インテル[INTC]、ファウンドリー事業で微細化技術を強化

CEOへの辞任要求から一変、支援に動き始めたトランプ米大統領

かつて半導体セクターの盟主だったインテル[INTC]への注目度が再び高まっています。トランプ米大統領が8月上旬にマレーシア出身のリップブー・タン最高経営責任者(CEO)に辞任を求めたのが発端です。その後にタンCEOと面会したトランプ大統領はいつものように態度を一変させ、インテル支援に動きます。

インテルはこのところ苦戦続きで、業績も悪化しています。原因は現在の半導体セクターの主戦場である人工知能(AI)のフィールドでの競争力の弱さです。インテルは最大手のエヌビディア[NVDA]をキャッチアップする方針を掲げてデータセンター向けのプロセッサー「Xeon」の新モデル開発に重点を置き、生成AI(人工知能)の学習に向けたアクセラレーター「Gaudi 3 AIアクセラレーター」を投入していますが、これまでのところ大きなインパクトは残せていません。

主戦場でのキャッチアップを目指したものの、結果を残せなかったパット・ゲルシンガー氏が2024年12月にCEOを退任し、しばらく空席が続いていましたが、新たなCEOとして白羽の矢が立ったのが前述のタン氏で、2025年3月に就任しています。

前経営陣の方針撤回、単独再建を目指すタンCEO

タン氏は7月にインテルの従業員あてに出したメッセージの中で、従業員の約15%を削減するリストラ計画を推進すると同時に、ドイツとポーランドでの工場新設計画を中止すると明らかにしました。ファウンドリー事業を切り離し、外部からの出資を受け入れることを目指した前経営陣の方針を撤回し、単独再建を目指すと受け止められています。

ただ、ファウンドリー事業での技術力強化を推進する方向は変えていません。インテルは半導体の設計から製造までを一貫して手掛ける垂直統合型デバイスメーカー(IDM)ですが、微細化技術であるノードプロセス競争で先頭集団から脱落し、台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング[TSM]やサムスン電子に先行を許したことが大きな痛手となりました。

主力のCPU(中央処理装置)の生産をファウンドリー専業で圧倒的な技術力を持つ台湾セミコンダクター・マニュファクチャリングに委託するようではIDMとして機能不全に陥っていると言わざるを得ません。実際、2025年4-6月期決算ではファウンドリー部門の営業赤字が前年同期の28億200万ドルから31億6800万ドルに膨らんでいます。

ファウンドリー事業再建に向けてのロードマップは?

インテルのファウンドリー事業再建のロードマップ(工程表)ではまず1.8 nm(ナノメートル)相当の微細化技術を使う「18Aプロセス」を推進しています。2025年中にこの技術を使って自社の次世代CPU「パンサー・レイク」の生産を始め、その後に外部からの受注を目指す方向です。

ロードマップでは1.8 nmの後に1.4 nmの微細化に挑戦する方針を示していますが、タンCEOは大口顧客からの需要を投資継続の条件に挙げています。顧客ニーズという経済的な裏付けがなければ投資を進めない意向で、巨額投資の空回りを未然に防ぐ方向性を明確に打ち出したと言えそうです。

エッジAI=端末搭載のAI、「インテルのAI入ってる」になるか

一方、タンCEOはAI半導体について、現在主流となっているAIモデルのトレーニングという領域ではエヌビディアに太刀打ちできないと認めているようです。従業員との対話で「キャッチアップするには出遅れすぎた」「単純にエヌビディアが強すぎる」と発言したと伝わってます。

報道によると、タンCEOは次の有望分野としてエッジAIを挙げたようです。「エッジAIは大きく躍進する分野であり、確実に好機をとらえたい」との発言が報じられています。

エッジAIはクラウド経由ではなく、パソコンやスマートフォンなどネットワークの端末機器(エッジデバイス)にAI機能を搭載し、端末でデータ処理を行う仕組みです。インテルはデータセンターで使うAI半導体の分野でライバルの後塵を拝しましたが、もともとはパソコンに内蔵するCPUで業界を席巻しており、相性は悪くないと考えられます。将来的にエッジAIの分野で「インテル入ってる」を再現できるか注目されそうです。

【図表1】インテル[INTC]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表2】インテル[INTC]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月5日時点)

エヌビディア[NVDA]、中国の動向が懸案に

市場予想を上回る驚異的な決算

苦境のインテルと対照的にエヌビディア[NVDA]は快進撃を続けています。2025年5-7月期決算は売上高が前年同期比56%増の467億4300万ドル、純利益が59%増の264億2200万ドルでした。EPS(1株当たり利益)や売上高見通しは市場予想を上回りましたが、驚異的な決算に慣れた投資家の期待値は上がる一方で、決算発表後の時間外取引でエヌビディア株は下落しています。

