないからです。
今回は過去最高益を更新する企業の効果的な選別方法を紹介します。
過去最高益の更新が見込まれる銘柄の“ワナ”とは?
まずは、過去最高益の更新が期待される銘柄の株価パフォーマンスをみてみましょう。
営業利益が開示されない銘柄を除いたTOPIX(東証株価指数)構成銘柄を母数に設定します。そこから毎月末に取得可能な情報のみを使って、今期と来期の営業利益の予想値が連続して最高益更新を見込む銘柄に均等額を投資した場合の株価パフォーマンスを計算しました。
結果は図表1の黒線グラフで示されます。リターンを累積しているので黒線グラフが右肩上がりになっていることから、過去最高益の更新が期待される銘柄に投資していると、収益が積みあがってくるトレンドであったことがわかります。
注2:母数はTOPIX構成銘柄(ただし、営業利益が開示されない銘柄など情報が取得できない銘柄は除く)
注3:今期と来期の営業利益に用いる予想値はアナリストコンセンサスを用いている
注4:毎月末時点で、今期と来期の予想営業利益が過去最高益を超える見通しの銘柄に、等金額投資した場合の翌月のリターンを算出。絶対パフォーマンスは2017年7月以降を累積している。超過パフォーマンスは、対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて、2017年7月以降累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
一方で、図表1では注意しなければいけない点が赤線グラフで示されています。
赤線グラフは最高益更新を見込む銘柄に均等額を投資したリターンから、母数の対象銘柄のリターンの平均を引いて累積したものです。母数全体の平均リターンに比べて過去最高益更新銘柄の株価パフォーマンスがどのように推移してきたかが分かります。母数全体のリターンに対してどの程度超過リターンが得られるかを見るものなので“超過パフォーマンス”と呼んでいます。
これと区別するために、図表1の黒線グラフは絶対パフォーマンスと呼ぶことにします。累積の絶対パフォーマンス(図表1黒線)は基本的に右肩上がりを示している一方で、累積の超過パフォーマンス(図表1赤線)は2000年以降、足元にかけて下落しています。つまり、近年にかけて「最高益更新を見込む銘柄に投資しても市場全体の上昇ほどリターンが得られなかった」ことが示されています。
過去最高益更新銘柄の絞り込み、「来期に向けてより高い成長」が期待できるかがカギ
2000年以降、最高益更新を見込む銘柄の株価パフォーマンスが優れなかった要因には、様々なものが考えられます。コロナ禍から景気が回復するなかで、最高益更新を見込む銘柄を上回って、業績復活銘柄の方が相対的に市場で注目された点が挙げられます。また、国内金利が緩やかに上昇して、デフレから脱却が進むなか、金融セクターや資源関連株のパフォーマンスが大きく上回る場面も見られました。
しかし、このように投資環境が変化しても、基本的には株価は業績と連動して動くので、過去最高益更新銘柄の中には、長期的に将来に向けて高い株価パフォーマンスが期待されるものがあります。重要な点は銘柄の絞り込みです。
株価は将来の業績をある程度織り込んで形成します。ただし、過去最高益の更新が見込める企業の中には、すでに株価がその情報を織り込んでいるものがあります。
例えば、今期、来期と連続で過去最高益の更新が期待される企業でも、来期の成長率が今期に比べて鈍化するケースはどうでしょうか。将来の成長が伸び悩む企業は、すでに足元までの期待で株価が高い水準まで形成されているため、将来の株価が下落する可能性も小さくありません。
最高益更新を見込む銘柄の中から、さらに銘柄選別するには、来期に向けて成長の勢いが加速する銘柄を絞り込む必要があります。図表2では、こうした銘柄の株価パフォーマンスを調べました。
注2:母数はTOPIX構成銘柄(ただし、営業利益が開示されない銘柄など情報が取得できない銘柄は除く)
注3:今期と来期の営業利益に用いる予想値は、アナリストコンセンサスを用いている
注4:毎月末時点で、それぞれの条件に該当する銘柄に、等金額投資した場合の翌月のリターンを算出。対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて、2017年7月以降で平均して年率換算している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
図表2の「今期と来期連続最高益更新」の超過パフォーマンスは、図表1で示した結果を年率ベースで表示したものです。図表1では同銘柄群は近年にかけてパフォーマンスが低下していたことが示されましたが、図表2で市場全体の平均リターンと比べて見ても劣位となっており、マイナスとなっています(-0.36%)。
これに対して今期と来期の営業利益が2桁成長に絞り込んだ場合のパフォーマンスが、図表2の中央列「今期と来期連続最高益更新」の欄です。平均超過パフォーマンスは1.38%と市場全体を上回っています。
そして今回、注目する戦略は「今期と来期連続最高益更新、今期2桁成長、来期は今期を超える大幅成長」の銘柄基準です。平均超過パフォーマンスは2.86%と最も高い水準となっています。
来期の成長が今期に比べて10%以上高いという絞り込みを加えています。今期2桁の高成長を見込んでいますが、来期はそれを大きく上回って(10%以上)成長が期待される銘柄です。
このように今期と来期連続最高益の更新が見込まれる銘柄に投資する場合には、さらに、来期に向けてより高い成長が期待される銘柄に絞り込めば、高い投資成果が得られることが実証されました。
銘柄スクリーニング結果は?
そこで、実際に筆者がマネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて参考銘柄を抽出しました。
比較的売買が行いやすいように、流動性を考慮して東証プライム上場で時価総額800億円以上としています。銘柄スカウターの出力結果に、Excelで「来期の営業増益率が今期より10%以上高い」の絞り込みをすると、図表3の3銘柄となりました。投資の参考にしてみてください。
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2025年9月26日時点)を用いてマネックス証券作成
銘柄スクリーニング方法について
最新データを用いて、図表3のスクリーニングを行う場合の具体的なスクリーニング入力項目を(図表4)に示しました。
この結果、図表5のような銘柄一覧が画面に出力されます。これらの出力銘柄に「来期の営業増益率が今期より10%以上高い」という条件を加える必要があります。そこで右上の「CSVダウンロード(図表5の〇印)」から銘柄リストを取得して、Excelで処理します。
図表6は取得したcsvファイルをExcelで開いた画面で、まず、K列に「I列+10(%)>=J列」という数式を入力します。” >=”は以上という意味です。条件をクリア行のK列のセルは“TRUE”と表示されます。そして、Excelのメニュー「データ」→「フィルター」を使い、TRUEのみに絞り込んだ結果が図表3となります。
