3年ぶりのPER17倍乗せ、大企業製造業は2024年後半に上方修正の可能性

4月下旬から3月決算企業の決算発表が始まる。日経平均株価は2024年3月末までの1年間で1万2,328円(44%)もの上昇を示した。これはデフレ(物価の継続的下落)からの脱却と日本経済の正常化を評価したことが主因だが、この流れに乗り企業業績も拡大したことが大きな要因となっている。

3月末時点での日経平均株価のPERは17.0倍。1株利益は2,365円。株価の上昇を背景に、PERの17倍乗せは3年ぶりとなっている。安心して上値を追うためには、2025年3月期にどの程度の増益を打ち出してくるかによる。仮に1株利益が2,500円なら増益率は5.7%で、PER17倍は4万2,500円ということになる。

なお、4月1日に発表された日銀短観(3月調査)では大企業製造業の2024年度の経常利益見通しは前年比4.0%減となった。2023年度は前回予想に比べ4.3ポイント上方修正の前年比7.4%増だった。上場企業でも2024年3月期は上振れる一方で、2025年3月期は少なくとも期初の予想は慎重になることも予想される。為替の前提レート(全規模・全産業ベース)は141円68銭となっている。

ただし、2023年4月に発表された日銀短観(3月調査)でも当初の業績予想は慎重だった。大企業製造業の2023年度経常利益見通しは前年比2.7%減益予想で、為替前提は131円72銭(同)だった。前述したように前期の経常利益は結局同7.4%増益となった。為替の動向にもよるが、2024年後半には上方修正に進む可能性も高いと言えそうだ。

決算で注目の3つのポイント、依然として関心の高い半導体・AI関連企業動向

決算では大まかに(1)2024年3月に市況の軟調から減益になった半導体関連企業について、今期を会社側がどう見ているか、(2)デフレ脱却や賃上げで小売り、レジャーなど内需企業への業績反映動向、(3)為替が1ドル150円台まで進み、円安による効果が得られにくくなっているか、の3点が注目される。

特にテーマとして大きい半導体・AI関連企業の動向への関心が高い。2024年3月期基準で、前期会社計画が減益だった主な企業の3月末PERが下記の図表1の通りとなる。

【図表1】前期会社計画が減益だった主な企業の3月末PER(2024年3月期基準)

銘柄  銘柄コード  営業利益(前年比) PER(倍)
東京エレクトロン (8035) 4450億円(28%減) 53.8
アドバンテスト (6857) 850億円(49%減) 78.0
ディスコ (6146) 1086億円(2%減) 83.4
TOWA (6315) 81.6億円(19%減) 46.7

出所:筆者作成  ※日経平均株価 17.0

成長株の評価が加わっているため、市場平均よりも高いのは不自然ではない。ただ、70~80倍のPERはさすがに上値への警戒感も生まれやすい水準と言える。2025年3月期に会社側がどう見ているのか、PERがどの程度低下するのかへの関心は高い。

また、バリュー面では、2024年3月期は増配や自社株買いが目立った1年間であった。東京証券取引所はPBR1倍割れ修正促進策を打ち出して2年の成果で、企業はROE向上や資本効率の改善を相次いで打ち出した。

2025年3月期も株主還元強化の動きが続くかは株価形成にも大きな影響を与える。配当利回りの高さを評価し、新NISAのスタートもありバリュー株の水準訂正は進んだ一方で、株価上昇で利回り面の魅力が後退した企業も少なくない。

【図表2】主なバリュー株の3月末PBR(倍)、配当(2024年3月期)と利回り(%)

銘柄 銘柄コード 3月末PBR 配当 利回り
三井住友フィナンシャルグループ (8316) 0.8 270円 3.0
住友商事 (8053) 1.0  125円 3.4
日本製鉄 (5401)  0.7 160円  4.3
本田技研工業(ホンダ) (7267)  0.7 58円  3.0

出所:筆者作成

商社では伊藤忠商事(8001)や三菱商事(8058)などの最大手クラスは既にPBR1倍を上回り、メガバンクでは三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)の配当利回りは魅力的とは言い難くなっている。決算発表時点で自社株買いや増配など、改めて株主還元策を打ち出すのかへの関心は高い。

為替市場は直近で1ドル154円台にまで米ドル高・円安が進んでいる。市場では円安による輸出企業へのメリットが言われるが、その一方で輸入物価の上昇によるコスト上昇も懸念される。企業が業績予想の為替前提をどこに置き、影響をどう見ているかもチェックしておきたい。