世界的にエヌビディア[NVDA]のコンピューティングへの移行が加速している

エヌビディアの売上、データセンターとネットワーク向けチップで高い水準を維持

2024年11月20日に発表されたエヌビディア[NVDA]の2025年第3四半期(8~10月)の業績について、売上高は351億ドル(前四半期比+17%増、前年同期比+94%増)で過去最高を記録しました。旺盛なAI需要で全体の9割を占めるデータセンター部門は+112%増で308億ドルに達しました。

伸び率は2024年2~4月期の427%増をピークに112%増まで下がってきているものの、右肩あがりの成長を続け、規模的にも高い水準になっています。クラウドサービスプロバイダー大手であるマイクロソフト[MSFT]、メタ・プラットフォームズ[META]、アルファベット[GOOGL]、アマゾン・ドットコム[AMZN]のデータセンター向け売上が約半分を占めます。データセンターの内訳ではコンピューティング向けが276億ドルと大半を占めますが、付随してネットワーク向けのチップも四半期あたり30億ドルを超える規模となっています。

粗利益率低下が懸念も、最終純利益率は57%

勢いのある売上の伸びと高い利益率の組み合わせで利益も増加しています。株式報酬費用等を調整した最終純利益率は57%にもなり、利益率の高いIT企業の中でも傑出した数字です。営業利益、純利益、一株利益、営業キャッシュフロー、フリーキャッシュフロー利益が揃って四半期の過去最高を更新しました。なお、少しだけ粗利益率が低下していることを問題視する見方もあります。

しかし、粗利益率の減少は、新製品(今回はブラックウェル)立ち上げ初期に見られるもので、今後、半年程度さらに低下する可能性はありますが、軌道に乗れば自然と元の水準に戻るでしょう。新製品立ち上げで若干粗利益率が低下するとしても、売上高の伸びが十分に大きいので、各間接費用の対売上比率は上記のように低下してきています。これによって最終利益率は高水準を維持するでしょう。

画像処理半導体GPU「ホッパー」、GPUアーキテクチャー「ブラックウェル」に高まる期待

ジェンスン・フアンCEOは、「AI時代の到来により、世界的にエヌビディアのコンピューティングへの移行が加速している」と述べました。同社の看板商品であるGPU(画像処理半導体、AIの計算に使われる)「ホッパー」の需要と「ブラックウェル」への期待は大きく、基盤モデルメーカーが事前学習、事後学習、推論を拡大させているといいます。ホッパー、ブラックウェルというのはGPUの設計思想や基本構造を表すアーキテクチャーの名称で、2022年に発表された現行モデルが「ホッパー」、そして2024年に発表された次世代GPUアーキテクチャーが「ブラックウェル」となります。

アーキテクチャーというのは設計図であり、その設計図を基に建てられた家のようなものがGPUチップとなります。ホッパーによって建てられた家(GPU)は「H100」という製品名で、今現在強い引き合いで売れに売れているAIチップです。次の ブラックウェルの設計図によって作られるGPUチップは「H200」となり、HBM(High Bandwidth Memory)という高速メモリーが搭載されます。

メモリーメーカーもAIブームの特需を享受

これがエヌビディアの技術的な核心であり、ブラックウェル・アーキテクチャーにはHBMのような高速メモリーを効率的に活用できるように設計されています。HBMはGPUチップに非常に近い場所に配置されるため、データの転送速度が速く、AI処理の性能を大幅に向上させることができます。HBMはメモリーを製造する半導体メーカーによって作られ、最大手は韓国のSKハイニックス、2位がサムスン、3位が米国のマイクロン・テクノロジー[MU]です。HBMは汎用品メモリーであるDRAMを積層構造にして作られたもので、こうしたメモリーメーカーもAIブームの特需を享受しているのです。

ブラックウェルに基づくチップ(H200)は、HBMメモリをGPUチップの上に積層することで、データ転送速度を向上させ、現行製品より処理能力を大幅に高めます。住宅の例えで続ければ、家の設計図がアーキテクチャー、家がGPUチップとなります。そして同じ設計図に基づいて建てられた様々なタイプの家の集まり=住宅街がAI向けのスーパーコンピューターとなります。複数のGPUやネットワーク機器などを組み合わせたコンピューターで、データセンター向けでは「DGXシステム」や「HGXボード」などの最終製品があり、ワークステーション向けではエヌビディアの「RTXシリーズ」などの製品となります。

エヌビディアの利益、半導体トップ10社の残り9社の利益合計を上回り、独り勝ち

半導体の世界大手10社には、GPU生みの親で圧倒的シェアを持つエヌビディア、GPU 2位のアドバンスト・マイクロ・デバイシズ[AMD]、そしてこれらファブレス企業の製造を担うファウンドリー最大手の台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング(以下、TSMC)[TSM]、メモリー大手のサムスン(韓国)、SKハイニックス(韓国)、マイクロン・テクノロジー[MU]、車載や産業用向け汎用チップに強いテキサス・インストゥルメンツ[TXN]、STマイクロエレクトロニクス[STM]、そしてCPU(中央演算処理チップ)に強いインテル[INTC]があります。

売上高1位はサムスンで全体の33%を占め、エヌビディアは20%

直近四半期(第3四半期)で売上高規模の一番大きいのはサムスンで10社全体の33%を占め、次いでエヌビディアが20%を占めます。しかし最終損益においては、エヌビディア1社が残り全社よりも大きく、独り勝ちといえるでしょう。

