NY先物市場では2日続けて史上最高値を更新、日本でも上昇中
金価格の驚くべき上昇が続いています。9月8日(月)の時点で、国際的な指標とされているNY先物市場では1トロイオンス=3,657.5ドルまで上昇し、2日続けて史上最高値を更新しました。ロンドン市場でも現物価格は3,616.64ドルを記録して、史上初めて3,600ドルを上回っています。
「トロイオンス」とは貴金属の重さを示す単位で、主に金を取引する際に使われます。1トロイオンスは31.103グラムで、通常の1オンス(28.3495グラム)よりも重くなっており、中世にヨーロッパで使用された単位が現在もそのまま使われています。
海外市場に連動して日本でも金の小売価格は上昇しています。田中貴金属工業が9月8日(月)午前に発表した小売価格は、18,915円(前週末比+224円、+1.2%)と、同じく史上最高値を更新しました。
金価格の変動要因5つのポイント
魅惑的な輝きを放つ金(ゴールド)は人の手で生成できない希少金属で、地中から掘り出す方法でしか手に入りません。貴金属の中でも最高峰とされ、その価値は永遠のものとされています。古くから富と地位と権力の象徴であり、通貨としても用いられてきました。金価格の変動要因には以下の点が挙げられます。
(1)有事の金買い
地球のどこかで大きな戦争が始まると、価値の退蔵手段として金が好まれ、価格が上昇します。ロシアのウクライナ侵攻はますます長期化の様相を深めており、トランプ米大統領とプーチン露大統領による首脳会談が直接実現しても、解決の糸口は容易には見出せないようです。
また、イスラエルによるガザ地区への攻撃など中東紛争も和平への道筋は困難を極めており、地政学的リスクの高まりは金の需要を高めます。
(2)米ドルの価値下落
米国の景気動向が金価格の行方を左右します。労働省が9月5日(金)に発表した8月の雇用統計は非農業就業者数が前月比で+2.2万人と市場予想の8万人を下回りました。雇用の減速が鮮明となりつつあり、FRB(連邦準備制度理事会)は9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利下げに踏み切るとの見方が強まっています。金利低下によって米ドルが下落すると、表裏一体の関係にある金の価値は高まります。
(3)米国の信認低下
米国の景気鈍化、金利の低下以上に金の需要を支えているのが、国家としての米国の信認低下です。トランプ米大統領は8月20日(水)、FRBのリサ・クック理事の辞任を要求しました。その後、さらにエスカレートして自身のSNSを通じて「解任」を通告しました。中央銀行としての独立性が揺らぐとの懸念が強まり、それが米国の信認低下につながって金の価格を押し上げています。
かつてトルコでエルドアン大統領が中央銀行に利下げ圧力をかけた際に、トルコリラへの信認が失われて通貨が暴落し、金の需要が急激に高まったことがありました。ここまで極端な事態にはならないまでも、マーケットは米国の置かれている状況はかつてのトルコの惨状に重なるものがあります。
(4)実需の買い
金には宝飾品や産業用途での需要が存在します。半導体市場の景況感がいま以上に盛り返しつつあり、トランプ関税の問題も一服して自動車産業が再び盛り返せば、金の実需も強まります。
また、各国中央銀行も準備通貨としての金の購入意欲を高めているとされています。特に中規模の先進国や発展途上国の中央銀行は、ロシアのウクライナ侵攻以降、ポートフォリオの分散という長期的な観点から金準備を増やしています。それらの需要も金の下値を支えています。
(5)インフレ予想の高まり
現在の貴金属市場では、金の価格高騰と並行して他の貴金属も価格が高騰しています。銀(シルバー)はNY先物市場で2009年9月以来、14年ぶりの高値まで上昇しました。
銀は俗に「貧者の貴金属」と言われるように、金よりも何段階か価値が低いものと見られています。その銀が記録的な水準まで上昇しています。これは上記(1)~(4)の理由を超えて、将来のインフレ高進を見越したものだとも指摘されています。
日本でも物価の上昇が止まりません。全国の消費者物価指数は8ヶ月連続で3%を上回っています。しかも人手不足など供給側の理由に基づいたインフレと見られ、日銀が利上げを行っても簡単には物価の上昇は鎮静化しないと予想されています。これは諸物価が上昇する過程での複合的な金価格の高騰であり、まだしばらくは現在の状況が続く可能性があります。
金価格が上昇すると、金の鉱脈を所有し金を直接掘り出している金鉱株の株価は上昇します。しかし資源の少ない日本ではそのような銘柄はほとんど存在しません。それでも金価格に連動しやすい銘柄はあります。
金鉱株の関連銘柄をピックアップ
以下に金鉱に関連する企業をピックアップします。
住友金属鉱山(5713)
住友グループの祖業を継承した非鉄金属の大手である。収益の多くを銅、ニッケル、コバルトの精錬事業で挙げており、金鉱では国内最大の菱刈鉱山を所有(100%権益)している。菱刈鉱山は1985年の操業開始以来、高品位の金を安定して産出してきました。2025年3月期の販売金量は4.0トンとほぼ期初の計画どおりの水準であり、同じくカナダのコテ金鉱山でも6.2トンの金を生産している(非支配持分を除いた同社の権益は30%)。豪州ではリオティントが保有するウィヌ銅・金プロジェクトの30%権益を前期中に取得した。
三菱マテリアル(5711)
住友金属鉱山と並ぶ非鉄の総合トップである。1873年の創業期は銅山の資源開発からスタートし、1990年の三菱金属・三菱鉱業セメントの合併以降は銅、アルミ、セメント、電子材料を中核事業としている。金属材料として金地金を取り扱い、純金積み立ても販売する。小名浜製錬所では、銅精鉱の縮小を検討している。「都市鉱山」と言われる貴金属リサイクルを強化しており、金、銀、すず、鉛、ビスマス、パラジウムを家電製品、情報端末から回収している。年間処理量では世界トップの実績を持つ。
AREホールディングス(5857)
貴金属リサイクルと貴金属精錬を行う企業として、1952年に大阪で創業した。年間40トン近い金のリサイクルを行っており、鉱山から金を掘り出す事業に換算すると世界第4位の規模に該当する。しかも同社の金リサイクルは、鉱山からの採鉱より98%もCO2の排出が少ないとされている。さらに、写真現像の定着液から銀をリサイクルする事業を開始した。1986年からは貴金属リサイクル事業に乗り出す。2015年に北米の金・銀の精錬事業を買収し、2023年に現社名に変更した。
