デフレ経済とアベノミクスによって長期間低位安定していた日本の金利が、上昇に転じています。日本の個人投資家にとって、どんな影響が出てくるのでしょうか?

「2つのインフレ」がもたらす日銀の利上げ

2025年2月、日本の長期金利は、指標となる10年国債の金利が一時1.43%まで上昇し、15年ぶりの高金利水準となりました。5年国債の金利も1%に到達し、マーケットは6月の日銀政策決定会合での利上げをほぼ織り込んだ形になりました。

金利上昇の背景として、原油や商品価格などのコスト上昇によるコストプッシュインフレだけではなく、人手不足を原因とする労働市場の逼迫(ひっぱく)のようなデマンドプルインフレも重なっています。

労働市場の逼迫は賃金の上昇につながり、人件費の上昇がさらにインフレをもたらすスパイラルを作り出すようになります。

金利上昇は日本経済にとってマイナス要因

インフレに伴う経済構造の転換は悪い話ではありませんが、それに伴う金利上昇は当然のことながら、日本経済全体で見ればマイナスの影響の方が大きくなります。

まず企業にとっては、借り入れコストが上昇することで、収益性が悪化します。収益力が弱い企業は市場から淘汰されていくことになるでしょう。

また国債価格の下落によって、長期国債を保有している日銀や金融機関の評価損が発生し、金融システムに対する懸念が生まれるリスクがあります。

金利の先高感が強まると、金利上昇で価格が下落する債券投資が控えられ、それが金利上昇をさらに加速させる可能性も出てきました。

国内不動産は2極化する

不動産も金利上昇によるマイナスの影響を受けます。借り入れを行い不動産購入している個人投資家やマイホーム購入者は、金利上昇によって返済負担が増えます。

一方で、東京都心部の高額不動産に関しては、富裕層や海外投資家からの現金購入が多く、金利上昇の影響は限定的です。

首都圏近郊のマイホーム用不動産の価格が頭打ちになっているのに対し、東京の都心3区(千代田区、港区、中央区)の高級マンションは引き続き価格が上昇しています。

金利上昇によって、この2極化がさらに広がることが予想されます。

インフレにより資産の実質価値が下落する

金利上昇にフォーカスが当たっていますが、その背景にあるインフレによる影響を忘れてはいけません。インフレ期待が進むことで貴金属をはじめとする実物資産価格も上昇が予想されます。

一方で、インフレは貨幣の実質的な価値を下落させ、保有している資産の価値の毀損につながります。

例えば消費者物価が3%上昇すれば、100万円の資産の価値は名目では変わらなくても、実質的には約97万円に下落します。

「リスクを取らないリスク」を認識すべき

日銀の政策金利引き上げによって銀行の預金競争も激化してきました。普通預金の金利を引き上げる銀行が増え、ネット銀行で金利の高いところでは年利0.5%を提示しているところも出てきました。一見有利な預金に見えますが、インフレ率を超えることはなさそうです。つまり、高金利預金をしていても、資産は目減りしていくということです。

インフレとは、何もしなければ資産が実施的に減っていく状態です。だから「リスクを取らないリスク」を認識すべきなのです。かといって、慌てて短期的な利益を求めて投資を行えば、大きな損失を被ることもあり得ます。また投資詐欺の被害も増えており、信用できる情報を集めることが大切です。

国内金利の上昇によって、日本の個人投資家の投資環境は大きく変わっていくことになります。金利上昇が今後も急激に進むとは考えていませんが、マーケット環境が大きな転換点に来ていることは確かです。日本経済の環境変化に、柔軟に対応できる知識と情報を身に付けるようにしましょう。