物価高により、ディスカウントストアに追い風

最近の物価高はまず、ディスカウントストアの追い風となったようです。消費者の節約志向を背景に格安商品の販売が伸びたためです。ただ、長引く物価高はディスカウントストア業界にとっても逆風で、行き過ぎた節約志向が中国系の越境EC(電子商取引)プラットフォームの台頭を招いたとみられています。

代表格が中国の格安製品のECプラットフォーム「Temu」で、その躍進がディスカウント業界の脅威になっていると伝わっています。「Temu」を運営するのはナスダック市場に米国預託証券(ADR)を上場するPDDホールディングス[PDD]です。

ただ、米国のディスカウント業界は長い歴史を持ち、厳しい環境を幾度も乗り切ってきました。中国勢の台頭をいなし、自社の業績をどのように復調させるのか注目されます。そこで、今回は注目のディスカウント関連銘柄を紹介します。

巧みな戦略で業績を伸ばすディスカウントストア関連銘柄5選

コストコ・ホールセール[COST]、倉庫型の大型店舗を展開

コストコ・ホールセールは会員制スーパーマーケットを展開しています。倉庫型の大型店舗を運営し、会員向けに製品を販売します。小売事業者向けにホールセール事業も展開しています。

米国に加え、カナダ、メキシコ、英国、スペイン、フランス、日本、韓国、中国、オーストラリアなどの海外にも進出しています。2024年5月時点の店舗数は876店で、米国とプエルトリコが604店、カナダが108店、メキシコが40店、日本が33店、英国が29店、韓国が18店、オーストラリアが15店、台湾が14店などとなっています。また、出店数が多い国ではネット通販も手掛けています。

会員数は1億3390万人です。米国とカナダでは会員の更新率が93.0%、世界全体では90.5%に達しており、会員数は着実に増えています。コストコ・ホールセールにとって年会費は重要な収益源ですが、2024年9月から7年ぶりに年会費を引き上げると発表しています。会員数を維持できて収益が増えるのか、それとも収益にマイナスの影響が及ぶのか注目されています。

日本でも「コストコの商品は大容量」というイメージがあるかと思いますが、大量の商品を高回転で販売するビジネスモデルを持っており、ビジネスの生命線は在庫回転率です。仕入れ商品の支払いを済ませる前にその商品を消費者(会員)に販売してしまうケースも多いようで、在庫回転率や財務の面でも理想的です。

一方で、商品販売の売上高から商品コストを差し引いて算出する粗利益率は10.6%(2023年8月期)にとどまっています。コストコ・ホールセールの商品コストには生鮮食品部門の人件費なども含まれており、単純比較はできませんが、ウォルマート[WMT]の粗利益率である23.7%(2024年1月期)を大きく下回ります。ただ、コストコ・ホールセールの営業費用の比率は極めて低く、純利益率はコストコが2.6%、ウォルマートが2.4%で、コストコ・ホールセールのほうが高いのです。

コストコ・ホールセールの特徴といえば、やはり独自の販売形態です。倉庫が店舗になっているため、仕入れた商品を一旦保管することなく、そのまま店舗に並べることが可能です。仕入れ商品の支払いを済ませる前に売り切ってしまうケースも多いと前述しましたが、逆に支払い期日を前倒しすることで値引き率を大きくするよう業者と交渉することも可能です。

さまざまな業者が直接、倉庫型店舗に商品を納入する方式の他、一旦物流センターに商品を搬入する仕組みも採用しています。ただ、商品を保管したり、細かくパッケージングしたりするという手間はかけません。複数の業者から一時的に入庫した貨物を到着後すぐに仕分けして出荷するクロスドッキングという仕組みを使って倉庫型店舗に発送しており、物流センターの費用を抑えているのです。

また、店舗の営業時間は原則的に1日10時間。日本でも午前10時から午後8時までの10時間が標準です。短時間で集中的に商品を売り、人件費などを抑制しています。店舗の平均面積は1万3,657平方メートルで、新たな店舗は面積が平均よりもやや広くなっているようです。

【図表1】コストコ・ホールセール[COST]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は8月
【図表2】コストコ・ホールセール[COST]:株価チャート
出所:トレードステーション

ティージェイエックス・カンパニーズ[TJX]、オフプライスの大手

ティージェイエックス・カンパニーズはアパレル製品を軸に安売りの小売店をチェーン展開しています。高級ブランドからノーブランドの製品まで広範に取り扱い、百貨店などで販売する定価に比べて20-60%程度安い価格で販売しています。いわゆる「オフプライスストア」というジャンルに分類される業態では世界的な大手で、2024年2月時点の店舗数は合わせて4,954店です。