5-7月期決算では主力のデータセンター向け事業の売上高が56%増の410億9600万ドルと全体をけん引しました。AIのディープラーニングには高性能GPUの計算能力が不可欠で、需要は衰えていません。

ゲーム向けは売上高が49%増の42億8700万ドルとこちらも好調です。この分野ではGPUの画像処理の機能が利用されています。

ジェンスン・ファンCEOは慎重姿勢

決算内容は盤石で、死角は少ないとみられていますが、ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は事業の先行きについて慎重姿勢を崩していません。特に懸案材料に挙げているのが中国の動向です。

トランプ政権はエヌビディアのAI半導体「H20」の対中輸出を認めていますが、売上高の15%を米政府に支払うよう求めています。一方、中国政府はセキュリティー上の懸念を理由に「H20」の利用を控えるよう国内企業に求めており、輸出開始には難航も予想されます。

また、先端GPUの輸入を封じられた中国勢が国産GPUに全精力を傾けていることも脅威です。中国では有望な産業分野が出現すると新規参入が相次ぎ、玉石混交の乱立状態でサバイバルを繰り広げるのが通例です。ソーラーパネルにしろ電気自動車(EV)にしろ徐々に淘汰が進み、生き残った企業はグローバルで競争力を持つケースが多いようです。

現状ではAI半導体がこれに当てはまり、通信機器の世界的な大手、ファーウェイが国産GPUで先行しています。このほかにも上海証券取引所の新興市場である科創板に上場する中科寒武紀科技や海光信息技術、深センの新興市場に上場する長沙景嘉微電子、エヌビディアの中国担当の元幹部が立ち上げた摩爾線程智能科技、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]の元従業員が創業した沐曦集成電路など有望企業が次々に現れています。

ファンCEOは中国勢の技術力について「われわれのすぐ背後におり、接近している」と発言。ファーウェイについては「最も手強いライバル」と話し、警戒感を強めています。

【図表3】エヌビディア[NVDA]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は1月
【図表4】エヌビディア[NVDA]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月5日時点)

ブロードコム[AVGO]、カスタムAI半導体に力点

ブロードコム[AVGO]はAI半導体の開発を重視していますが、GPUで圧倒的な競争力を持つエヌビディアと同じ土俵に上がるつもりはなさそうです。AIデータセンター向け事業ではクラウド大手と共同開発するカスタムAI半導体(ASIC)に重点を置き、独自路線を歩んでいます。

ASICの特徴は用途に合致したカスタマイズで無駄を省き、エネルギー効率を高めた上でAIインフラのワークロード(作業量)をこなせる点です。AIの大規模言語モデルからリアルタイム画像処理まで対応し、しかもコストの抑制が可能です。

AI半導体の主要ユーザーで、データセンター投資を積極的に進めるハイパースケーラーの間でASICを利用する動きが広がっています。このうちアルファベット[GOOGL]傘下のグーグルはブロードコムと共同でAIチップの「TPU v5」を開発。マイクロソフト[MSFT]もASICの開発でブロードコムと協力しています。

一方、ブロードコムはメタ・プラットフォームズ[META]に省エネ性能の高いASICの「Meta MTIA」を提供しています。さらにショート動画のTikTokを展開するバイトダンスは動画レコメンドシステムの機能向上にブロードコムのASICを使っているようです。

AI半導体事業の成長は業績にも表れています。2025年2-4月期決算では半導体ソリューション部門の売上高が前年同期比17%増の84億800万ドル、営業利益が21%増の48億600万ドルと順調に伸びています。

【図表5】ブロードコム[AVGO]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は10月
【図表6】ブロードコム[AVGO]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月5日時点)

アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]、エヌビディアに直球勝負

ブロードコムがカスタムAI半導体(ASIC)という変化球に重点を置く中、アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]はエヌビディアに直球勝負を挑んでいる印象です。GPUを開発しており、すでにマイクロソフトやメタ・プラットフォームズなど多くのハイパースケーラーが採用しています。

アドバンスト・マイクロ・デバイシズがエヌビディアに対抗するための武器として主張しているのがコストパフォーマンスです。エヌビディアの高性能GPUは高額という点でも有名ですが、低価格で投入することで優れたコストパフォーマンスを実現しようとしています。

ここで連想されるのがパソコン用のCPUで、当時の王者インテルに対抗した経緯です。全盛期のインテルにはCPUの性能面で太刀打ちできず、安価な代替品としての位置づけでしたが、その後に技術力が高まり、性能面でも遜色ない水準にまで改善すると同時に市場シェアも上昇しています。CPUのストーリーをGPUでも再現できるのか注目されます。

【図表7】アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表8】アドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月5日時点)