モトリーフール米国本社 、2024年5月19日投稿記事より

量子コンピューティングでしのぎ

人工知能(AI)の分野はまだ黎明期にありますが、いくつかの企業はすでに、未来のAIの基盤となるかもしれない技術に取り組んでいます。これらの企業は、従来のコンピューターでは数十年かかるような膨大な量のデータを数秒で処理することのできる量子コンピューティング・システムを開発しています。

従来のコンピューターが直線的にデータを処理しなければならないのに対し、量子マシンは複数の計算を同時に実行することで、処理時間を加速させることができます。つまり、量子システムは、最も強力なスーパーコンピューターの能力以上にAIを進化させ、AIによる自動車の運転や病気に対する治療法の発見を可能にします。

これまでに、量子コンピューティング技術を開発する3つの企業が目覚ましい成果を上げています。3つの企業とは、マイクロソフト[MSFT]、IBM[IBM]、イオンQ・インク[IONQ](以下、イオンQ)です。次世代のAIを動かす技術を生み出しているこれらの企業について探ってみましょう。

マイクロソフトはエラー率改善

マイクロソフトは、コンピューターシステムとして広く普及しているウィンドウズが最も有名ですが、AIにも莫大な投資を行っています。その一環として、現在のAIブームの先駆けとなったChatGPTを開発したオープンAIにも投資しています。

量子コンピューティングへの取り組みにより、マイクロソフトは未来のAIシステムを動かす強力な力となる可能性があります。同社は2006年から量子マシンの構築に取り組んでおり、新しいタイプの量子ビット(「キュービット」とも呼ばれます)を開発しています。すべての量子コンピューターは素粒子を使って計算を実行し、その能力は量子ビットで測定されます。

マイクロソフトは2024年4月、量子コンピューターのエラー率を800倍改善させるという画期的な成果を発表しました。素粒子は非常に不安定であるため、計算上のエラーが起こりやすいという特徴があります。

マイクロソフトによれば、同社が実現したエラー率は、記録上最も信頼性の高い量子ビットであることを示しています。これは、次世代のAIを実現できる量子コンピューターの開発において重要な一歩です。

さらに、財務基盤の強さも、マイクロソフトにとって大きな優位性となっています。同社は世界最大級のクラウドコンピューティング事業を構築しており、2024年1-3月期(2024年6月期第3四半期)の売上高は前年同期比17%増の619億ドルでした。

同四半期のフリーキャッシュフローは前年同月比18%増の210億ドルに積み上がりました。同社はこの莫大なフリーキャッシュフローを量子コンピューティングへの投資に充てることができます。

IBMは80超の量子システム展開

IBMのAIへの取り組みは1950年代に遡ります。現在、同社はAIに集中的に取り組んでいます。そのため、量子システムに投資するのは当然の流れです。

実際、IBMは量子コンピューティング分野におけるリーダーの1社とみなされています。2016年には初めて、量子コンピューターをクラウドで使用できるようにしました。それ以来、同社は80を超える量子システムを展開しています。

その一例として、IBMはクリーブランド・クリニックと提携してAIの提供を開始した他、医療研究に特化した初の量子コンピューターを導入しました。また、2023年12月には、1,000量子ビットのプロセッサーを搭載した初の量子コンピューターを発表しました。

IBMも、量子コンピューティング研究の財源として、ゆるぎないフリーキャッシュフロー創出力を持っています。これは、事業投資だけでなく、高水準の配当も可能にしており、足元で約4%の配当利回りとなっています。

IBMの2024年第1四半期のフリーキャッシュフローは、前年同期比43%増の19億ドルでした。会社側は2024年通期のキャッシュフローを約120億ドルと見込んでおり、量子コンピューティング開発への投資継続を確実にしています。

投資対象として考えると、IBMは急成長するハイテク株というよりも、インカム銘柄と言えます。第1四半期売上高は145億ドル。コンサルティング事業とインフラ事業が軟調だったことで、前年同期比でわずか1%の伸びにとどまりました。

しかし、AIや量子コンピューティング関連の売上高が含まれるソフトウェア事業は好調です。同事業の第1四半期売上高は、前年同月比5.5%増の59億ドルでした。

直近77%成長のイオンQ

イオンQは、2015年に設立されたスタートアップです。今回挙げた3社の中で、同社は唯一、量子コンピューティングに特化した企業であり、同社のリソースはすべてこの技術に充てられています。

歴史は浅いですが、イオンQの顧客リストは注目に値します。例えば韓国の現代自動車は、自動運転車の開発にイオンQの技術を活用しています。また、米国オークリッジ国立研究所は、イオンQの量子システムを利用して米国の送電網の改善に取り組む計画です。

こうした成功により、イオンQの2024年第1四半期売上高は前年同期比77%増の760万ドルに達しました。会社側は第2四半期売上高について、少なくとも760万ドルを見込んでいます(前年同期は550万ドル)。

イオンQは、最新の量子技術に関するマイルストーンを予定より1年早く達成しており、同社によれば、2025年には「従来のコンピューターではイオンQのシステムを完全にシミュレーションできなくなる」重要な節目に到達する見通しです。


免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Robert Izquierdoは、IBM、イオンQ、マイクロソフトの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はマイクロソフトの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社はIBMの株式および以下のオプションを推奨しています。マイクロソフトの2026年1月満期の395ドルコールのロング、同2026年1月満期の405ドルコールのショート。モトリーフールは情報開示方針を定めています。