セグメントは4部門に分かれており、中核のマーマックス部門は米国で手掛けるアパレル製品のオフプライスストア「ティージェイマックス」と「マーシャルズ」を展開し、店舗数は計2,516です。「ティージェイマックス」は1976年に立ち上げた店舗のチェーンで、「マーシャルズ」は1995年に買収で手に入れました。ファミリーアパレル製品や家庭用の装飾品などを取り扱うのは共通していますが、「ティージェイマックス」はデザイナーブランドなどの高級製品、「マーシャルズ」は男性用のシューズからアパレルまで多様な製品を取り扱い、差別化を図っています。

2024年1月期決算のマーマックス部門の売上高は前年比9.4%増の334億1300万ドル、部門利益は18.4%増の45億9700万ドル。全体に占める割合はそれぞれ61.6%、70.7%です。

家庭用品部門では米国で「ホームグッズ」と「ホームセンス」という2系列のチェーンを展開し、店舗数はそれぞれ919店、55店です。家具、ラグ、照明、装飾品、食器などを販売します。2017年に始めた「ホームセンス」は大型の家具や娯楽用品などを販売し、特色を出しています。2024年1月期決算の部門売上高は前年比8.8%増の89億9000万ドル、部門利益は64.9%増の8億6100万ドル。全体に占める割合はそれぞれ16.6%、13.2%です。

カナダ部門は、1990年に買収したアパレル製品と家庭装飾品のオフプライスストア「ウィナーズ」(302店)、2001年にカナダに進出した「ホームセンス」(158店)、2011年にカナダで始動した「マーシャルズ」(106店)で構成されます。2024年1月期決算の部門売上高は前年比2.7%増の50億4600万ドル、部門利益は3.6%増の3億3200万ドル。全体に占める割合はそれぞれ9.3%、11.0%です。

国際部門は欧州事業とオーストラリア事業で構成されています。欧州は英国、アイルランド、ドイツ、ポーランド、オーストリア、オランダにアパレル製品のオフプライスストア「TKマックス」(計644店)に加え、英国とアイルランドで「ホームセンス」(79店)を展開しています。オーストラリアでは「TKマックス」(80店)を運営しています。2024年1月期決算の部門売上高は前年比8.9%増の67億6800万ドル、部門利益は4.3%減の7億1500万ドル。全体に占める割合はそれぞれ12.5%、5.1%です。

オフプライスストアの生命線は商品の買い付けであり、ティージェイエックス・カンパニーズは多様な経路を通じて商品を調達しています。買い付け部門は12ヶ国にオフィスを構え、提携する業者は1,300以上になります。ブランド、生産者、小売店のいずれかの流通経路での売れ残りをはじめ、ブランドやファクトリーの特別製品、注文がキャンセルになった商品、過剰生産品などをあらゆる機会をとらえて買い付けているようです。

オフプライスストアの店内は高級ブランド品からファストファッションの製品までさまざまな商品が陳列されており、宝探しの感覚で掘り出し物を求める顧客も多いといいます。在庫の回転が早く、いつ行っても新たな商品が入荷されている状況を作り出すことで来店の頻度を高めています。

【図表3】ティージェイエックス・カンパニーズ[TJX]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は1月
【図表4】ティージェイエックス・カンパニーズ[TJX]:株価チャート
出所:トレードステーション

ターゲット[TGT]、PB商品でウォルマートと乱戦模様

ターゲットは米国でディスカウントスーパーを展開しています。2024年2月時点の店舗数は1,956店です。競合はウォルマートなどの小売チェーンですが、ターゲットは主要顧客層として相対的に所得がやや高い層を想定しており、相対的にやや低い所得層を主要対象とするウォルマートと棲み分けを図っていたとされています。

ただ、物価高が続く中で主要対象が流動化し、客層を区分する垣根が低くなったとの見方も出ているようです。それを象徴するのが両社の戦略を反映するプライベートブランド(PB)商品の動向です。

ターゲットはPB商品に強みを持ち、報道によると、年間売上高が10億ドルを超えるブランドは12を数えます。PB商品の年間売上高は総額で300億ドルに達し、2024年1月期の売上高(1074億1200万ドル)の実に3割を占めます。

強みを持つこうした分野で2024年2月に新たに立ち上げたのが低価格の日用品ブランド「ディールワーシー」です。ハンドタオルやトイレットペーパー、ゴミ袋、コットンボールなどの消耗品をはじめ、歯ブラシ、デンタルフロス、充電ケーブルなどの日用品、靴下や下着などの衣料品を低価格で販売しています。現状で400品目を扱っており、段階的に品目数を増やす計画です。

一方で、ウォルマートは新たな食品のPB「ベターグッズ」を2024年4月に立ち上げています。「グレートバリュー」など従来のPBに比べて一段上の価格帯の製品を取り揃え、クオリティを高めています。洗練されたパッケージデザインを採用し、「ウォルマートらしくない」「ターゲットっぽい」という評価がメディアで伝わっています。棲み分けという既存の垣根を越えて相手方の得意分野に攻め込むような乱戦模様になるのか、またはそれがどのように決着するのか要注目です。

