先週(5月12日週)の振り返り=一時148円まで米ドル急騰もすぐに下落へ転換

早々に終わった「米中サプライズ」受けた米ドル急騰

先週は、週明け早々に米中が一時的な関税率の大幅引き下げで合意し、「貿易戦争」への懸念が大きく後退したことで、世界的な株価急騰となる中、米ドル/円も145円台から一気に148円台後半まで一段高となりました(図表1参照)。ただ、すぐに下落に転じると、週末には一時145円も割れるなど、「米中サプライズ」を受けた米ドル/円の急騰も、「行って来い」の結果となりました。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年2月~)
出所:マネックストレーダーFX

「米中サプライズ」を受けた米ドル/円の急騰は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からはかい離したものでした(図表2参照)。日米金利差がそれほど拡大しなかったにもかかわらず米ドル高・円安が大きく広がった理由としては、短期売買を行う投機筋が米ドル買い・円売り拡大に動いた影響などが大きかったのではないでしょうか。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

代表的な投機筋であるヘッジファンドの取引を反映しているCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、最近まで空前規模の買い越し(米ドル売り越し)が続いていました(図表3参照)。こうしたポジションは、米ドル高・円安が大きく進むと利益が縮小し、むしろ損失に転落するリスクも高くなります。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このため予想外の米中合意を受けて、世界的な株価急騰となる中で、リスクオンを理由に米ドル高・円安が急拡大することを警戒し、米ドル売り・円買いポジションの圧縮(米ドル買い・円売り)を急いだことが、日米金利差拡大以上の米ドル高・円安をもたらした主因だったのではないでしょうか。

なお、米ドル/円が一気に148円台まで急騰した翌日、13日時点の投機筋の円買い越しは17.2万枚で1週間前に比べ0.4万枚の小幅な縮小に過ぎませんでした。しかし、円急落の直後だったことから、どれだけ実態を反映したかは不確かで、実際にはもっと大きく減った可能性もあったのではないでしょうか(図表4参照)。

【図表4】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米国からの円高圧力警戒などから週末には一時145円割れ

ただ、このような米ドル/円の急騰は月曜日で早々に一巡すると、その後は下落に転じ、金曜日には一時145円割れとなり、「米中サプライズ」で米ドル/円急騰が始まったほぼ元の水準まで戻りました。これは、株高が落ち着いたこと、そして金利差拡大の追随もなかったことから、投機筋の円売りも一服したことが一因と考えられます。

それに加えて、関税交渉で米国が相手国に通貨高を求める可能性があるといった思惑が浮上し、それが円買いをもたらした面もあったようです。5月14日(水)に、米韓が財務相代理会談を行い、為替について協議したといった一部報道もきっかけになったようです。

今週(5月19日週)の注目点=日米為替協議や米景気動向

円安是正で議論も、対外的な説明は抑制される?

今週はカナダで行われるG7財務相会議のタイミングで、日米財務相会談も行われる見通しになっているため、為替協議が注目を集めることになりそうです。では日米関税交渉の中で為替問題が取り上げられるかという点について、トランプ政権側は円安などを非関税障壁と位置付けていることから、日本向けの関税率引き下げ交渉の俎上(そじょう)に円安是正が取り上げられる可能性はやはり高いのではないでしょうか。

4月下旬に加藤財務相とベッセント米財務長官による会談が行われた際には、具体的な「通貨目標」などは求められなかったと財務省は説明しました。ただ当時はトランプ米大統領の相互関税発表をきっかけに起こった「関税ショック」で「米国売り」がくすぶっていたことから、それを悪化させるリスクのある為替の議論を控えたのではないでしょうか。

逆に言えば、そんな「米国売り」リスクが一段落したと判断すれば、為替について踏み込んだ議論になる可能性はあるでしょう。そもそも、上述のように先週(5月12日週)米韓の交渉で為替が協議されたとの思惑が流れたことも、そのような文脈、つまり「米国売り」リスクが一段落したことで、為替を協議しやすくなっていると理解されるのではないでしょうか。

ただし、米国側が具体的な目標を設定するなど強い円高圧力をかけてくることはあるかと言えば、それは不確かでしょう。例えば、「米国が120円までの円高誘導を要求」となった場合、為替市場から米ドル買いは消滅し、米ドル売りが殺到しかねないのです。

その意味では、実際にはかなり踏み込んだ円安是正、円高誘導への議論を行ったとしても、対外的な説明は極力控えられたものにとどまると考えられます。例えば「日米はともに通貨安が互いの貿易にとって不公正なものにならないように配慮し、金融・通貨政策を緊密に協力する」といった程度の内容になり、基本的には合意文書に盛り込む可能性も低いのではないでしょうか。

今週(5月19日週)は143~147円で方向感定まりにくい展開か

日米関税交渉以外では、米景気の動向が引き続き注目されるでしょう。米GDP (国内総生産)は2025年第1四半期が2022年以来のマイナス成長となりましたが、足下の第2四半期については2%程度のプラスに転換するとの見方も浮上してきました。米景気の急減速や景気後退への懸念の後退は、米ドル先安観の見直しにつながる可能性があるだけに、引き続きしっかり見極めていく必要があるでしょう。

米中の緊張緩和を受けた世界的な株高、リスクオンでも先週(5月12日週)の米ドル高・円安が一時的にとどまったことを考えると、この先も米ドル高・円安への戻りは自ずと限られるのではないでしょうか。一方、米国からの円高圧力も表面的には曖昧なものにとどまる可能性が高いと考えられることから、米ドル安・円高リスクが急に拡大する可能性も低いのではないでしょうか。このため、今週の米ドル/円は、143~147円で方向感の定まりにくい展開になると予想します。