9月は3月期決算期企業の上期決算期末月です。

月末に向けて「上期の業績は好調なのか」「今期を通じて業績は伸びそうか」など、投資家の視点が個別企業の業績に向かう場面も増えていきます。実際に上期決算発表がスタートするのは10月中旬で、今から1カ月先です。ただ、決算発表で好決算を発表する企業は、発表の前後で株価が上昇するケースも多いことから、決算発表前に先取りできれば高いリターンが期待できます。

そこで今回は、業績の伸びに注目した銘柄選別方法を紹介します。業績の伸びは投資実務では「 業績モメンタム」と呼ばれます。

今期予想営業増益率の銘柄選択効果

業績モメンタムを表す投資尺度には様々なものがあります。実績の営業増益率もその1つです。実績営業増益率は直前本決算の営業利益が、その前年の営業利益と比べて、どれくらい伸びたか、を計算するものです。ただ株価は将来の業績を織り込みながら動くため、過去に増益率が高くても株価への反映はそれほど期待できません。

銘柄選別に効果的な業績モメンタムとは、将来の業績の勢い(伸び)に関係する指標です。その代表が今期予想営業増益率です。今期に予想される営業利益が、直近の実績本決算の営業利益と比べて、どれくらい「伸びそうか」を計算するものです。そこで今期予想営業増益率にどの程度の銘柄選択効果があるか検証してみました。

図表1は今期予想営業増益率が高い銘柄に投資した場合の株価パフォーマンスを示したものです。
分析は次のように行いました。先ずは、営業利益が開示されない銘柄を除いたTOPIX(東証株価指数)構成銘柄を母数に設定します。そこから毎月末に取得可能な情報のみを使って今期予想営業増益率が高い(母数のうち上位2割まで該当する)銘柄に均等額を投資した場合のパフォーマンスを計算します。

その結果が図表1の赤線グラフです。実際には母数の対象銘柄のリターンの平均を引いて、累積しています。母数全体の平均リターンに比べて今期予想営業増益率が高い銘柄の株価パフォーマンスがどのように推移したかを見るものです。リターンを累積しているのでクラフが右肩上がりとなれば、銘柄選択の効果が高い戦略であることを示します。

赤線グラフは、基本的に右肩上がりのトレンドを見せており、今期予想営業増益率が高い銘柄への投資は、ある程度は有効であることがわかります。

また、上期決算期末を迎える9月だけでなく、時期を通じて効果が安定していることも検証結果からわかりました。

【図表1】予想営業増益率と四半期前年比の上位銘柄の株価パフォーマンス結果
注1:データ期間は2021年4月から2025年8月、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX構成銘柄(ただし、営業利益が開示されない銘柄など情報が取得できない銘柄は除く)
注3:今期予想営業増益率に用いる予想営業利益はアナリストコンセンサスを用いている
注4:毎月末時点で銘柄ごとにそれぞれの戦略の基準となる情報を計算する。そして、それぞれの戦略に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出、対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求める。更に、2021年4月以降累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

四半期実績営業利益の前年比は、今期予想営業増益率の銘柄選択効果を上回る

ところで図表1では更に注目したいポイントがあります。2025年8月の終着点で青線グラフが赤線グラフを上回っていることです。青線グラフは四半期実績営業利益の前年比を基準とした上位銘柄のパフォーマンスを示しています。先ほど、“株価は過去の実績より将来を評価して動く”ことをお伝えしました。しかし四半期ベースの比較的短いサイクルの場合は、実績の業績モメンタムでも、その後の株価の動きと深い関係があります。これは次のような背景があります。

足元の投資環境を考えてみましょう。トランプ関税の行方は依然、確定できません。政局や金融政策も不透明で将来の企業業績に与える不確かな要因が少なからず存在します。こうした状況で、個別企業にとって今期の利益がどの位伸びそうか、という点も確信度が高いと言えないでしょう。投資環境の不透明要因が多い場面ほど、四半期などの短いサイクルの実際の業績の勢いが、将来の業績モメンタムを予想するうえで頼りになる情報になります。

幾つかの業績モメンタム指標を組み合わせて銘柄を絞り込む戦略

それならば、図表1の検証期間で、四半期実績営業利益の前年比が今期予想営業増益率の銘柄選択効果を上回ったからといって、四半期実績営業利益の前年比の指標だけを使って銘柄を絞り込むのは効果的と言えるでしょうか。実は、そうとも言えません。

図表1を見ると、2024年初頭までは、赤線グラフが青線グラフを上回っており、今期予想営業増益率の方が、銘柄選択効果が上回る場面も見られます。

実際には指標を組み合わせて使う方法が良いでしょう。今回はこれらの2つの情報に加えて、更に3つの業績モメンタム指標を組み合わせた投資戦略を紹介します。5つの具体的な基準は次の通りです。

今期予想営業増益率と四半期実績営業利益が2桁(10%)以上の伸びを銘柄選択条件として、更に、来期予想営業増益率が(10%)以上、そして今期と来期の営業利益予想変化率が共に3%以上の条件を加えました。

今期の営業増益率予想が高くても、来期に予想される増益率が下がるなら、業績モメンタムが鈍くなっていることを示します。将来の株価の上昇を期待するなら、将来の業績モメンタムが鈍化する銘柄は避けたいと考えます。また、予想営業利益が下がりがちな銘柄を避けるために、今期と来期の営業利益予想変化率が3%以上という条件も加えました。

このように選別した銘柄の株価パフォーマンスについて検証した結果を図表2に示しています。

過去、同基準で毎月抽出した銘柄に投資した場合のパフォーマンス結果が紫線グラフです。図表1でも紹介した今期予想営業増益率と四半期実績営業利益の単一戦略を上回っていることが注目されます。
業績モメンタム指標は様々あるのですが、上手く組み合わせることによって、より効果的な銘柄選択ができることがわかります。

【図表2】業績モメンタム投資戦略の株価パフォーマンス結果
注1:データ期間は2021年4月から2025年8月、データサイクルは月次 注2:母数はTOPIX構成銘柄(ただし、営業利益が開示されない銘柄など情報が取得できない銘柄は除く) 注3:今期予想営業増益率に用いる予想営業利益はアナリストコンセンサスを用いている 注4:「業績モメンタム投資戦略」は本文参照 注5:毎月末時点で銘柄ごとにそれぞれの戦略の基準となる情報を計算する。そして、それぞれの戦略に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出、対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求める。更に、2021年4月以降累積している 出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

銘柄スクリーニング結果とスクリーニング方法

そこで実際に筆者がマネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて、業績モメンタム戦略の参考銘柄を抽出しました。

比較的売買が行いやすいように流動性を考慮して東証プライム上場で時価総額800億円以上としています。更に、前年同期比(営業利益)の高い方から並び変えています。

銘柄スクリーニング結果とスクリーニング方法 そこで実際に筆者がマネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて、業績モメンタム戦略の参考銘柄を抽出しました。 比較的売買が行いやすいように流動性を考慮して東証プライム上場で時価総額800億円以上としています。更に、前年同期比(営業利益)の高い方から並び変えています。

【図表3】スクリーニング(東証プライム上場、今期予想営業増益率、四半期実績営業利益の前年同期比と来期予想営業増益率が10%以上、今期と来期の営業利益予想変化率が共に3%以上、時価総額800億円以上、(四半期実績営業利益の前年同期比の降順)
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2025年9月15日時点)

具体的なスクリーニング入力項目は(図表4)に示しました。みなさんも投資の参考にしてみてください。

【図表4】スクリーニングの条件設定画面(銘柄スカウター)
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター (ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年9月15日時点)