米ドル/円が急落した2010年のゴールデン・ウィーク

欧州債務危機問題の発端は、2009年のギリシャの政権交代を受けて、前政権の財政「粉飾決算」が発覚したことだった。それにマーケットの注目が集まったのは、2010年の5月、日本のゴールデン・ウィークのタイミングであり、5月3日から始まった1週間で米ドル/円は最大7%以上の急落となった(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の週足チャート(2010年2月~2011年1月)
出所:マネックストレーダーFX

同じ1週間でのユーロ/米ドルの最大下落率は6%程度だった(図表2参照)。わずかではあるが、ギリシャ債務危機という意味では、円より明らかにユーロへの影響が大きそうだが、それにもかかわらず米ドル/円の下落率がユーロ/米ドル以上になったのはなぜだったか。それは、当時のポジションの影響が大きかったのではないか。

【図表2】ユーロ/米ドルの週足チャート(2010年2月~2011年1月)
出所:マネックストレーダーFX

CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、2010年5月初めの段階で売り越しが7万枚近くとなっており、当時としてはかなり米ドル買い・円売りに傾斜していた(図表3参照)。これに対して、ユーロ・ポジションは売り越しが10万枚以上に拡大、すでにかなりユーロ売り・米ドル買いに傾斜していた(図表4参照)。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成
【図表4】CFTC統計の投機筋のユーロ・ポジション(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券作成

ギリシャ債務危機の表面化を受けた当初の米ドル/円の下落が、ユーロ/米ドル以上に大きかったのは、大きく米ドル買い・円売りに傾斜していたポジションが逆流したのに対し、すでにユーロ売り・米ドル買いに傾斜していたポジションの拡大が限られたということだったのではないか。以上のように見ると、2010年5月初めをはるかに上回るほど米ドル買い・円売りにポジションに傾斜した最近の状況を見る際は、英仏政治不安に限らず、何らかのサプライズがポジション・クローズをもたらした場合の影響が大きくなる可能性に要注意だろう。

大国の国債価格も暴落

話を欧州債務危機に戻そう。ギリシャから始まったこの動きは、欧州諸国の財政への懸念として拡大、最終的にはイタリア、スペインなど大国の国債までが暴落に追い込まれる事態となった。

今回の英仏を中心とした政治不安は、インフレなどの国民の不満に応えられない与党から野党へ政権交代を期待するという流れがある。この結果、野党は拡張的な財政政策に動きがちで、かつての欧州債務危機の再現につながりかねない危うさを秘めているのではないか。

2012年にかけて展開した欧州債務危機は、上述のようにイタリア、スペインなど大国にまで波及、両国の国債利回りは7%以上に暴騰(債券価格は暴落)した。これに対して、当時のECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が、「ユーロを守るためには何でもやる」として、懸念された国の国債もECBが買い支える方針を示して、何とか事態は沈静化した。

こうした危機対策を作ったことで、かつてほど欧州債務危機が拡大することはないだろうが、それでも10数年前の欧州債務危機の際には起こらなかった「ユーロ圏第二の大国」フランスの国債暴落が起こった時、やはり世界的な懸念材料になる可能性については予断を許さない。