相互関税発表から始まった「米国売り」
日本時間の4月3日、トランプ大統領が肝入りの政策である相互関税を発表してから間もなく米金利が急騰した。それに伴い日米金利差(米ドル優位・円劣位)は急拡大に向かったが、それと逆行する形で米ドル/円の急落が始まった(図表1参照)。

このように日米金利差拡大を尻目に米ドル/円が急落する展開は、今週(4月21日週)に入りトランプ大統領がパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長解任の可能性を否定、また関税政策を巡る米中対立の緊張緩和の可能性が浮上したことなどを手掛かりに一段落した。ではこれで、「米国売り」、「悪い金利上昇」などと呼ばれた局面は峠を越えたのだろうか。
トランプ政権1期目にも似たような局面あり=2018年
米金利が上昇し、日米金利差が拡大する中で米ドル/円が急落に向かったという現象は、実はトランプ政権1期目にも起こっていたが、それは2018年1月から3月下旬にかけて2ヶ月以上続いた(図表2参照)。つまり簡単には終わらなかったわけだが、そのトランプ政権1期目の「悪い金利上昇」について少し詳しく見てみたい。

この時の米金利上昇のきっかけは、トランプ大統領の経済政策の柱だった大型減税「トランプ減税」が議会で成立したことだった。それはむしろ財政赤字拡大の面が嫌気されるところとなり、2018年1月から米金利が上昇する一方で米国株は急落に向かい、そして米ドルも下がる株価に追随する形で一段安となった。このような米国株、米国債、米ドルの「トリプル安」は、基本的に3月下旬にかけて2ヶ月以上も続いた。
米金利上昇はその後も続いたものの、株価と米ドルは3月下旬で一旦底を打つとその後はしばらく反発傾向が続いた。ただ10月に入ると株安が再燃した。これはまさに米中貿易戦争が嫌気されたと見られた。こうした中で、米金利上昇もついに終了し、株価急落が広がる中で米金利が低下し、日米金利差縮小に連れる形で米ドル安・円高も再燃となったのだった。
「米国売り」のきっかけ「トランプ不信」を払しょくできるか?
以上、トランプ政権1期目に経験した米金利上昇をきっかけとした米国株、米国債、米ドル「トリプル安」局面について振り返ってみた。この時の米金利上昇は、財政赤字拡大への懸念がきっかけとされた。今回の米金利上昇は、トランプ大統領の関税政策への不信がきっかけと見られ、その点は違う。
ただ、2018年の米金利上昇が始まるとそれは1年近く長く続いたということは印象的だ。結局この金利上昇が終わったのは、米中貿易戦争の悪化により景気先行きへの懸念が強まり米国株が急落に向かい始めたタイミングだった。
今回の米金利上昇のきっかけは、すでに述べたようにトランプ大統領の関税政策への不信感や、FRBの独立性を揺るがすという信認低下だった。このため、トランプ政権としても米金利上昇、「米国売り」再燃を回避するために、そうした不信感の払しょくに動いているように見えるが、果たしてそれができるだろうか。
5月には米国債の四半期定例入札が行われると見られる。もしもそれまでに「米国売り」リスクを鎮静化できなければ、このタイミングで償還された資金を米国債に再投資する割合が大きく低下し、米国債は急落する懸念もあるのではないか。以上のように見ると、「米国売り」再燃リスクはまだ綱渡りの状況が続きそうだ。