2024年8月15日(木)21:30発表(日本時間)
米国 小売売上高

【1】結果:市場予想を上回る結果で、米消費の底堅さを依然として示す

小売売上高(前月比)
結果:1.0% 予想0.4%
前回:-0.2%(速報値0.0%から下方修正)

自動車・同部品除く小売売上高(前月比)
結果:0.4% 予想0.1%
前回0.5%(速報値0.4%から上方修正)

コア小売売上高(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:0.3% 予想:0.1%
前回0.9%(修正なし)

【図表1】米国小売売上高の推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。また現在の状況では、インフレが収まりつつあるなか、景気後退入りが懸念されている状況であるため、本指標の注目度が特に高くなっています。

そして、7月の小売売上高は前月比+1.0%となり、市場予想の+0.4%を大きく上回る結果となりました。米国の個人消費は6月まで低調な推移が続き、7月も雇用統計で失業率の上昇など労働市場の悪化から消費減速への懸念が強まっていましたが、今回の結果は米国の消費が依然として底堅さを保っていることを示しています。

また、自動車の販売は月ごとに大きく変動するため、自動車を除いた小売売上高に注目が集まりますが、その数値も市場予想の+0.1%に対して+0.4%と大きく上回りました。

さらに、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は前月比+0.3%と市場予想(+0.1%)を上回る増加を示しました。ただし、前回6月の+0.9%からは低下していることもあり、今回の結果を受け、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)は7~9月期GDP(前期比年率)を2.9%から2.4%に下方修正しています。

【2】内容・注目点:自動車が6月の反動増で全体を牽引、その他項目もセール等により好調さを示す

【図表2】品目別小売売上高(前月比)
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2の通り、7月の小売売上高は13項目中10項目で増加しました。建築資材や家具など、裁量的支出を含む幅広い品目で売上が増加しており、特に自動車・同部品は前月比+3.6%と大幅な増加を記録しました。自動車・同部品は、6月に全米の自動車販売店にソフトウェアサービスを提供するCDKグローバル社へのサイバー攻撃の影響で売上が減少していましたが、7月にはその影響が収まり、持ち直した形となっています。

その他の項目では、電化製品が新学期のセールを背景に増加したほか、7月にアマゾン[AMZN]のプライムデーとして知られる毎年恒例のセールイベントが開催されたこともあり、無店舗小売も引き続き売上増加を示しています。

一方で、代表的な裁量的支出である、スポーツ用品等趣味は減少が続いています。

【3】所感:景気後退懸念和らぐも消費の持続性には不透明性あり

米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ退治を掲げ、経済への一定のダメージを容認して高い政策金利水準を維持しています。政策金利が高く維持される中、ここ数ヶ月のデータはインフレ鈍化を示す良好な結果が続いていました。

一方で、7月の失業率の上昇に代表されるように労働市場は徐々に冷え込みを見せ始め、消費の悪化による景気後退が懸念されています。そうした状況の中、7月の小売売上高が予想以上に強い結果を示し、米国の消費が依然として好調であることが明らかになり、景気後退懸念を和らげる結果となりました。この結果を受けて、主要株価指数は続伸しています。

ただし、7月の+1.0%の売上増加は、自動車の反動増に依るところが多く、自動車を除けば前月比+0.4%と必ずしも力強いとは言えません。また、小売売上高の数値はインフレを考慮していない名目値ですが、インフレを考慮した実質ベースでみると前年比ベースでマイナス推移が続いています(図表3)。

【図表3】インフレ考慮後の実質小売売上高の推移
※小売売上高の前年比%の数値から消費者物価指数(CPI)の前年比%を控除した数値の推移で、FREDが「Advance Real Retail and Food Services Sales」として公開しているもの。
出所:FRED(セントルイス連邦準備銀行の経済データベース)よりマネックス証券作成

今回、市場予想を上回る好調な消費動向が示されたものの、消費の勢いには着実にブレーキがかかりつつあります。さらに、平均時給や貯蓄率の低下傾向(図表4、5参照)を考慮すると、今後の消費の持続性には不透明な部分が残ります。消費が底堅さを保っている間に、9月の利下げ実施が期待されるところです。

目先の注目点としては、来週8月23日に開催されるジャクソンホール会議でのパウエル議長の経済見通しに関する講演に移ります。

【図表4】平均時給(前年同月比%)の推移
出所:米労働省、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成
【図表5】個人消費、個人所得、貯蓄率の推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