◆松本大も、センター試験の問題を見て、英語以外、解ける気がしないとつぶやいていたが、僕も同じである。例えば現代社会の第2問-問1。企業をめぐる制度や状況に関する記述として最も適当なものを選べという問題。
【1】 株式会社の出資者である株主に対して、企業は出資の対価として利子を支払う。
【2】 所有(資本)と経営の分離とは、専門の経営者が企業経営の実権を握ることである。
【3】 日本では、ベンチャー企業向けの資金調達を主な目的とする株式市場は存在しない状況にある。
【4】 日本では、公正取引委員会は、消費者契約法に基づき、企業が公正な競争をするよう監視している。

正解は【2】。消去法でも【2】しかないが、どうも釈然としない。

◆先日の新聞報道によると、積極的な自社株買いの結果、自社が「筆頭株主」となっている上場企業が一段と増えているそうだ。会社は株主のものであるとするなら、理屈のうえでは、なんら問題はない。しかし、こうした自社株買いのなかには、役職員のストックオプションの行使に備えるものや、創業一族の保有株を買い取るものなどが含まれる。既存株主のためというより、経営者自らの立場を意識して行われる場合も少なくないように映る。

◆資本の収益率は国民所得の成長率を上回る。よって資本家に富が偏在し格差が拡大する。それがピケティ『21世紀の資本』の主要メッセージである。上位1%の富裕層が多くの収入を獲得するなど米国の所得格差は際立っている。オバマ大統領は富裕層への資産課税強化を打ち出す方針だ。しかし、米国の高額所得者の収入の多くは、企業経営者への高額報酬である。資本主義というのは、ある種の「奪い合い」だから、経営者がそれだけ巨額の報酬を手にするということは、他のステークホルダーが搾取されているということであり、そのなかには資本家=株主も含まれるケースがあるだろう。

◆確かに資本と経営の分離は図られている。しかし、それはコーポレート・ガバナンスが正常に機能しているかとは別問題である。専門の経営者が実権を握ったのは「企業経営」のみか。分離されているはずの「資本」が、彼らによって浸食されているのではないか。それが【2】が正解と言われて釈然としない理由である。

マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木 隆