2025年4月3日(木)23:00発表(日本時間)
米国 ISM非製造業景気指数

【1】結果:市場予想・前回結果いずれも下回る

ISM非製造業景気指数(3月)
結果:50.8 予想:52.9
前回:53.5

3月の米ISM非製造業景気指数は50.8となり、市場予想(52.9)を下回り、前月(53.5)からも低下しました。ただし、好不調の境目とされる50は上回っており、米国サービス業の景況感は9ヶ月連続で景気拡大圏を維持しています。

【図表1】ISM非製造業景気指数の推移
※シャドーは景気後退期
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

【2】内容・注目点:事業活動・生産は好調を維持も、雇用などその他は落ち込む

そもそもISM非製造業景気指数とは

ISM非製造業景気指数とは、全米供給管理協会(ISM=Institute for Supply Management)が400社以上の購買担当者を対象にアンケート調査を実施し、その結果を指数化したものです。総合指数は、事業活動・生産、新規受注、雇用、入荷遅延の4つのサブ項目から構成され、50以上はサービス業の好況、50以下は不況を示唆します。

その他、総合指数の構成要素以外に、在庫や受注残に関する項目や、インフレ指標として注目される支払価格指数が報告されます。米国経済ではサービス業の占める割合が大きく、主要指数のなかでは比較的早く公表されるためこの指数に注目が集まります。

3月結果の詳細・内訳

【図表2】ISM非製造業景気指数、各項目の結果まとめ
※太字は総合指数の構成要素
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

不透明感の高まりが新規受注に影響

図表2が示すとおり、景気の先行指標として注目される新規受注は前月比1.8ポイント低下し、50.4となりました。今回の調査結果は4月2日の「相互関税」の詳細発表前の調査であるものの、トランプ政権の関税政策による不透明感の高まりが新規受注に影響を与えている様子が示されています。企業担当者のコメントでも「設備投資の減速」や「新規資本プロジェクトは保留中」といった声が確認できます。

唯一の好材料、事業活動・生産が前月比1.5ポイント上昇し、55.9に

一方で、今回の調査で唯一の明るい材料は、事業活動・生産が前月比1.5ポイント上昇し、55.9となった点です。ISMサービス業調査委員会のミラー委員長も、「これは今回の調査の明るい点であり、関税前の駆け込みなどとも無関係のようで、しっかりとした成長を示している」と評価しています。

雇用指数が、46.2と縮小圏に転落

ただし、その他の指標は軒並み落ち込んでおり、先行きへの不安が拭えません。特に雇用指数は前月から7.7ポイントも低下し、46.2と縮小圏に転落した点が懸念されます。ミラー氏は、「不確実性の中で企業はコスト削減を進めており、その中でも人件費は最も管理しやすい経費の一つだ」と述べています。

実際、企業コメントでは、「人員は追加しない」との声や、「離職率は低下している」とのコメントが見られました。離職率の低下は転職活動が難しくなっていることを表し、労働者は現状の労働市場について消極的な見方をしていることが伝わります。

とはいえ、明確に人員削減に踏み込んでいるような内容は今回の調査からはうかがえず、今のところ景気後退期のような急激な悪化には至っていないとも推察されます

【図表3】ISM非製造業雇用指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

サービス業の支払価格指数は、やや高止まり

一方、サービス業の支払価格指数は前月から1.7ポイント低下して60.9ポイントとなりました。製造業では支払価格指数が急騰してインフレ圧力の高まりが懸念されましたが、サービス業ではそこまで顕著ではなく、やや高止まりといった印象です。

【図表4】ISM非製造業景気指数、支払価格指数の推移
出所:米供給管理協会(ISM)、Bloombergよりマネックス証券作成

企業担当者のコメント:関税政策の影響は業種によって見解が分かれる

企業担当者のコメントでは、やはり関税を巡る混乱や悪影響、価格上昇が指摘されている。一方で、宿泊・飲食業では「楽観的な見方を維持」といった声や、医療・福祉業では、「見通しは良好」といった声も確認できます。

なお、これらの回答は4月2日の相互関税の詳細公表前のものであり、来月の調査では相互関税を織り込んだコメントの変化にも注目です。

【企業担当者のコメント一覧】
・宿泊・飲食サービス業
レストランの売上と来客数はこの1ヶ月で全体的に改善しました。バレンタインデーは例年、季節的な好調の始まりとなりますが、2025年も同様の傾向が見られました。最近の景気後退や関税の懸念があるものの、まだ現実化していないため、今後の数ヶ月に対しては楽観的な見方を維持しています。
・建設業・アルミニウム
関税の影響が出始めています。このコストは顧客に転嫁される見込みです。
・医療・福祉
患者数が予想を上回る状況が続いており、収益増と財務見通しの改善につながっています。サプライチェーンはおおむね順調で、IV液など一部を除き大きな問題は見られません。労働環境も改善傾向にあり、出張スタッフへの依存も減少しています。この四半期中の見通しは良好です。
・情報通信業
関税により、特に木材パルプ紙市場に混乱が生じています。カナダから大量に輸入されているため、関税とその影響による遅延が供給網と配送に悪影響を与えています。米国内の製紙工場は処理能力を超える注文を受け、遅延や滞留が発生しています。
・その他サービス業
新政権による不透明な政策やインフレ抑制法の一部取り消しの影響で、ここ1ヶ月ほど新たな設備投資が鈍化しています。
・専門・科学技術サービス業
米国経済では採用や人材の定着に関して若干の緩みが見られます。質の高い人材が確保しやすくなり、従業員の離職率も低下しています。一方で、仕入先は売上増を狙って価格競争を強めており、商品やサービスへの競争圧力が高まっています。
・公務
政府の予算削減と人員整理が、当社の業務に悪影響を及ぼしています。
・運輸・倉庫業
新政権が助成金の使用を対象にして支出を凍結する可能性を考慮し、緊急時に備えて一部の資金を保留しています。
・電気・ガス・水道業
いくつかの商品契約、特に水道関連製品に対する関税の影響で、近く価格上昇が見込まれます。
・卸売業
関税を巡る混乱と、それに対する供給業者の対応が多様化しており、今月の購買判断に大きな影響を与えています。そのため、支出先の見直しや、関税発動前の先回り購入が発生しています。

【3】所感: 4月2日の相互関税公表前のデータで意味合いは薄いが懸念が募る内容

今回のISM非製造業景気指数は、市場予想を下回り、前月から低下しました。総合指数は景況感の分かれ目とされる50をなんとか維持しているものの、構成項目には弱さが目立ち、さらに今後は、トランプ政権による相互関税の導入が、本格的な景況感の悪化につながる懸念もあります。

特に雇用指数の急低下は、労働市場の悪化に対する警戒感を強める結果となりました。ISMの雇用指数は、企業担当者のセンチメントを指数化したソフトデータであるため、実際の雇用状況については4月4日(金)に公表される雇用統計で確認する必要がありますが、今回の結果は、その発表前から市場の警戒感を高めるものとなっています。

もっとも、今回のISM調査にせよ、4日に公表される雇用統計にせよ、いずれも4月2日に公表された相互関税以前のデータであり、統計としての意味合いはすでに薄れつつあります。

そのため、雇用統計が悪化を示した場合には売りが一段と強まりやすい一方、良好な結果であっても古いデータとして市場はそこまでポジティブに反応しない可能性があり、注意が必要です。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