実際にはAI需要に関連するTSMCが+51%の増益、前述のHBMメモリー首位のSKハイニックスが黒字転換、2位サムスンも+72%の増益、またGPU 2位のAMDも+160%の増益となっているものの、これら9社全部の利益を足して111億ドル、前年同期比▲13%減の減益でした。

エヌビディアのAIチップはとても需要が高い

一方、エヌビディアは一社で193億ドルの利益(+109%増)で9社の利益合計を上回ります。PC向けCPUの冴えないインテルが▲166億ドルの赤字に転落したことも1つの要因なのですが、赤字のインテルを除いた8社合計でも274億ドルという状況です。このうち100億ドルは、エヌビディアのAIチップを製造するTSMCの利益です。いかにエヌビディアのAIチップが、飛ぶように売れているかが分かる数字です。HBMもAI特需でそれなりに売れているものの、PC・スマホ・車載・産業向けの汎用品群は総じて冴えないという状況です。

10社の売上高でみると、エヌビディアを除く9社合計は+20%増の約1,400億ドルでした。これに対し、エヌビディアは+94%増の351億ドルと同じ半導体でも別世界のようです。別の統計でみると、世界半導体市場統計による7~9月期の世界半導体販売額は+23%増の1,660億ドルでした。

決算月が8~10月期や6~8月期もあり、TSMCの受託製造分とエヌビディアの最終製品は二重売上となってしまうなど、上記の10社合計の売上とは少し意味合いやカウントの仕方も異なりますが、いずれにしても増加分の大部分はエヌビディアのAIチップが占めているということは想像できます。同統計の地域別でもアメリカが最大で突出して大きく伸びています。日本や欧州の販売シェアは小さく、アメリカ、中国、アジア太平洋(日本、中国を除く=韓国と台湾)が三大地域となります。

次の株価上昇のカタリストとは

市場の注目は「ブラックウェル」の出荷が始まる第4四半期見通し

さて、2025年第3四半期(8~10月)の業績は前述のようにエヌビディアの強さを見せつける好決算だったわけですが、第3四半期(8~10月)の業績自体はこれまで同様の良い決算であることは市場共通の見通しであったとも言えます。市場の注目は第3四半期(8~10月)の業績よりも、ブラックウェルの出荷が始まる第4四半期(11~1月)の見通しにありました。

同社は第4四半期(11~1月)の売上高見通しを375億ドル・プラスマイナス2%の範囲と予測しました。市場予想平均を少し上回りましたが、一部の強気な予想には届きませんでした。なお、前年同期の売上は221億ドルで、最新の市場予想は380億ドルを超えてきています。粗利益率は73.0%プラスマイナス0.5%へと低下する見込みです。これは前述したブラックウェル出荷開始による影響とみられます。

全体的に見ると、ブラックウェルの出荷がついに始まるという期待に対し、第4四半期(11~1月)からいきなり爆発的売上になるわけでなく、むしろ粗利益率は当面低下する見込みであることから、やや期待外れという印象になったのでしょう。株価は決算発表後の時間外取引で一時5.5%下げ、そして翌日、通常取引の寄り付きでは上昇して過去最高値を更新するも、直後から上髭を出して失速し、翌日以降も大きく下げてきているという状況です。

2025年半ばごろには粗利益率が改善していく見込み

しかし当初、初期にコストがかかり、歩留まり悪く、売上への爆発的貢献はないとしても、徐々にブラックウェルは現行のホッパーに代わって伸び続け、2025年半ば~後半には数百億ドル規模になっていくでしょう。同時に粗利益率も改善していくとみられるため、今回の決算で浮上した僅かな心配や、決算発表後に株価が下がっていることは、懸念するほどの点ではないと思います。

おそらく2025年2月21日に発表される予定の第4四半期(11~1月)では、ブラックウェルの出荷額はまだそれほど多くはないでしょう。しかしその次か、さらに次の四半期あたりで、いきなり数倍増にもなって市場を驚かせる可能性があります。そうした爆発的な数字を過去エヌビディアは市場に与えることを得意としてきました。どんな製品を出すときも当初はゆっくりなのです。

今後、サプライズを生む要因は?

この高性能のブラックウェルは、最も大口のクラウドサービスプロバイダーに割り当てられるはずです。具体的に言えばGAFAMです。これらの注文は非常に大きいため、いざ供給体制が整うと、一気に大量出荷されるはずです。じわじわ増えるのではなく、ある時にドカンと増えるイメージです。これがサプライズを生むと考えます。また、ブラックウェルの出荷待ちで、現状止められている需要も多くあると思います。例えば付随して販売されるネットワーク製品です。ブラックウェルの大量出荷開始とともに、関連して周辺機器の注文も増えると思われます。

なお、このようにブラックウェルの出荷は長期では好調に推移し、今後の株価上昇のカタリストになると思うのですが、AI需要によるエヌビディアの業績拡大について、爆発的なピークは過ぎたとも思います。なぜなら、それだけ成長してきたから前年実績も大きくなり、将来の市場予想もそれにつられて大きくなっているからです。当然と言えば当然なのですが、2024年の第1四半期(2-4月)をピークとする、AI需要が大きく拡大しだした時期は爆発的な成長でした。長期でみると、エヌビディアの成長はピークと鈍化を繰り返してきました。爆発的な成長というピーク感は過ぎ去ったものの、今回も、少し落ち着いた決算が続いたあと、またどこかで驚きを与える四半期決算が、繰り返し波のように来ると予想します。