ターゲットとウォルマートを比べた場合、大きな違いは売上高に占める食品・飲料の比率です。ターゲットの場合、2024年1月期決算の商品販売に占める食品・飲料の割合が23%にとどまっています。その一方、ウォルマートの2024年1月期決算では一部で雑貨も交じりますが、食料雑貨の割合が60%に上ります。

ターゲットの商品販売に占める割合が最も高いのが美容・家庭用品で比率は30%です。この分類には美容製品、パーソナルケア製品、赤ちゃん用品、ペット用品などが含まれます。その次が食品・飲料の23%で、家具・家庭装飾品の17%、アパレル製品・小物の16%、家電や娯楽用品などを含むハードライン製品の15%が続きます。

ターゲットも米国のスーパーマーケットの例に漏れず、店舗は大型です。全店舗の売り場面積の合計を店舗数(1,956店)で割った1店舗当たりの面積は12万5,700平方フィート。ウォルマートの大型総合スーパー形態の店舗「スーパーセンター」の平均である17万8,000平方フィートには及びませんが、十分に巨大です。

【図表5】ターゲット[TGT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は1月
【図表6】ターゲット[TGT]:株価チャート
出所:トレードステーション

ダラー・ゼネラル[DG]、店舗数が2万店を突破

ダラー・ゼネラルは消耗品や雑貨のディスカウントストア「ダラー・ゼネラル」をチェーン展開しています。店名に反して1ドルショップではなく、3-10ドル程度の多様な商品を取り扱っています。
    
店舗数は2024年5月初めの時点で2万149店となり、ついに2万店を突破しました。米国の48州とメキシコに店舗を持ち、米国では南部、南西部、中西部、東部を中心に展開。全店舗の約8割が人口2万人以下の町に位置します。メキシコは2023年に1号店を出店しました。

1店舗当たりの売り場面積は平均で約7,500平方フィート。新店舗は8,500-9,500平方フィートが基準となっています。これだけ店舗数が多いにもかかわらず、フランチャイズ方式やライセンス方式を採用せず、すべて直営方式で運営しています。

2024年1月期の取扱商品の分類をみると、消耗品が売上高の81.0%を占めています。この他は季節商品が10.6%、家庭用品が5.6%、衣料品が2.8%の割合です。消耗品は紙製品などの日用品、パスタやシリアルなどの食品、店頭薬などのヘルスケア製品、シャンプーなどのトイレタリー製品と多様です。

ディスカウント製品の需要は大きく、1990年から2020年まで約30年にわたりダラー・ゼネラルの既存店売上高は前年比で増えていました。ただ、2021年にはパンデミックのあおりで連続記録が途切れています。

【図表7】ダラー・ゼネラル[DG]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は1月
【図表8】ダラー・ゼネラル[DG]:株価チャート
出所:トレードステーション

ダラー・ツリー[DLTR]、1商品の基準価格は1.25ドル

ダラー・ツリーは米国の48州とワシントンDC、カナダの5州でディスカウントストアをチェーン展開しています。店舗数は2024年5月初めの時点で1万6,397店。その内訳は「ダラー・ツリー」が8,520店、「ファミリー・ダラー」が7,877店で、合わせて1万6,397店に上ります。

店舗の形態は「ダラー・ツリー」が日本の百均に近い1ドルショップです。とは言っても2021年終盤に1商品の基準価格を1.25ドルに設定すると発表しており、厳密な意味合いで1ドルショップではなくなっています。

約35年にわたり1商品11ドルという原則を守ってきましたが、さすがに昨今の物価高には対応できませんでした。25%の大幅値上げで商品の幅は広がるという利点も出たそうです。

一方で、ダラー・ツリーが2015年に買収した「ファミリー・ダラー」は、1商品の価格が1-10ドルのレンジで、「ダラー・ゼネラル」に近い価格帯です。実はダラー・ゼネラルも「ファミリー・ダラー」の買収に名乗りを上げていましたが、最終的にダラー・ツリーが買収を決めています。

ダラー・ツリーは業績面で苦戦しており、2024年1月期決算で9億9800万ドルの純損失を計上して赤字に転落しました。このような厳しい環境を背景にダラー・ツリーは「ファミリー・ダラー」を手放す方針を示しています。2015年の買収から10年も経っていませんが、ダラー・ツリーの経営陣が売却かスピンオフ(分離上場)を検討すると発表しました。

「ダラー・ツリー」が郊外型の店舗で中所得層を主要対象に事業を展開する半面、「ファミリー・ダラー」が都市部の低所得層を主要対象にするなど事業形態の相違を理由に挙げています。

【図表9】ダラー・ツリー[DLTR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は1月
【図表10】ダラー・ツリー[DLTR]:株価チャート
出所:トレードステーション