2024年9月17日(火)21:30発表(日本時間)
米国 小売売上高

【1】結果:市場予想を上回る結果で、米消費の底堅さを依然として示す

小売売上高(前月比)
結果:0.1% 予想-0.2%
前回:1.1%(速報値1.0%から上方修正)

自動車・同部品除く小売売上高(前月比)
結果:0.1% 予想0.2%
前回0.4%

コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:0.3% 予想:0.3%
前回0.4%(0.3%から上方修正)

【図表1】米国小売売上高の推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。また、9月のFOMC前に公表される最後の主要な経済指標であったため、特に注目が集まりました。

そして、今回8月の小売売上高は前月比+0.1%となり、市場予想の-0.2%を上回る結果となりました。数値の水準としては低いものの、今回の結果は米国の消費が依然として底堅さを保っていることを示しています。

一方、自動車の販売は月ごとに大きく変動するため、自動車を除いた小売売上高に注目が集まりますが、結果は市場予想の+0.2%を下回る+0.1%で、前回の+0.4%からも低下しました。

そして、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(=コア小売売上高、小売売上高から季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたもの)は前月比+0.3%で、市場予想と一致しました。前月の伸びと同水準であり、今回の結果を受け、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)は2024年第3四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値を2.5%から3.0%に上方修正しています。

【2】内容・注目点:無店舗小売に支えられる小売売上高、食事に関する消費動向にも注目 

【図表2】品目別小売売上高(前月比)
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2に示されているように、8月の小売売上高は13項目中5項目で増加しました。前回7月は13項目中10項目が増加していたため、売上が増加した項目の数は減少しています。

今回増加で目立ったのは、雑貨(+1.7%)と無店舗小売(+1.4%)です。その他では、ヘルスケア(+0.7%)、スポーツ用品や趣味関連(+0.3%)、建築資材(+0.1%)でも増加が見られました。

一方、耐久財や裁量的支出に関連する項目は伸び悩みました。前回7月にサイバー攻撃の影響から回復していた自動車・同部品の売上が今回8月は減少(-0.1%)したほか、電化製品(-1.1%)、家具(-0.7%)、衣料品(-0.7%)も前月から大幅に減少しました。また、原油価格の下落に伴い、ガソリンスタンドの売上も減少(-1.2%)しています。

幅広い品目で売上減少が見られる中、コントロール・グループの推移(図表3の青色線)に注目すると、これまで続いていた低下基調が6月に底を打ち、冷え込みが収まりつつあることが分かります。この回復を支えているのは、アマゾンなどのオンラインショップによる無店舗小売です(図表3の黄土色バー)。一方、図表3の灰色バーが示す無店舗小売以外の販売は、全般的に冷え込んでいることが分かります。

【図表3】コントロール・グループ(年率成長率)の寄与度分解
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

次に、図表4に示されている食事に関する小売売上の動向を確認すると、コロナ禍以降、外食の売上(図表4の青緑色線)は減少し、食料品の売上(図表4の黄土色線)は増加していることが分かります。消費者が外食を控え、家庭での食事を増やすことで、より節約志向の消費行動を選択していることが示唆されます。

【図表4】実質ベースの外食及び食料品小売売上(前年比)の推移
出所:米商務省、米労働省労働統計局(BLS)、Bloombergよりマネックス証券作成

【3】所感:米国の消費は堅調か?対面サービスの労働需要減少を懸念

今回の小売売上高は、ヘッドラインの数値が予想を上回り、またコントロール・グループが無店舗小売に支えられて堅調な結果を示したことから、米国の消費は依然として底堅いという印象を与える内容でした。

ただし、無店舗小売以外では幅広い品目で減少傾向が見られるため、米国の消費全体が力強いとは言えません。実際、インフレ調整後の実質小売売上高(前年比)は依然としてマイナス圏で推移しています(図表5)。

【図表5】インフレ考慮後の実質小売売上高の推移
※小売売上高の前年比%の数値から消費者物価指数(CPI)の前年比%を控除した数値の推移で、FREDが「Advance Real Retail and Food Services Sales」として公開しているもの。
出所:FRED(セントルイス連邦準備銀行の経済データベース)よりマネックス証券作成

さらに、消費者が外食を控え家庭での食事を選択することや、オンラインショッピング(無店舗小売)への依存度が高まっていることは、対面サービスを提供する労働者の必要性が減ることを意味しており、一部業界での労働需要の低下(労働市場の冷え込み)が懸念されます。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