日銀が政策決定会合で0.25%への利上げを決めました。昨年まで、「出口」は相当難しいと思われていたのに、日銀の植田総裁はかなり果敢に金融政策の巻き戻しに取り組んでいる印象です。
今回の日銀の物価見通しを見ると、2025年度、2026年度ともに2%前後と安定的な物価上昇が想定されています。コロナとウクライナという2大ショックに、デジタル赤字拡大や海外投資活発化等が相まって、日本の金融市場には不可逆な変化がもたらされたと考えられます。
今後の注目は、第一に、政策金利はどこまで上がるのか。一般に、政策金利の落ち着きどころは、「中立金利プラス予想インフレ率」と考えられています。ただ、この中立金利の算定は難しく、日銀は、5月の資料でこれを-1.0~0.5%と幅をもって試算しています。レンジの最低の-1%を使って計算しても、日銀政策委員の予想コア・インフレ率(2026年度で1.9%)を加えた「あるべき政策金利」は概ね1%程度となります。今回の利上げ後でも政策金利はまだ0.25%ですから、結構追加利上げが必要ということになります。
第二に、日銀が引き上げた後の国債の発行・消化計画です。米国の量的引き締めでは、高金利をバックに個人や債券投信などが追加購入を行っていますが、日本では、金利の絶対水準の低さから同じような動きは考えにくいでしょう。第三に、民間銀行の動きです。素直に考えれば、住宅ローンの変動金利は引き上げられるでしょう。短期プライムレートが2007年以来となる引き上げとなる可能性が高いためです。しかし、当時に比べて銀行の預貸率は10ポイント以上低く、貸出競争が激化していることを考えると、引き上げ幅をどこまでとするのかはやや不透明です。
いずれにしても、これまでのどの時代とも異なる金融環境が待ち受けていると考えられます。頭を切り替えて、インフレは一定程度持続し、政策金利ももう少しだけ上昇する、金利はタダではなくなるということを前提に、資産と負債の保全を図る時に来ていると思います。
- 大槻 奈那
- ピクテ・ジャパン株式会社 シニアフェロー
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内外の金融機関、格付機関にて金融に関する調査研究に従事。Institutional Investors誌によるグローバル・アナリストランキングの銀行部門にて2014年第一位を始め上位。政府のデジタル臨時行政調査会、財政制度等審議会委員、規制改革推進会議議長、中小企業庁金融小委員会委員、ロンドン証券取引所グループ(LSEG)のアドバイザー等を勤める。日本経済新聞「十字路」、日経ヴェリタス「プロの羅針盤」、ロイター為替フォーラム等で連載。日経Think!エキスパート・コメンテーター、テレビ東京「モーニングサテライト」で解説。名古屋商科大学大学院 マネジメント研究科教授 東京大学文学部卒、ロンドンビジネススクールMBA、一橋大学博士(経営学)
著書:
『本当にわかる債券と金利』(日本実業出版社)、
『1000円からできるお金のふやし方』 (ワニブックス)
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