モトリーフール米国本社 – 2025年9月16日 投稿記事より

SFから現実へ:投資マネーが動く量子コンピューター

ウォール街には量子コンピューティングをSFの世界と捉えている投資家もいますがが、先見性のある投資家たちは「次に数兆ドル市場になる」と考えて数十億ドルを投じています。ブラックロック[BLK]、テマセク(シンガポールのソブリン・ウェルス・ファンド)、そしてエヌビディア[NVDA]は、70億ドルの企業評価額であるサイクォンタム(PsiQuantum)の資金調達に10憶ドルを支援しました。エヌビディアが量子スタートアップ企業に資金を出し始めたということは、単なる投資にとどまらず、エコシステム全体の信頼性を裏付ける動きでもあるのです。

公開市場における懐疑的な見方と未公開市場における熱狂とのギャップが、新たな投資機会を生み出しています。

各国政府は量子超越性(quantum supremacy)を国家安全保障上の重要課題と位置付け、「Q-Day(量子コンピューティングが暗号化システムを上回る日)」の到来時に暗号化が優位性を失うことを恐れています。一方、企業はすでに量子サービスに対して対価を支払っており、技術が成熟する前から需要が存在していることを証明しています。

10年前の人工知能(AI)の状況を思い起こしてみましょう。当時AIは投機的で過大評価されながらも、最終的には社会に変革をもたらしたのです。これら3社の量子技術のパイオニアは、同様の非対称的なリターンをつかむ可能性を提供しているのです。

イオンキュー[IONQ]:量子インフラを推進する買収エンジン

イオンキュー[IONQ]は最近、(英国のスタートアップ企業である)オックスフォード・アイオニクスを10億7,500万ドルで買収することで合意し、先進的な「オンチップ・イオントラップ技術」(イオンをチップ上にトラップし、量子ビットとして制御・計算する方法)を導入しました。これにより、同社のイオントラップ型技術のロードマップを強化しています。

この取引は英国投資安全保障局(ISU)の承認を得ており、量子技術が戦略的資産として政府の関心を集めていることを示しています。イオンキューはその他の(量子メモリを専門とするスタートアップ企業であるライトシンク(Lightsynq)やカペラスペース(Capella Space)を含む)買収を完了しており、2025年7月には株式発行を通じて10億ドルを調達しました。2025年7月9日時点のプロフォーマ・ベースで現金、現金同等物および投資残高は16億ドルに達しています。

財務面では、イオンキューは売上を伸ばしています。2025年第2四半期の売上高は2,070万ドルで、前年同期比約82%の増加となりました。しかし、損失も大きく、同四半期の純損失は1億7,750万ドルとなりました。同社株は過去の売上高比で242倍以上という高い評価額で取引されており、決して割安ではありません。とはいえ、イオンキューの潤沢な資金、積極的な買収活動、そしてハードウェアと量子ネットワーク両分野での事業拡大を目指す野心は、ボラティリティを許容できる投資家にとっては、大きな上昇余地を捉える可能性を秘めているでしょう。

Dウェーブ・クオンタム[QBTS]:逆張り戦略が実際に利益を上げている企業

Dウェーブ・クオンタム[QBTS]は汎用量子コンピューターの開発競争を避け、量子アニーリング(組み合わせ最適化)技術に注力してきました。これは、企業が今日からすぐに活用できる最適化問題への実践的なアプローチです。「Leap」クラウドサービスを通じて提供される同社の新システム「Advantage2」は、量子ビットの接続性を15から20に増強し、サプライチェーン管理、ポートフォリオ管理、研究開発などのユースケースでより強力な性能を提供します。

財務規模はまだ小さいものの、急速に拡大しています。2025年第2四半期の売上高は前年同期比42%増の310万ドル、粗利益率は約64%、受注高は92%増加しました。2025年9月には100社を超える顧客が収益を生み出しており、試験的な導入段階を超えた需要の存在を証明しています。損失は依然として大きいものの、8億1,900万ドルの現金保有により、Dウェーブは開発を継続するための資金基盤を有しています。投資家にとって、これは2025年時点で「実際に収益を生み出している量子企業」に最も近い存在であり、実稼働システム、実顧客、初期段階の商業的成果を備えていると考えられます。

リゲッティ・コンピューティング[RGTI]:量子超越性に特化したハイリスク投資

リゲッティ・コンピューティング[RGTI]は、は、大胆な成長計画を掲げる典型的なハイリスク・ハイリターンの量子専業企業です。2025年第2四半期の売上高はわずか180万ドル(前年同期比約41%減)でしたが、同四半期に技術的マイルストーンを達成しました。4つのチップレットで構成される「Cepheus-1-36Q」システムが2量子ビットゲートの忠実度(fidelity)99.5%を達成し、これは前世代システム「Ankaa-3」の忠実度の約2倍の精度となります。

財務面では、リゲッティは依然として投資段階にあります。純損失3,970万ドル、営業費用約2,040万ドル、売上高はごくわずかです。しかし、現金及び流動性投資が5億7,160万ドル(第2四半期の3億5,000万ドルの増資により強化)あるため、超伝導技術とチップレットを組み合わせたスケーリング戦略を推進し続けるための十分な資金基盤を有していると考えられます。

投資家にとって、これはハイリスク・ハイリターンの投資先の1つと言えるでしょう。ロードマップ上のブレークスルーのうち1つでも実現すれば、大きな上昇余地が生まれます。時価総額62億ドルの同社は、量子チップの設計から製造までを一貫して自社で行う垂直統合により、イノベーションサイクルを完全に自らコントロールできる点も強みとなっています。

量子の飛躍に挑戦する価値はあるのか

他の分野であれば、このようなバリュエーションは無謀に見えるでしょう。しかし、量子の分野においては、次のプラットフォーム転換への「入場料」と言えるかもしれません。数十億ドル規模の資金調達、迅速な規制認可、暗号化技術をめぐる防衛上の緊急性、そして最も重要な点として、実際に料金を支払う顧客の存在。こうした動きは2015年頃のAIへの初期投資を彷彿とさせます。当時は荒唐無稽と思われていたものが、やがて現実となったのです。

もちろんリスクもあります。量子コンピューターは永遠に「実用化まであと5年」と言われ続ける可能性がありますし、その間に従来型システムが進化を続けるかもしれません。それでも、企業が最適化のために量子技術を導入し、各国政府が戦略的資産として位置づけ、大手テクノロジー企業がエコシステムを実証する中で、この技術は理論から実践へと移行しつつあります。

ポジションの規模を慎重に設定し、ボラティリティに耐えられる投資家にとって、イオンキューはインフラ分野での優位性を、Dウェーブは短期的な収益性を、リゲッティは飛躍的な上昇の可能性を提供するでしょう。未来は一様に訪れるわけではありませんが、黎明期にポジションを取る投資家は、成熟期になる前に投資機会を逃さずに判断しているのです。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者George Budwellはブラックロック、Dウェーブ・クオンタム、イオンキュー、エヌビディア、リゲッティ・コンピューティングの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はエヌビディアの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。