2025年3月13日(木)21:30発表(日本時間)
米国 生産者物価指数(PPI)

【1】結果:総合、コアいずれも市場予想を下回りインフレ圧力の低下を示唆

【図表1】米生産者物価指数PPI(最終需要)結果まとめ
※市場予想はBloombergがまとめたエコノミスト予想の中央値
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

2月の米国生産者物価指数(PPI)は前年同月比3.2%上昇し、市場予想の3.3%を下回りました。前月比ベースでは横ばい(0.0%)となり、市場予想の0.3%上昇を下回るとともに、前月の0.6%上昇(速報値0.4%上昇)から伸びが鈍化しました。

変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアPPIは、前年同月比3.4%上昇し、こちらも市場予想の3.5%を下回って前月から鈍化しました。前月比ベースでは0.1%低下し、市場予想の0.3%上昇に反してマイナスとなりました。

【2】内容・注目点:エネルギーと流通マージンが指数を下押し

そもそもPPIとは

PPIとは、米国の生産者物価指数のことを指し、原材料や製品を対象として生産段階での財・サービスの価格変動を測定しています。

例えば、机などの家具で考えると、企業が机という商品を生産するために仕入れる木材や金属といった原材料の価格変動を測定するのがPPIであるのに対し、CPIは最終的に消費者が購入する際の机の価格変動を測定します。

必ずしもそうとは限らないものの、一般的に、企業が仕入れる原材料の価格変動は、最終的に消費者が支払う価格に反映されることが多いため、PPIはCPIの先行指標として注目されています。

【図表2】CPIとPPIの推移
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

また、PPIの項目のうち、ポートフォリオ管理費や航空運賃、外来医療費などは、FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として採用している個人消費支出(PCE)価格指数の算出に用いられるとされています。このため、PPIは月末に発表されるPCE価格指数や、今後の金融政策の動向を予測するうえでも注目が集まります。

2月結果の内訳・詳細

今回2月のPPIの結果は、総合指数とコア指数いずれも市場予想を下回って前月から鈍化し、ヘッドラインの数値からは今後のインフレ圧力の低下が示唆される結果となりました(図表1参照)。

【図表3】米国生産者物価指数(前月比)の内訳
出所:米労働省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表3の通り、前月比の内訳を見ると、財価格は1月の+0.6%から2月は+0.3%へと伸びが鈍化しました。これは、エネルギー価格が低下した(+1.8%→-1.2%)ことが主な要因です。

エネルギー価格の下落については、2月に入ってからのWTI原油先物価格の低下の動きと整合的です(図表4参照)。原油先物価格は、3月に入ってからも比較的落ち着いた動きとなっていることから、来月のPPIでもエネルギー価格はそこまでの押上げ要因とはならないことが想定されます。

【図表4】WTI原油先物価格の推移
出所:Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

一方、食品については2月に伸びが加速(+1.0%→+1.7%)しました。

前日の消費者物価指数(CPI)では、食品価格の落ち着きが見られたものの、鳥インフルエンザの影響による卵の価格上昇により、生産者レベルでは食品価格の高騰が続いている模様です。来月以降のCPI食品価格への転嫁が懸念されます。

また、食品とエネルギーを除いたコア財価格は前月比+0.4%と、前月の+0.2%から加速し、約2年ぶりの高水準となりました。CPIやISM製造業景気指数にも示されているように、財需要は回復基調にあることがうかがえます。そして、財価格は関税強化の影響を受けやすいことから、今後の注目項目となるでしょう。

一方、サービス価格は前月比-0.2%と、2月にマイナスに転じました。主因は、小売・卸売業のマージン手数料が+1.2%から-1.0%へ大幅に低下したことです。この項目の低下は、インフレの観点では物価上昇をけん引してきたサービスインフレの抑制要因となるほか、関税強化によって財の輸入価格が上昇した際の消費者負担を和らげる側面があります。ただし、下落が続く場合には、流通業の利益率低下や需要全体の減速、雇用悪化が懸念されるため、今後は適度な水準が求められます。

そして、FRBが金融政策の判断材料とする個人消費支出(PCE)価格指数に関連する項目は、総じてややインフレ的な結果となりました。CPIの押下げ要因となったことで注目された航空運賃は前月から横ばいとなり、1月の+0.1%からわずかな鈍化にとどまりました。ポートフォリオ管理費も+0.5%と前月と同水準の伸びとなったほか、その他のヘルスケア関連項目も全体的に伸びの加速が目立ちました。

【3】所感:ヘッドラインは良好な数値だが、PCE構成項目に懸念は残る

2月のPPIは市場予想を下回り、前月から伸びが鈍化しました。ヘッドラインの数値だけを見ると、インフレ圧力の低下を示唆する良好な結果ですが、その主因は変動の大きいエネルギー価格と流通業のマージン手数料の低下です。

一方で、PCE(個人消費支出)価格指数を構成する項目は総じてインフレ的であり、全体としてインフレ鈍化を強く印象づける内容とは言えませんでした。

特に、前日のCPIでは航空運賃が-4.0%と大きく下落し、指数を押し下げていましたが、FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げ判断に用いるPCE価格指数では、航空運賃はPPIのデータを基に算出されます。その航空運賃がPPIでは前月比横ばいであり、インフレ鈍化の動きがあまり見られなかったため、前日のCPIの低下の結果はやや打ち消される形となりました。

またこの日は、同日に発表された新規失業保険申請件数は市場予想に反して減少し、米労働市場の堅調さを示したことから、利下げ期待はやや後退することになりました。

ただ、直近のマーケットでは、経済指標の結果はやや無視される形で、トランプ大統領の関税政策の動向に揺れる状況となっています。今後も、利下げ回数の微調整となる程度の経済指標に対する市場の反応は限定的となりそうで、大きく動くとすれば、景気の急減速が示される場合でしょう。特に、前月に大幅に落ち込んだ小売売上高には注目で、来週3月17日(月)の発表が焦点となります。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