現在の金融市場では、レバレッジ(借入による投資)を活用した取引が広がっています。株式や債券のみならず、プライベートエクイティや暗号資産、商品市場にまで及び、多くの投資家が元手の何倍ものリスクテイクが可能となっています。

その背景には、2008年の金融危機以降の長期にわたる低金利政策があります。特に2020年のパンデミック対応では、金融緩和が一段と強まり、資金調達コストが大幅に低下しました。この豊富な流動性が市場を押し上げた一方で、本来は短期的な値上がり益を狙うレバレッジ投資が、長期の上昇相場のなかでETF(上場投資信託)などを通じて広く普及し、あたかも一般的な長期投資手法のように認識されるようになりました。

2022年以降、インフレの再燃を受けてFRB(米連邦準備制度理事会)をはじめ各国中銀は急速に利上げに転じ、低金利局面は終わりを迎えましたが、それでもレバレッジを活用したリスクテイクは継続しています。

この背景にはいくつかの要因があります。第一に、経済主体が低金利下で調達した長期固定資金の恩恵を受け、利上げ後も当面の返済負担は軽減されていること。第二に、超低金利からの正常化が進むなかでも、過去の水準と比べて「まだ金利は低い」といった感覚が残っていたこと。

さらに、銀行以外の資金供給源、シャドーバンキングやプライベートクレジット市場の拡大により、レバレッジ資金が潤沢に供給されている点も見逃せません。企業側でもレバレッジ投資が行われているのです。加えて、市場全体が堅調に推移するなか、「FOMO(取り残される恐怖)」が投資家心理を後押ししています。

ただし、こうした構造には大きなリスクが潜んでいます。今後、低金利時代に長期借入を行った企業が借換えのタイミングを迎えることで、資金調達環境は厳しさを増す可能性があります。それを待たずとも、関税政策をめぐる不透明感が相場の変動を引き起こし、投資家の資金フローに巻き戻しの兆しも見られます。

先週はレバレッジETF市場で過去最大の損失が発生し、わずか2日間で価値が半減するなど、リスクの連鎖が顕在化しました。今後も市場のボラティリティが高止まりするようであれば、レバレッジの巻き戻しに伴う相場の不安定さ助長のおそれもあります。

短期的な利益を追い求めたレバレッジの拡大は、金融システム全体の脆弱性を高めています。債券市場でのベーシス取引(4月9日『【マクロテーマ解説】短期的に注意される米金利の急騰)』参照)も含め、短期的な動きには警戒が必要です。適度なレバレッジであれば良いのですが、過度のレバレッジは相場変動時に要注意です。いまこそ冷静に、過度な楽観を排し、リスクとの向き合い方を見直すべきときではないでしょうか。