モトリーフール米国本社 – 2025年8月17日 投稿記事より

「特許切れ」の逆風を乗り越えてきた2社

製薬会社は定期的に大きな試練に直面します。その代表例が「特許切れ」です。特許による独占期間が終わると、先発薬の成分を模倣した安価なジェネリック医薬品や、異なる構造を持つバイオシミラーが市場に参入し、シェアを奪われるリスクがあります。これは製薬会社にとって大きな脅威となり得ます。しかし、そのような逆風をうまく乗り越え、堅調な業績を維持している企業も存在します。

本稿では、特許切れによる主力品の影響を受ける可能性はあるものの、それを克服する力を持つ製薬業界のリーダー企業として、ジョンソン・エンド・ジョンソン(以下J&J)[JNJ]とノバルティス[NVS]の2社を取り上げます。

配当王の1つであるジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J):「特許切れ」をイノベーションで乗り越える

2024年7月、J&Jの主要製品のひとつである免疫疾患治療薬「ステラーラ」が、欧州市場でバイオシミラー品との競争に直面しました。さらに、2025年2月には同様の問題が米国でも発生し、その影響でステラーラの売上高は急減しました。具体的には、第2四半期のステラーラの売上高は17億ドルと、前年同期の実績から42.7%減少したのです。

それにもかかわらず、J&Jは堅調な業績を維持しています。第2四半期の全社売上高は237億ドルと、前年同期比で5.8%の増加を記録しました。また、同社は通期の売上高および利益見通しをいずれも上方修正しています。つまり、ステラーラの減収を補うだけの力を発揮し、全体としては引き続き良好なパフォーマンスを示しているのです。

J&Jは、製薬部門で非常に多様な事業を展開しており、多彩な医薬品を保有しています。特に成長を主に牽引しているのは、がん治療薬の「ダラザレックス」や「エルレーダ」、免疫疾患治療薬「レミケード」などです。さらに、新薬も待機しています。2025年初頭には、筋力低下を引き起こす重症筋無力症治療薬の「イマビー」が承認されました。そして、膀胱がんの革新的な治療薬として期待されている「TAR-200」は、規制当局の承認を待っている段階です。

製薬だけでなく、J&Jは医療機器分野でも世界的な大手です。長期的な成長ドライバのひとつとして見込まれているのが、手術支援ロボットシステム「オッターヴァ」で、こちらは現在米国で臨床試験の段階にあります。

また、同社は、「特許切れ」に加え「薬価交渉」といった事業上の逆風に対しても、イノベーションを武器に克服していくことが可能でしょう。ステラーラのケースで示されたように、減収リスクを補う力を実際に発揮しています。

さらに、J&Jは株主還元の面でも際立っています。62年連続で増配を続けており、「配当王」と呼ばれる企業のひとつです。こうした実績からも、同社は直面する課題を乗り越え、長期的に安定したリターンを投資家に提供し続けると考えられます。

28年連続増配のノバルティス:幅広い製品群と新薬で成長を維持

ノバルティスは、2025年後半に米国で心不全治療薬「エントレスト」がジェネリック医薬品との競争にさらされることを見据え、備えを進めています。2025年上半期における「エントレスト」の売上高は46億ドルに達し、その約52%を米国市場が占めています。

本来であれば、主力製品が最も重要な市場でジェネリックと競合することは大きな打撃となり得ます。しかし、ノバルティスの場合はそうではありません。同社は2025年通期の売上成長率を「1桁後半」と見込んでおり、これは製薬大手としては堅調な業績を示す水準です。

2026年、仮に「エントレスト」の特許切れが決算に大きな影響を与えるとしても、ノバルティスにとって致命的な問題にはならないでしょう。同社は多様な治療分野をカバーする広範な製品ポートフォリオを有しており、数多くのブロックバスター薬(年間売上10億ドル超)を抱えています。実際、2025年上半期だけで7つの製品がそれぞれ10億ドルを超える売上を記録しました。

さらに、今後の成長を支える新薬も登場しています。2025年4月には、新薬「ヴァンラフィア(日本名:アトラセンタン)」が米国で承認されました。この薬は、慢性腎臓疾患の一つであるIgA腎症に伴う蛋白尿の治療を目的としています。一部のアナリストは「ヴァンラフィア」のピーク時売上が15億ドル規模に達する可能性があると予測しています。

このように、豊富な製品ラインナップに加え、新薬の継続的な上市が見込まれることから、ノバルティスは「エントレスト」の特許切れによる影響を十分に吸収できる体制にあると言えるでしょう。
さらにノバルティスは、「エントレスト」のジェネリック品をめぐり合法性に関する特許訴訟にも取り組んでいます。もし訴訟で勝利すれば、ジェネリック品の発売を計画していた企業に対して金銭的な補償を請求できる可能性があります。

仮にその結果が得られなかったとしても、ノバルティスは長期的に安定した売上と利益を創出し続ける見込みです。加えて、同社は28年連続で増配を続けており、今後も毎年の配当増加が期待されます。特許切れのリスクに直面しながらも、一貫した成長と確かな株主還元の実績を持つノバルティスは、安定した配当を重視する投資家にとって魅力的な投資先のひとつといえるでしょう。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Prosper Junior Bakinyはジョンソン・エンド・ジョンソンの株式を保有しています。 モトリーフール米国本社は、ジョンソン・エンド・ジョンソンを推奨しています。モトリーフール米国本社は情報開示方針を定めています。