米副大統領が「ビットコインは戦略的に重要な資産になる」と発言

J・D・バンス米副大統領が5月28日、ラスベガスで開催されたビットコインの関連イベント「Bitcoin 2025」の基調演説に登場。デジタル資産の革新を促進し、暗号資産を完全に経済に組み込むための法的枠組みの構築に向けて取り組んでいると述べた。また、トランプ米大統領が3月にビットコインの戦略備蓄に向けた大統領令に署名したことを称賛し、ビットコインが今後10年間にわたって米国の戦略的に重要な資産になると訴えた。

トランプ米大統領は選挙期間中、「米国を暗号資産の首都にする」として、暗号資産業界を強く支援する姿勢を示していた。仮想通貨ビットコインが5月に入り約3ヶ月ぶりに10万ドルの大台を突破、年初来からの上昇率は11%に達している。トランプ政権が発動する政策への不透明感から、株式市場や債券市場が高ボラティリティとなる中で、一部の投資家が代替資産または安全な避難所として暗号通貨に目を向けている可能性を示唆している。

「ペイパルマフィア」とは?トランプ政権におけるAI・暗号資産の責任者もその1人

トランプ政権でAI(人工知能)と暗号資産に関連した政策の責任者を担っているのは、米決済大手ペイパル・ホールディングス[PYPL](以下、ペイパル)の元幹部で著名ベンチャー投資家のデービッド・サックス氏だ。サックス氏は、ペイパルの創業期にCOO(最高執行責任者)としてサービスの成長を支えた人物で、エアビーアンドビー[ABNB]、スラック・テクノロジーズ、ウーバー・テクノロジーズ[UBER]などのスタートアップに早期投資をした実績を持っている。

サックス氏はペイパルのCEO(最高経営責任者)であったピーター・ティール氏と非常に近いことが知られている。ティール氏は2016年にトランプ支持を表明し、政権移行チームにも参加した。そうした流れで、サックス氏はトランプ2.0のチームの一員として招聘されたと推察される。

サックス氏がかつて幹部を務めたペイパルには、現在テスラ[TSLA]やスペースXなどのCEOを務めるイーロン・マスク氏が所属していた。また、パランティア・テクノロジーズ[PLTR]を創業した前述のティール氏、フィンテック企業のアファーム・ホールディングス[AFRM]を設立したマックス・レブチン氏なども関わっていた。テクノロジー界隈に与える影響力の高さから彼らは「ペイパルマフィア」と呼ばれている。

ペイパルマフィアの原点には、「人」に投資するという視点が欠かせない。それは、イノベーションの連鎖を生む源泉であるとも言える。企業のプロダクトや財務情報に加え、誰が作っているのか、誰が率いているのかという視点は、企業を選別する上で重要な視点になる。人(リーダー)の個性が際立つペイパルマフィア絡みの2つの企業を取り上げてみよう。

テスラ[TSLA]のイーロン・マスク氏もペイパルマフィアの1人

ペイパルマフィアの1人であるイーロン・マスク氏がCEO(最高経営責任者)を勤めるテスラが、4月22日に2025年1-3月期の決算を発表した。売上高は前年同期比9.2%減の193億3500万ドル、最終利益は70.6%減の4億900万ドルと、大幅な減収減益だった。政治的な発言を強めるマスク氏への反発に伴った不買運動や中国での販売減が響き、1-3月期の世界販売台数は33万6681台と13%減少した。

【図表1】テスラの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成
【図表2】テスラの営業利益率
出所:決算資料より筆者作成

マスク氏は「会議室やサーバールーム、工場で寝る日々に戻る」と宣言

マスク氏は不買運動について、4月22日の決算発表時に行われた投資家とのアーニングス・コールの中で次のように述べている。

毎日が刺激的だ。知っている人もいると思うが、私が政府効率化局(DOGE)で過ごしている時間に対して非難が起きている。そこで行っている仕事は、米国を破滅へと導いている非常識な赤字を阻止しようとする上でとても重要なことだと思う。DOGEチームは、無駄や不正に対処するために多くの進歩を遂げた。その反動として浪費や不正に手を染めていた人々が、私やDOGEチーム、そして私に関係するあらゆるものを攻撃しようとするのは当然のことだ。

