アーク・インベストメント・マネジメント(以下、ARK社)の創業者キャシー・ウッド氏へのインタビューを2024年9月25日に行いました。ウッド氏は、「女性版ウォーレン・バフェット」とも称され、投資戦略についても投資家から注目されています。今回はテスラ[TSLA]の最新動向、10月10日に予定されている「ロボタクシー・ディ」、今後の展望などをお聞きしました。

破壊的イノベーション、テスラの現在の最大の期待はロボタクシー

岡元 兵八郎
マネックス証券 チーフ・外国株コンサルタント兼マネックス・ユニバーシティ シニアフェロー

岡元:まずはじめに、ARK社が提唱している「破壊的イノベーション」について教えてください。

ウッド氏:破壊的イノベーションとは、技術によって可能になったもので、しばしば驚くような形で世界を一変させるものです。それは、変化のインパクトや変化のスピードなどでしょう。例えば、最大のものは、私たちが前々から期待していたテスラ[TSLA]のロボタクシー、つまり自動運転タクシーが該当します。詳細は10月10日に発表される予定で、その時に市場進出の方法について、戦略についてより具体的なビジョンを示してくれるでしょう。

アルファベット[GOOGL]が所有するWaymo社(ウェイモ)の動向はとても興味深いものです。現在、より多くの都市に、より速く進出し始めています。私が思うのに、これがイーロン・マスク氏に火をつけたのだと思います。ロボタクシーに非常にこだわりをもっているのはそれが理由です。我々は、テスラの最初の事業計画を知った際、マスク氏は、車からドライバーをなくす方向に向かうだろうと考えていました。ロボタクシーができると運送コストがさらに下がり、タクシーがより利用しやすくなります。

テスラは10月10日に予定されているロボタクシーについての発表会では、どのように市場に進出するのか、その戦略について詳しく説明してくれるでしょう。そして、現在のWaymoよりも遥かに速いスピードでロボタクシー事業を展開していくでしょう。Waymoの市場進出は最初こそゆっくりでしたが、今はスピードを上げています。テスラの競争優位性は、すでに600万台の「ロボット」、つまりテスラ車がすでに毎日路上を走行していることです。私も2台持っています。1台は『モデル3』、もう1台は『モデルY』です。これらの車は毎日世界中を走り回り、テスラのAIエンジンに走行データを提供しています。

Waymoの走行データは、テスラが保有するデータの足元にも及ばないと思います。テスラはそれだけ莫大なデータを保有しているのです。今後ほぼすべてのAIプロジェクトにおいて、プロプリエタリー(独自)のデータを持っていることが成功の鍵になるでしょう。ロボタクシーは、地球上で最大のAIプロジェクトなのです。私がそのことをX(旧Twitter)に投稿したところ、マスク氏は「その通り!」と返信をくれました。

全自動運転はあと少しで人間を超えるところまできている

テスラの全自動運転(フルセルフドライビング/FSD)は一般車より16倍安全

岡元:テスラのAIの性能は同業他社と比較してどうでしょうか?

キャシー・ウッド氏
アーク・インベスト・マネジメント・エルエルシー 創業者・CEO/CIO

ウッド氏:私たちはテスラが自動運転に向かって大きく技術の進化をしているのをモニターしているため、テスラのAIの能力をよく理解しています。

多くの人は、テスラが自動運転のラストマイル(最後の1マイル)を達成するのは不可能だと思っていました。

岡元:自動運転が可能とは思っていないのですね。

ウッド氏:今でも懐疑的にみている人たちは非常に懐疑的です。しかし、徐々に自動運転は可能なのだと確信し始めた人が増え始めています。なぜならすでに自動運転のWaymoが街中で走行していて、試乗している人たちがでてきているからです。そのようなこともあり、懐疑的な人は少なくなってきています。

アメリカでは多くの州では自動運転車の使用が認可されています。テスラ車を所有していて、フロリダにいる私のように自動運転ができる州に住んでいる人は、既に運転中や駐車時にハンドルやブレーキ、アクセルに触れる必要がありません。私は駐車が苦手なのですが、テスラ車は私が駐車するよりも上手にやってくれています。

テスラに搭載されているフル・セルフ・ドライビング(FSD)つまり完全自動運転機能について興味深い事実は、アメリカ以外の国の規制当局が自動運転車の使用を許可していないことです。そのようなこともあり、テスラに対して懐疑的な人はアメリカ国内よりも海外に多いと思います。アメリカに住んでいて、テスラやWaymoを試したことがある人、またFSD搭載のテスラ車を保有している人であれば、フル・セルフ・ドライビング(FSD)の機能を使うとほぼ完全自動運転が現実のものとなる時は近い、つまり、人間の能力を超えるところまできていることを実感するでしょう。

私たちはテスラの安全性の統計を測定してきました。当社の投資分析ディレクターの責任者であるターシャ・キーニーは、サム・コーラスと共にテスラやテスラの自律技術の部分を担当しています。彼女はテスラの安全性に関する研究をしており、9ヶ月ほど前に行った調査では、アメリカ国内の一般的な車が事故を起こすまでの走行距離は約20万マイル(約32万キロ)であることがわかりました。

FSDが搭載されていないテスラ車が事故を起こすまでの走行距離は約60万マイル(約97万キロ)です。つまり、自動運転機能がついてないテスラ車でも他の車より安全なのです。FSDを搭載したテスラの場合、これは9ヶ月前のデータで、最新のバージョンではありませんが、それでも事故を起こすまでの走行距離は320万マイル(515万キロ)です。これは、一般の車の16倍も安全だということです。

岡元:その数字は改善し続けているわけですね。

ウッド氏:今調査を行ったら、この320万マイルという数値のおそらく3倍程度に達するでしょう。私たちは現在、そのデータのアップデートに取り組んでいます。

規制当局はテスラ車が最も安全な車であるとほぼ結論づけた

岡元:テスラの全自動運転車については規制当局の承認が必要かと思います。彼らの姿勢はどうですか?

ウッド氏:アメリカでは規制当局が問題を抱えています。どういうことかと言うと、シートベルトから始まった安全対策は、1970年代に義務化され、1970年代から私たちがARK社を設立した2014、2015年まで、自動車事故による死亡者数は毎年減少していました。それが、2014年から2015年頃に急激な増加が見られました。アメリカでは死亡者数が約30,000人から約45,000人まで増加しました。つまり、およそ50%の増加です。何が起きているのかと当局は責任を問われています。

調査を行ったところ、特に若者や中高年が運転中にスマホをいじり、注意力が散漫になっていることが原因で事故や死亡者数が増えたことが分かったのです。それからです、規制当局は自動運転という考えに対して非常に好意的な考えを持つようになりました。なぜなら、全自動車事故の80%から85%が人間のエラーによって引き起こされているからです。

また、テスラ車が他の車よりどれだけ安全かを理解するのに役立ったのが、事故後のテスラ車の調査です。規制当局は、テスラ車がFSDを搭載していたり、電気自動車であったりといろいろな面で新しい技術を使っているため、事故後のテスラ車を厳しく徹底的に調べました。何十万件もの他の車の事故についてはそこまで徹底的にやりませんが、テスラ車の事故についてはそうしたのです。そして、テスラ車を他の車と比較したとき、テスラが現在発売されている車のなかで最も安全な車であるとほぼ結論づけたのです。規制当局がこう判断したということはとても興味深いです。

次回は、【中編】テスラ社が開発を進めるヒト型ロボットOputimus(オプティマス)の未来をお届けします。

※本記事は2024年9月25日に実施したインタビューを後日、翻訳編集・記事化したものです。