先週(2月3日週)の動き:トランプ発言受けNY金は最高値更新続き一時2,900ドル超、国内金価格も最高値を更新1万4200円台に
NY金5営業日連続で取引時間中の最高値を更新
先週(2月3日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は6週続伸となった。トランプ米政権の関税を巡る先行き不透明感に加え、米中の貿易戦争(報復関税合戦)への懸念を背景に、逃避需要が金価格を押し上げた。
NY金は2月4日からメキシコとカナダ両国に対する関税発動が正式に公表されたことを受け、前週末1月31日に取引時間中の過去最高値を更新した勢いを週明けも維持した。2月5日には一時2,900ドルを突破し、5営業日連続で取引時間中の最高値を更新。終値ベースでも同5日まで3営業日連続で最高値を更新し、この日の2,893.00ドルが最高値となった。
ただし値動きはこれにとどまらず、2月7日には一時2,910.60ドルまで買われ、さらに高値を更新。さすがに高値警戒感もあり、終盤には利益確定売りによりやや水準を切り下げ2.887.60ドルで週末の取引を終了した。
中東ガザを巡る強権的トランプ発言
週末にかけてさらに取引時間中の高値を更新したのは、トランプ米大統領の発言に反応したためだった。これまで表明していたパナマ運河の返還請求やグリーンランド所有構想に加え、2月4日のイスラエルのネタニヤフ首相との会談後に中東ガザ地区の米国による長期領有及び開発構想を表明し、国際的に物議を醸したことによる。
ガザ地区在住のパレスチナ人の強制退去を連想させる内容に、欧州主要国はじめ多くの国が国際法違反と非難の声を挙げた。国力にものを言わせる強権的な主張は中東における地政学リスクを上げるものと認識されNY金の買い手掛かりとなった。トランプ大統領が次週(2月10日週)にも多くの国に対する相互関税を発表すると述べたことも買い手掛かりとされた。
1月米雇用者数の伸びは大きく鈍化
折しも2月7日は注目指標である1月の米雇用統計が発表され(非農業部門)、雇用者数は14万3000人増と、前月(30万7000人増)から伸びが鈍化し、市場予想の17万人増も下回った。失業率は4.0%と2024年5月以来の低水準となった。一方2024年12月の雇用者数は当初の25万6000人増から30万7000人増に大きく上昇修正され、約2年ぶりの伸びとなった。1月の伸び鈍化は前月の反動という指摘もできるだろう。総じて労働市場のソフトランディングとも表現できる内容は、1月のFOMC(米連邦公開市場委員会)にて利下げを一時休止としたFRB(米連邦準備制度理事会)の判断と整合的な結果と言えそうだ。
こうした流れの中で先週(2月3日週)のNY金の週足は、前週末比52.60ドル、1.86%高で6週連続の上昇となった。取引レンジは、2,802.20~2,910.60ドルと100ドルを超えるレンジとなった。週初にトランプ関税の影響を懸念した株安の流れの中でアジア時間に売りが膨らみ安値を叩き、その後週末にかけて最高値更新となったことから、ボラティリティ(変動率)の大きな週となった。
JPX金3週続伸で最高値更新も円高が上値抑制
一方、先週(2月3日週)の国内金価格は為替市場での円高の影響を大きく受けることになった。2月6日の講演で日本銀行の田村直樹審議委員は、現在0.5%程度の政策金利を2025年度後半には少なくとも1%程度まで引き上げることが必要との見解を示したと伝わり、円が買われた。一時1ドル=150円台と対米ドルで8週間ぶりの高値を付け、前述のNY金の上昇分を相殺する形になった。
大阪取引所の金先物価格(JPX金)の2月7日の終値は1万4035円となった。週足は前週末比+69円、0.49%高の3週続伸となった。前週末から2月5日まで4営業日連続で終値ベースでの過去最高値の更新を続け、5日の1万4134円が高値に。取引時間中でも5日まで3営業日連続で高値の更新を続け、1万4202円が高値となった。先週のJPX金のレンジは1万3929~1万4202円と、為替要因で変動率はNY金に比較し大きく抑えられることになった。
2024年も新興国中央銀行の買いは3年連続1000トン超に
2月5日のロンドン早朝に発表された国際的な金の広報・調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC)の2024年10~12月期(合わせて通年)の国際金需要統計では、新興国中銀の需要が1045トンに上ったことが判明した。これで3年連続1000トン超となった。当初の想定ではドル建て価格の最高値更新が続く中で、さすがに中央銀行の買いも鈍ると見られていたが、旺盛な買いが続いたことが確認された。
新興国中央銀行の需要に関しては、年間1000トン超を前面に出した報道が目立つが、ポイントは10~12月期の買いが333トンと2024年通年で最大になっている点にある。前年比で54%増となる。これはやはり11月初めに米国でトランプ次期政権が確定したことがありそうだ。関税や不法移民の強制送還などの公約から将来のインフレ再燃懸念、また地政学リスクの高まりへの警戒などから、高値を厭わず買い進んだ点は注目に値する。
この点では、ETF(上場投信)を除く投資需要(地金・金貨)でも同じで、10~12月期は325トンと1~3月期の316トンを上回り2024年通期で最大となり、前年同期比では3%増となった。10~12月期のロンドン金現物価格の平均値は2,663.40ドルと過去最高だった。なお1~3月期は2069.80ドルだった。一般個人の現物買いが価格高騰の中で増えていたことも注目に値する。宝飾需要は547トンで前年同期比12%減となった(2024年通期1,877トン、11%減)。
今週(2月10日週)の見通し:引き続きトランプ発言に反応、NY金JPX金ともに高値圏での滞留
今週は2月11、12日の両日でパウエルFRB議長による半年に1度の議会証言が予定されている。米国経済が堅調に推移する中で、2024年にみられた労働市場の減速も落ち着いており、インフレ率の低下も足踏み状態で、FRBの金利据え置きスタンスが正当化されている。パウエル議長は議会にて経済の強さを強調し利下げを急がない背景を述べるとみられる。総じて織り込み済みの内容と言え、金価格への影響はなさそうだ。他にも多くのFRB高官の発言機会が予定されている。
米経済指標では2月12日に1月の米消費者物価指数(CPI)が発表される。食品とエネルギーを除くCPI(コアCPI)は前月比0.3%上昇で、前年比では前月の3.2%から3.1%に鈍化が見込まれている。こちらも織り込み済みといえ、今週(2月10日週)も市場の関心はトランプ大統領の発言に向けられることになりそうだ。一律関税を巡る発言内容によっては、欧州や米国間の摩擦が高まる可能性もあり、NY金は引き続き最高値圏での滞留が続くことになりそうだ。
米ドル/円相場はやや円高方向へのバイアスがかかる状況ゆえに、前週と同様に1万4000円をやや上回る水準での滞留を想定している。特定の材料によらない、複合要因により押し上げられるゴールドのマクロ型上昇が続いている。