私には2つの選択肢が残されている。無駄と不正をこのまま放置しておくべきか。それとも無駄や不正と戦い国を正しい軌道に戻そうとするのか。そして私は、正しいことは無駄と不正と戦い、国を正しい軌道に戻し、トランプ大統領や彼の政権と協力することだと信じている。なぜなら、米国という船が沈めば、テスラをはじめとするすべての人が沈むからだ。だから、これは重要な仕事だと思う。

5月30日、マスク氏はDOGEでの任期を終えた。その約1週間前の5月24日にはX(旧ツイッター)への投稿で「私はXやxAI、テスラ、スターシップ(スペースXのロケット)の打ち上げに非常に集中しなければならない」と述べ、米政府の仕事よりも自身が率いる企業群の経営に注力する姿勢を改めて示した。マスク氏は「24時間、週7日を仕事に費やす日々に戻り、会議室やサーバールーム、工場で寝ている」と追記した。

テスラの足元の業績には急ブレーキがかかっているものの、研究開発型企業としてテスラが社会にもたらそうとしている技術革新は進んでいる。マスク氏は以前から、6月にもテキサス州オースティンでロボタクシーの運行を開始する計画について言及している。マスク氏は「これは夢物語ではない。文字通りあと5ヶ月だ」と述べた。ロボタクシーは他の都市においても年内に運行がスタートする予定だ。

パランティア・テクノロジーズ[PLTR]創業者のピーター・ティール氏もペイパルマフィア

パランティア・テクノロジーズ(以下、パランティア)はピーター・ティール氏を中心に2003年に創業され、ビッグデータ分析などのソフトウェアを提供している。創業当時から米軍、国防総省、FBI(連邦捜査局)、CIA(中央情報局)などといった政府関連機関を顧客に抱えている企業だ。パランティアが初めに大口の資金調達を行ったのは、CIAが運営する非営利型のベンチャーキャピタルIn-Q-Telだった。

業績は好調に推移している。5月5日にパランティアが発表した2025年1-3月期決算は、売上高が前年同期比39%増の8億8385万ドル、純利益は約2倍の2億1403万ドルだった。米国企業を中心に防衛分野向けAIサービスの販売が伸びた。

【図表3】パランティアの売上高と純利益の推移
出所:決算資料より筆者作成

パランティア・テクノロジーズはトランプ政権での存在価値に期待が高まる

SaaS(Software as a Service)型ビジネスに取り組む企業を評価する基準に「40%ルール(Rule of 40%)」というものがある。売上成長率と営業利益率の合計が40%を超えていると健全とされ、1つの目安として用いられるものだ。

SaaS型ビジネスでは、機能を強化しながらユーザーが利用し続けたいと感じるサービスを開発する必要がある。継続的に利用されるサービスへの改善にコストが必要となる他、SaaSが提案する新しいサービスにユーザーを集めるためには、ある程度の期間を要する。サービスの成長スピードを伸ばすためにはコストがかかり、その間は赤字が続くことが想定される。

パランティアも同様の道のりをたどった。2022年まではなかなか40%ルールを超えることが出来なかったが、2023年第1四半期からこの水準をクリアし、その後は売上高が大きく伸び、営業利益率も高まっていることから、直近では売上高成長率と営業利益率を合計した値は83%を記録した。

【図表4】パランティアの40%ルール
出所:決算資料より筆者作成

パランティアのCEOであるアレックス・カープ氏は、四半期ごとに「株主への手紙」を自社のHPに公開している。直近の手紙の中でカープ氏は次のように述べている。

「私たちの業績は、私たちの事業の広義の価値を測る究極の尺度ではないし、今後もそうなることはないだろう。私たちにはもっと壮大で特異な目標がある。市場がこの世界における価値を計ろうとする際の基準である財務実績は、私たちが期待していたものを上回り続けている」

トランプ政権の連邦政府データ統合に向けて、パランティアが活躍する舞台は整っている。

石原順の注目5銘柄

テスラ[TSLA]
出所:トレードステーション
パランティア・テクノロジーズ[PLTR]
出所:トレードステーション
ペイパル・ホールディングス[PYPL]
出所:トレードステーション
エアビーアンドビー[ABNB]
出所:トレードステーション
ウーバー・テクノロジーズ[UBER]
出所:トレードステーション