増加するJ-REITの自己投資口取得

J-REIT価格は、2月から3月中旬まで大幅に下落していたため、投資口(株式に相当)の取得を公表する銘柄が増えている。2023年は3銘柄であったが、2024年は2月にジャパンエクセレント投資法人(8987)、3月にKDX不動産投資法人(8972)、4月にラサールロジポート投資法人(3466)、大和ハウスリート投資法人(8984)、日本都市ファンド投資法人(8953)の5銘柄が既に公表している。5銘柄ともに決算と併せて公表した。

J-REITの自己投資口取得は、消却と併せて実施されため、投資口取得分の発行済投資口が減少し、分配金の引き上げ効果が生じる。また、運用側から現状の価格が割安過ぎるというアナウンスメント効果はありそうだ。

実質的な効果は限定的

J-REITで3銘柄を傘下に持つ三井不動産(8801)は、4月12日に新たに長期計画を公表し株主への利益還元を強化する方針を公表した。具体的には配当性向の引き上げと自社株買いを併せ、当期純利益に対する総還元性向を50%以上に強化するというものであった。

この公表を受けて三井不動産の株価は4月12日に大幅に上昇した。しかし、前述したJ-REITの投資口取得の公表による価格上昇は起きていない。この理由は、J-REITでは実質的に配当性向が100%であり、上昇の余地がないことが影響している。

三井不動産が公表した自社株買いは発行済株式数の1%強程度であり、J-REITの投資口取得と比率としては違いが少ない。しかし、配当性向の引き上げにより、投資家への利益還元強化が投資家に評価された形だ。

J-REITの投資口取得はアナウンスメント効果だけであり、2024年に公表済の5銘柄は業績予想への影響を加味していない。投資口価格変動によって取得する投資口数が変動する点も影響しているが、口数の減少率が小さいことが大きく影響している。つまり、配当性向100%のJ-REITにおいて、投資家の利益還元は投資口取得を行っても投資口減少率が低いため、分配金への実質的な効果は極めて限定的となっている。

銘柄側は有効な資金活用を検討すべき

J-REITは資産規模を拡大するために上場企業と比較すると増資を頻繁に行う必要がある。例えば、三井不動産が2014年に行った増資は32年ぶりであったが、資産規模拡大を進めている傘下の三井不動産ロジスティクスパーク投資法人(3471)は、2020年から2023年の直近3年だけで4回も増資を行っている。

つまり、J-REITは事業会社と比較して増資により投資口数が頻繁に増加していく仕組みになっている。言い換えれば、自己投資口の取得は、その後の増資で投資口が増加するという「矛盾」する動きとも言えるのだ。

自己投資口の取得は価格上昇の要因となりにくいため、銘柄側はその資金の有効活用を検討すべきと考えられる。例えば、借入金の返済は今後有効になる可能性が高い。これまでは極めて低い金利水準で資金調達を行うことが出来たため、余剰資金の有効活用とは言えない状態であった。しかし、日銀が利上げの可能性を示唆している中では、自己投資口取得よりも有効となりそうだ。